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ID番号 07287
事件名 出向命令無効確認請求事件
いわゆる事件名 神戸製鋼所事件
争点
事案概要  大手鉄鋼総合メーカーの社員が関連会社への出向命令を受けたことにつき、就業規則及び労働組合との出向協定に基づくものであり、業務上の必要性があり、労働条件について著しい不利益を与えるものでもなく、組合活動上不利益を受けるものではないとして、人事権の濫用に当たらず有効とされた事例。
参照法条 労働基準法2章
労働組合法16条
民法1条3項
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 出向命令権の根拠
配転・出向・転籍・派遣 / 出向命令権の限界
裁判年月日 1999年2月18日
裁判所名 神戸地
裁判形式 判決
事件番号 平成6年 (ワ) 1742 
裁判結果 請求棄却(控訴)
出典 タイムズ1009号161頁
審級関係
評釈論文 飯島健太郎・平成11年度主要民事判例解説〔判例タイムズ臨時増刊1036〕386頁2000年9月
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-出向命令権の根拠〕
 一 本件出向命令の根拠について
 1 前記争いのない事実及び証拠(甲七、一二、乙一、三、四、一六、一七、証人A、原告本人)によれば、本件出向命令が出されるまでの経緯に関し、次の事実が認められる。
 (一) 被告は、昭和五八年ころから、要員合理化を含むコスト削減計画を推進しており、その一環として、出向を伴う業務移管を行ってきた。
 被告は、要員合理化計画について、B労組との間で協議し、B労組は、右計画について理解を示す旨の見解を示し、出向先の開拓による雇用確保への取り組みを要請している。
 (二) 被告は、平成六年二月三日、B労組に対してC会社への出向を提案し、同月七日には、B労組神戸支部に対し、第一次製鉄所労務協議会において同様の提案をし、同月二三日にはB労組神戸支部との間で第二次製鉄所労務協議会を開催した。B労組神戸支部は、同年三月七日、被告総務部長に対し、文書でC会社への出向を了承する旨回答した。
 また、被告は、労働組合の要請により、労働組合との協議と並行して、同年二月八日から同月一二日にかけて第一回の、同月二三日から同月二六日にかけて第二回の職場における説明会を行うとともに、同年三月七日から同月一四日にかけて出向対象者九五名に対して個人面接を行い、原告を除く九四名が出向に同意した。
〔配転・出向・転籍・派遣-出向命令権の限界〕
 平成六年三月当時、被告は、経常利益の減少、粗鋼生産量の減少といった経営困難な状況にあって、要員の合理化を図る必要があり、また、被告は、経営方針として、協力会社を含めたグループ全体での競争力の強化を図っていたことが推認できるから、要員合理化の方法として被告従業員の雇用を確保しつつコストを削減し、あわせて業務移管先である関連会社も含めたグループ全体としての競争力の強化を図る本件業務移管は、企業経営の方針として合理性があり、業務上の必要性があると認められる。〔中略〕
〔配転・出向・転籍・派遣-出向命令権の根拠〕
 本件出向により、原告の収入が減少した点を見る限りでは原告の労働条件が低下したことは否定できないが、前記のとおり本件出向においては、基本給・一時金については被告の基準が適用されていること、収入の減少は、三交替勤務から常昼勤務への移行に伴い交替手当がなくなるとともに、時間外勤務がほとんどなくなり時間外勤務手当が減少したためであること(乙三、原告本人)、被告Y会社においては、年間数十名が常昼勤務と交替勤務の間で勤務態様を変更していること(乙一八、証人A)、被告から、本件出向直後に四直三交替勤務への配置換えについての打診があったにもかかわらず原告がこれに応じていないことを考慮すると、本件出向により、原告の労働条件が大幅に低下し、著しい不利益を受けているとまでは認められない。
 (三) 原告は、右の賃金等の不利益の他に、〔1〕定年まで数年を残す段階では、定年まで被告で勤務し、現在の収入を維持する利益は、重要かつ具体的な利益というべきであること、〔2〕緑化業務は、原告にとって初めての経験で、それまで培った製鉄作業における知識、経験は全く役に立たないものとなってしまったこと、〔3〕本件出向により労働組合の役員選挙の被選挙権を失い、組合活動をする上で大きな不利益を被ったことから、本件出向により著しい不利益を受けた旨主張する。
 しかし、〔1〕の点については、前記のとおり、原告は被告従業員としての地位を失ったわけではないし、原告の労働条件は概ね被告の基準によっていること、〔2〕の点については、右緑化業務は、D会社設立以前は被告内部の業務であり、工場立地法により生産設備の一部の緑化が義務づけられていることから、被告にとって必要な業務であること、本件出向は、前記二の2の(一)のとおり、要員整理の一環として原告の就労していた鋼片室一加工係の業務がC会社へ移管され、原告のそれまでの担当業務が喪失したことにより行われたものであること、原告がC会社への出向に応じていれば、労働条件は四直三交替勤務から三直三交替勤務に移行することにより若干低下するものの、原告の主張する不利益は回避できたこと、鋼片室内に原告の受入先として適当な部署はなく、右状況において、原告を他の部署に配置し、それにより生じる別の余剰人員を出向させるのはかえって人選の合理性に疑問が生じること、〔3〕の点については、原告は、これまで一般組合員としての立場で、労働組合執行部に対して請願書を提出するなどの意見表明を行っていたところ(甲五、六)出向先においても、組合員としてこのような意見表明をする権利は失われていないこと、原告は、昭和六二年一〇月に被告Y会社に配属されて以降、組合員としてこのような意見表明をする権利は失われていないこと、原告は、昭和六二年一〇月に被告Y会社に配属されて以降、組合役員選挙の際に立候補していないこと(原告本人)に鑑みれば、原告の主張する〔1〕から〔3〕の点は、前記2の業務上の必要性を勘案してもなお本件出向命令を無効とすべきほどの著しい不利益とまでは認められない。