全 情 報

ID番号 07289
事件名 退職金請求事件
いわゆる事件名 東北ツアーズ協同組合事件
争点
事案概要  懲戒解雇に伴い退職金が支給されなかったケースにつき、本件では給与規定、労働契約において懲戒解雇された従業員には退職金を支給しないという内容の付款は設けられておらず、事実たる慣習も成立していないとして、退職金請求が認められた事例。
参照法条 労働基準法89条3の2号
体系項目 賃金(民事) / 退職金 / 懲戒等の際の支給制限
裁判年月日 1999年2月23日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成9年 (ワ) 21555 
裁判結果 一部認容、一部棄却(確定)
出典 労働判例763号46頁/労経速報1710号3頁
審級関係
評釈論文 奥野寿・ジュリスト1190号139~141頁2000年12月1日
判決理由 〔賃金-退職金-懲戒等の際の支給制限〕
 そもそも使用者には退職金の支払義務があるわけではないから、労働契約に反しない限り、その支給条件をどのように定めることも自由であると考えられること、一般に退職金には賃金後払いの性質だけでなく、功労報償の性質もあることは否定し難いことにかんがみれば、懲戒解雇された従業員には退職金を支給しないという内容の付款が一般的に不合理なものとして効力を有しないということはできない。そして、本件において被告による退職金の支給について支給条件として懲戒解雇された従業員には退職金を支給しないという付款を設けることが原告らと被告との間の労働契約に反するとまでいうことはできないのであって、被告による退職金の支給について支給条件として懲戒解雇された従業員には退職金を支給しないという内容の付款を設けることも許されるというべきである。
 (三) 次に、被告による退職金の支給について支給条件として懲戒解雇された従業員には退職金を支給しないという内容の付款が設けられていると認められるかどうかであるが、退職金の支給については労基法一五条一項、八九条一項、同法施行規則五条一項が、退職金の定めをするときは、それに関する事項を労働契約の締結の際に明示し、所定の手続によって就業規則に規定しておかなければならないとしているので、被告による退職金の支給について支給条件として懲戒解雇された従業員には退職金を支給しないという内容の付款を設けるのであれば、そのような内容の付款をあらかじめ就業規則において定めておくべきであるが、仮に就業規則にそのような付款が定められていなかったとしても、個々の労働契約においてそのような付款を設けることを合意することは当然に許されるものと解され、また、就業規則においてそのような付款を設けていなくとも、そのような付款が存在することを前提に退職金の支給に当たってはそのような付款が適用されるという事実たる慣習が成立しているものと認められる場合には、被告による退職金の支給について支給条件としてそのような付款が設けられていると認めることができる。
 そこで、これを本件について見るに、退職金の支給について定めた本件給与規程には退職金の支給条件として懲戒解雇された従業員には退職金を支給しないという内容の付款は設けられていない。また、前記のとおり原告Xはその本人尋問においてかつて横領などの理由で懲戒解雇された被告の従業員に退職金が支払われなかったことについてこれを是認する趣旨の供述をしているが、原告Xは、横領などを理由に懲戒解雇された場合には懲戒解雇の原因とされた横領などの行為によって被告に一定の財産的損害が発生し、この財産的損害のてん補には被告から支給される退職金をもって充てるとすれば、いちいち被告が懲戒解雇された従業員に退職金を支給する必要はないと考えて、右のとおり供述したものとも考えられるから、右の供述から直ちに原告らと被告との間の労働契約において退職金の支給について支給条件として懲戒解雇された従業員には退職金を支給しないという内容の付款を設けることを合意したことを認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。そして、証拠(〈人証略〉)によれば、被告が懲戒解雇した従業員に対し退職金を支給しなかった例があることが認められるが、そのような例があるというのは、要するに、被告から懲戒解雇され退職金を支給されなかった従業員が退職金を支給されなかったことについて被告に対し何らの異議も述べなかったということを意味するものと考えられるが、懲戒解雇された従業員が退職金を支給されなかったことについて異議を述べなかったのは、懲戒解雇の原因とされた横領などの行為によって被告に一定の財産的損害が発生し、この財産的損害のてん補には被告から支給される退職金をもって充てるとすれば、いちいち被告に退職金の支給を求めるまでのことはないと考えたことによるものとも考えられ、そうであるとすると、退職金を支給しなかった例があるというだけでは、就業規則において退職金の支給条件として懲戒解雇された従業員には退職金を支給しないという内容の付款を設けていなくとも、そのような付款が存在することを前提に退職金の支給に当たってはそのような付款が適用されるという事実たる慣習が成立していると認めるには足りないというべきである。他に右にいう事実たる慣習が成立していることを認めるに足りる証拠はない。
 そうすると、被告による退職金の支給について支給条件として懲戒解雇された従業員には退職金を支給しないという内容の付款が設けられていると認めることはできない。
 3 以上によれば、原告らが懲戒解雇されたからといって、被告はそのことを理由に本件退職金の支払を拒否することはできない。