全 情 報

ID番号 07304
事件名 慰謝料請求事件
いわゆる事件名 アラウン事件
争点
事案概要  被告会社の従業員である原告が、休憩時間を全く付与されなかったことが債務不履行(安全配慮義務違反)に該当するとして損害賠償を請求した場合につき、休憩を取得できなかったということはできないとして、右請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法34条
民法415条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任
休憩(民事) / 「休憩時間」の付与 / 休憩時間の不付与と損害賠償
裁判年月日 1999年3月19日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成10年 (ワ) 5651 
裁判結果 棄却
出典 労経速報1706号23頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕
〔休憩-「休憩時間」の付与-休憩時間の不付与と損害賠償〕
 被告は、堂島事業所において、昭和六三年以前は、従業員に対し、夕方勤務において明示的には休憩時間を付与していなかったが、原告がこれを労基署に訴えたことから、昭和六三年三月二九日労基署の是正勧告を受け、それ以降は一九時ころから四五分ずつ交替で休憩を取得するよう従業員に指示し、これに伴い、夕方勤務の契約人数も二人から四人に増員した。また、被告は、同年六月二〇日及び九月一二日、労基署に対し一せい休憩除外許可申請書を提出し、その許可を受けた。
 なお、被告は、このころ原告を解雇したが、その後解雇を撤回し、原告は、同年夏ころ堂島事業所に復帰した。
 (三) 右被告の指示により、堂島営業所においては、当初、一九時ころ、四名の担当者の間で休憩に入る順番を決め、時間が来れば、お互い声を掛け合って誰が休憩しているのか明確にするようにしていたが、もともと、一九時以降は電話の本数が少なくほとんどが待機時間というのが実情であって、その間は休憩時間のように過ごすことができ、離席も自由であったため、その後、原告を含め、大半の従業員が意識して休憩時間を取得することはしなくなった。もっとも、休憩時間を取得して外出することは可能であったが、夜間であることもあって、実際に外出する社員はほとんどなかった。
 このような勤務状況に対しては、昭和六三年以降、原告も含め、従業員から苦情が出たことは全くなかった。
 3(一) 以上によれば、堂島事業所においては、昭和六三年以降は、夕方勤務においても休憩時間を取得することは可能であったというべきである。確かに、右のとおり、堂島事業所においては、昭和六三年ころの一時期を除き、明確に時間を特定して休憩を取得することはされていなかったことが認められるが、それは、待機時間が長い業務の性質上外出する必要性がない限り時間を特定して休憩を取得する必要性に乏しかったことから、従業員の間で事実上そのような慣行が形成されていたに過ぎず、前記認定のような勤務実態に鑑みれば、そのような慣行が労働者の休憩時間の取得を不当に妨げるものであるとはいえない。そして、(人証略)によれば、かかる慣行のもとでも、四五分間の休憩を取得して外出することが禁じられていたわけではなく、現実にも休憩を取得することは可能であったと認められるから、休憩を取得することができなかったという原告の主張は理由がない。
 この点に関し、原告は、電話の対応に追われて休憩が取得できる状況になかったとも主張するけれども、その業務内容に関する原告本人の供述は、電話の本数が一九時台には合計一〇〇本以上あったと供述したり、また、二〇本程度であると供述したりして一定しないばかりか、(書証略)とも合致せず、信用し難い(なお、原告本人は、かつては現在よりも多忙であったとの趣旨の供述をするが、他に客観的証拠はないし、かえって、(人証略)によればここ一〇年間で基本的に違いはないことが認められるので、採用できない)。また、原告本人も、電話対応以外の時間に食事に行くことは許されていたこと、離席してはならない旨の指示はなかったこと、電話のないときには本を読んだりコーヒーを飲んだりしていたことは認める趣旨の供述をしており、原告本人の供述を前提としても、休憩時間も取得できないほど多忙であったとは到底考えられない。
 なお、証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、障害受付業務の他にストック業務(コンピュータ部品の発送関連業務)に従事することもあったことが認められ、原告は、右ストック業務における休憩も問題にするようである。しかしながら、前掲証拠によれば、ストック業務の勤務場所は、平成六年一月までは堂島事業所の障害受付業務と同一であったが、それ以降は土佐堀に移転したことが認められるところ、(人証略)によれば、ストック業務が堂島事業所において行われていた間の休憩の取得状況は前記認定と同様であったことが認められ、勤務場所が移転した平成六年以降については、原告がこれに従事した頻度は明らかでないし、ストック業務において休憩が取得できなかったことを窺わせる証拠はない。
 したがって、被告に休憩時間を取得させなかった債務不履行があるとは認められない。