全 情 報

ID番号 07306
事件名 配転命令無効確認等請求事件
いわゆる事件名 古賀タクシー事件
争点
事案概要  タクシー運転手から営業係への配転命令につき、本件労働契約においては、原告の職種は自動車の運転業務に限定されており、本人の同意なく一方的に使用者が配置転換を命ずることはできないとされた事例。
 労働契約で職種が限定されている場合でも、配置転換を認める強い合理性が認められ、労働者がこれに同意しないことが同意権の濫用とされる場合があるが、本件には強い合理性は認められないとされた事例。
参照法条 労働基準法2章
民法1条3項
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令の根拠
裁判年月日 1999年3月24日
裁判所名 福岡地
裁判形式 判決
事件番号 平成9年 (ワ) 2895 
裁判結果 認容(控訴)
出典 労働判例757号31頁/労経速報1702号16頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令の根拠〕
 1 被告会社の就業規則一八条(〈証拠略〉)には、「会社は業務の必要により、従業員に職務、職種、職場、勤務地等の異動、又は出向を命ずることがある。この場合、正当な理由なくこれを拒否することはできない。」と規定されている。
 被告は、この規定を根拠に、労働者の同意なく配置転換ができると主張するが、この規定は、一般的に使用者が労働者に対し、配置転換を命ずる根拠となるものであるが、職種を限定された労働者を同意なく自由に配置転換することができる根拠となるものとは解されず、被告の主張は採用できない。
 そこで、原告の職務が限定されたものであるかについて検討する。
 証拠(〈証拠略〉)によれば、被告会社が原告を本採用するに当たって作成された契約書には不動文字で、表題として「労働契約書(乗務員)」、業務内容として「一般乗用旅客自動車運送事業用自動車の運転と付随する業務」と記載されていることが認められる。この契約書の文言によれば、採用時に右文言によらない特別な合意がない限り、本件労働契約においては原告の職種は「一般乗用旅客自動車運送事業用自動車の運転と付随する業務」に限定されていたものと解するのが相当である。
 前記認定のとおり、営業補助の職務はタクシー乗務員の職務とは別の職務と解すべきであるから、本件の配置転換は職務の限定を越えるものであり、労働者の同意なく一方的に使用者が配置転換を命ずることはできないものである。
 2 もっとも、労働契約において職種の限定が認められる場合でも、労働者に配置転換を命じることに強い合理性が認められ、労働者が配置転換に同意しないことが同意権の濫用と認められる場合は、労働者の同意がなくても、配転命令が許される場合がありうると解される。
 そこで、右の事情が認められるかについて検討する。証拠(〈証拠・人証略〉)によれば、被告会社に〔1〕ジャンボタクシーの運行増加、〔2〕営業係の不足、〔3〕乗務係の過剰という事情があったことが認められる。しかしながら、原告の意思を無視してまで、配置転換を強行するほどの必要性や、営業補助に原告以外の余人をもっては代え難いという職務の特殊性はなく、本件命令に強い合理性があるとは認められない。証拠(〈人証略〉)によれば、A部長は原告に対し賃金体系が異なるのにその十分な説明もしていないし、原告が妻と相談するから待ってくれと言っているのに、翌日から担当車を取り上げて、タクシー乗務を禁止していることが認められるが、この対応は性急であり、労使関係の信義則に反するといえるものである。
 以上のとおり、本件には労働者に配置転換を命じることに強い合理性が認められるべき事情はなく、労働者が配置転換に同意しないことが同意権の濫用とはならないというべきである。
 三 以上によれば、本件命令は無効であり、原告は被告の責めに帰すべき事由により、タクシー乗務員として就労できなかったものであるから、民法五三六条二項により、反対給付としての賃金請求権を失わないものである。