ID番号 | : | 07309 |
事件名 | : | 退職金等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | ソニー生命保険会社事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 生命保険会社の営業社員が会社から貸与されたパソコンを質入れしたことを理由とする懲戒解雇につき、営業社員の業務には、顧客から保険料などの金銭を預かることも含まれていることから、金銭にはとりわけ潔癖性が要求されるとして、右懲戒解雇が有効とされた事例。 懲戒解雇を理由とする退職金不支給につき、就業規則にその旨の定めがあるとして、支給請求が棄却された事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法89条3の2号 労働基準法89条9号 |
体系項目 | : | 賃金(民事) / 退職金 / 懲戒等の際の支給制限 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務上の不正行為 |
裁判年月日 | : | 1999年3月26日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成10年 (ワ) 23976 |
裁判結果 | : | 棄却(確定) |
出典 | : | 労働判例771号77頁/労経速報1697号26頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務上の不正行為〕 被告のライフプランナーは、生命保険会社の営業社員であり、顧客から保険料等金銭を預かることも業務に含まれることからすれば、金銭に対しては、とりわけ潔癖性が要求されるのであって、そのことからすれば、被告の損害額が約二〇万円とさして大きくなく、質入れによる原告の利得がわずかであったとしても、見過ごしにはできない非行であることは否定できない上、パソコンを質入れしている期間、原告はパソコンを使用できず、被告の方針に反していたほか、業務上全く支障がなかったともいえず、原告の職務遂行態度に問題があることも否定できない。 また、貸与パソコンには、被告の機密情報や被告の開発したシステムがインストールされており、それらが外部に漏洩されることで被る被告の損害は計り知れない。前記のとおりパソコンにはセキュリティーが施されているとしても、そうしたセキュリティーが完全なものでないことは経験則上明らかであり、原告の行為によって、被告の機密情報等が外部に漏洩される危険があったことも否定できない。なお、原告は、この点に関して、ライフプランナーが携帯して被告外部に持ち出していることこそ危険であるかのような主張もするが、被告は従業員との信頼関係を前提として各従業員に対しパソコンを貸与しているのであって、第三者の手に渡ることとはその危険性は全く性質を異にしており、原告の主張は理由がない。 さらに、原告が、同僚が被告から貸与されていたパソコンを質出しするために、原告が貸与されていたパソコンを質入れしたのは前記のとおりであり、出来心でやむを得なかったとも主張する。同僚のためであれば、確かに原告自身が利得した場合に比較して悪質ではないとも言えるが、一方、同僚のパソコンを質出しするためというのは、同僚の被告に対する非行を隠蔽、助長する行為とも評価できるのであって、その動機においても決して許されるべきものではない。 なお、原告に対する本件解雇が見せしめ的なものである旨原告は主張し、原告は、その本人尋問において、被告には、原告と同様の行為をしている者が数名いる旨供述するが、同時に発覚していないとも供述しており、そうであれば、被告としても処分できないのもやむを得ないところであり、原告の供述するように、他にも同様の行為し(ママ)ている従業員がいたとしても、原告の行為の悪質性も考慮すれば、右供述から直ちに本件解雇が見せしめ的なものであったということはできないと言うべきである。 これらのことからすれば、原告の行為に対する懲戒解雇の処分が重すぎるということはできず、他に原告の主張を認めるに足りる証拠もない。 (二) 前記認定によれば、被告は一時間にわたり、原告から事情聴取を行っており、原告は、その際、事実を認め、また、同僚のためにパソコンを質入れしたとの弁明もしている。そのことからすれば、被告は、懲戒処分を行うときは弁明の機会を与える旨定めた就業規則三三条所定の懲戒手続(〈証拠略〉)を取ったことが明らかであるし、前記のとおり、就業規則三一条(5)所定(〈証拠略〉)の労働基準監督書(ママ)署長の解雇予告期間除外認定も受けており、本件解雇手続に違法な点はない。 (三) したがって、本件解雇には、合理的な理由があり相当であり、懲戒権の濫用には当たらず、有効である。 〔賃金-退職金-懲戒等の際の支給制限〕 1 退職金について 前記のとおり、本件解雇は有効であるところ、被告の退職金規程三条一項によれば、懲戒解雇の場合、退職金は支給されない旨規定されていること(〈証拠略〉)から、原告には退職金請求権は認められない。 |