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ID番号 07317
事件名 損害賠償請求控訴事件、仮執行の原状回復及び損害賠償請求事件
いわゆる事件名 三菱重工業神戸造船所(振動障害)事件
争点
事案概要  第一審被告会社で本工又は社外工として就労していた労働者が、造船所での作業によって振動障害に罹ったとして第一審被告の安全配慮義務違反等に基づき損害賠償を請求していたケースで、安全配慮義務違反等に基づき会社の損害賠償義務を認めた原審判決を相当として会社側の控訴が棄却された事例。
参照法条 民法1条2項
民法415条
労働基準法84条2項
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任
労災補償・労災保険 / 損害賠償等との関係 / 労災保険と損害賠償
裁判年月日 1999年3月30日
裁判所名 大阪高
裁判形式 判決
事件番号 平成6年 (ネ) 1839 
平成6年 (ネ) 1977 
平成7年 (ネ) 2129 
裁判結果 棄却(確定)
出典 労働判例771号62頁
審級関係 一審/06372/神戸地/平 6. 7.12/昭和56年(ワ)893号
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕
 一審原告らの主張した安全配慮義務の内容は、前記のとおり、本件振動工具の使用により振動曝露にならないようにすること、その予防のために振動工具を使用しないような作業工法への改善及び振動工具そのものの改善をすること、振動工具を使用するとしても振動曝露防止のための振動保護具等の活用をすること、振動に曝露されている時間を短くすること、振動曝露の職場からの一審原告らの配置転換などであり、右内容は、原判決の事実欄第二編各論において、一審原告らの作業歴と振動工具の使用状況として主張されていることを併せ考慮すれば、より具体化されて主張されているといえる。安全配慮義務が、前記説示のとおり、労働者の生命、身体、健康等を危険から保護すべき義務であり、これらに対する危険な侵害の予防、除去は何にもまして最優先すべきものといえるから、一審原告らにより労働安全衛生法上の前記各規定に基づき右安全配慮義務違反の事実を主張すれば、債務不履行の事実としての安全配慮義務違反の事実の主張としては十分であり、右以上に一審原告らに具体的な安全配慮義務違反の事実主張を要求することは、安全配慮義務を認めた前記趣旨に反するというべきである。〔中略〕
 一審原告らのうちの社外工は、一審被告神戸造船所の構内で、一審被告の指示に基づき一審被告の本工と一緒に同一の作業をしたり、一審被告の職制から指示を受けた下請企業のボーシンの指示により下請企業のためにもうけられた区画で作業したり、使用工具に関する圧縮空気等の提供を受けていたことなどからすると、一審被告は、社外工に対する前記安全配慮義務を負担していたといえるから、一審被告の右主張は採用しない。〔中略〕
〔労災補償・労災保険-損害賠償等との関係-労災保険と損害賠償〕
 労災保険により労働者に対し支給される休業特別支給金は、被災労働者の療養生活の援助等によりその福祉の増進を図るために行われるものであり、業務災害による労働者の損害をてん補する性質を有する労災保険法による保険給付とは異なるものであるので、被災労働者が労災保険から受領した特別支給金をその損害から控除できない(最高裁判所平成六年(オ)第九九二号同八年二月二三日第二小法廷判決民集五〇巻二号二四八頁参照)ことからすると、精神上の損害をてん補する目的を有するものでないことは明らかである。