全 情 報

ID番号 07329
事件名 賃金等請求控訴事件
いわゆる事件名 片山組(差戻審)事件
争点
事案概要  建築工事現場で長年にわたり現場監督業務に従事してきた労働者が、バセドー氏病のため現場作業に従事できないと申し出たところ、会社から自宅治療命令を受け、約四か月間欠勤扱いとして賃金が支給されず、冬期一時金も減額されたためその措置を不当として賃金等を請求したケースで、最高裁は、原告の請求を認めた第一審判決を取り消した原判決(高裁判決)を破棄し、原審に差し戻していたが、その差戻審の判決で、最高裁判決と同様の観点から、労働者の賃金請求が認容された事例。
参照法条 労働基準法11条
労働基準法2章
労働基準法3章
民法415条
体系項目 休職 / 休職期間中の賃金(休職と賃金)
労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 債務の本旨に従った労務の提供
裁判年月日 1999年4月27日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 平成10年 (ネ) 1425 
裁判結果 棄却(上告)
出典 労働判例759号15頁/労経速報1710号16頁
審級関係 上告審/07115/最高一小/平10. 4. 9/平成7年(オ)1230号
評釈論文 高畠淳子・民商法雑誌121巻4・5号184~191頁2000年2月
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-債務の本旨に従った労務の提供〕
 控訴人は、被控訴人が本件工事現場の現場監督業務に従事することが困難であり、被控訴人の健康面・安全面でも問題が生ずるとして本件自宅治療命令を発したものであるが、被控訴人は、本件不就労期間中、本件工事現場における現場監督業務のうち現場作業における労務の提供は不可能であり、事務作業に係る労務の提供のみが可能であって、本件自宅治療命令を受けた当時、右可能な労務の提供を申し出ていたものと認めるのが相当である。〔中略〕
 労働者が職種や業務内容を特定せずに労働契約を締結した場合においては、現に就業を命じられた特定の業務について労務の提供が十全にはできないとしても、その能力、経験、地位、当該企業の規模、業種、当該企業における労働者の配置・異動の実情及び難易等に照らして当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労働の提供をすることができ、かつ、その提供を申し出ているならば、なお債務の本旨に従った履行の提供があると解するのが相当である(本件に係る差戻前の上告審判決である最高裁平成一〇年四月九日第一小法廷判決参照)。〔中略〕
 以上認定の被控訴人の能力、経験、地位、控訴人の規模、業種、控訴人における労働者の配置・異動の実情及び難易等に照らすと、本件自宅治療命令発令当時、控訴人には、被控訴人のような多年にわたり現場監督業務に従事していた者にも遂行可能な事務作業業務が少なからず存在し、被控訴人に現場監督業務以外従事させる業務がなかったとはいえず(少なくとも、当面、待機中であった被控訴人以外の現場監督を本件工事現場における現場監督業務に従事させ、被控訴人を工務監理部において事務作業に従事させることは可能であったというべきである。)、被控訴人をこの業務に配置する現実的可能性があったものと認められる。〔中略〕
〔休職-休職期間中の賃金(休職と賃金)〕
 控訴人は、本件自宅治療命令を発して、被控訴人が提供をした労務の受領を拒否したため、被控訴人は、本件不就労期間中労務に服することができなかったのであるから、右期間中の賃金等請求権を喪失しないというべきである(民法五三六条二項)。