全 情 報

ID番号 07350
事件名 賃金等請求事件
いわゆる事件名 ジャパンオート事件
争点
事案概要  自動車の車体整備等を営む工場で板金工として働いていた者が、源泉徴収や社会保険料の控除を受けていなくても労働者に当たるとして、時間外労働に対する割増賃金及び付加金、即時解雇されたことにつき、解雇予告手当の支払を求めたケースで、労働者の退職は合意解約であり解雇予告手当の支払請求は理由がないとされながらも、割増賃金及び付加金についての請求には理由があるとして認容された事例。
参照法条 労働基準法9条
民法623条
労働基準法37条
労働基準法114条
民法709条
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 労働者 / 委任・請負と労働契約
賃金(民事) / 割増賃金 / 支払い義務
雑則(民事) / 附加金
労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 使用者に対する労災以外の損害賠償
裁判年月日 1999年6月25日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成10年 (ワ) 1989 
裁判結果 一部認容、一部棄却(確定)
出典 労働判例774号71頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労基法の基本原則-労働者-委任・請負と労働契約〕
 原告は、被告の求人広告に応募してきたもので、面談のうえ被告に採用され、平成六年二月一四日から、大阪市西成区(以下略-編注)の工場(同年五月ころに被告の自宅一階である同区(以下略-編注)に移転)で、自動車修理の板金工として働くようになった。
 右工場は、A会社とB会社の工場を兼ねるものであった。
 原告の給料は、月二五日稼動したとして月額四〇万円を取得できるようにとの算定根拠から日額一万六〇〇〇円と定められ、毎月二五日を締切日として月末に支給された。この給料は、その後平成七年一月分から日額二万円に、さらに平成八年四月分から日額二万三五〇〇円に増額された(なお、被告がA会社で雇用している二名の従業員に対しては基本給、諸手当等の月額賃金とされ、その額も控除前の支給合計三〇万円余りとなっている)。
 そのほかに手当として、一日三〇〇円の食事代と交通費が支給された。
 勤務は、日曜、祝祭日、盆(三日)、年末(二日)、年始(四日)を休日とし、勤務時間は、月曜日から金曜日までは午前八時三〇分から午後五時三〇分まで、土曜日は午前八時三〇分から午後五時までとされ、午後零時から午後一時までが休憩時間とされた。
 原告の出退勤はタイムカードに打刻することとされ、遅刻早退に対しては、その分が月々の給料から減額された。
 また、月によっては所定時間外賃金が支給されることもあった。
 被告では、他の従業員と異なり、原告の給料から所得税等が(ママ)源泉徴収することはなく、原告が健康保険、厚生年金に加入していないため、これらの掛け金を控除することもなかった(雇用保険には、平成七年五月ころ加入したため、そのころから保険料が給料から控除されるようになった)。
 被告の会計帳簿上は、原告への給料の支給は外注工賃として処理されていた。
 2 右認定事実に対し、被告は、本人尋問で、原告を採用するに当たって、請負契約であり、出勤日数の拘束はないこと、雇用保険等の適用はなく、有給休暇もないことなどを説明したと供述し、同人の陳述書(〈証拠略〉)にも、これと同旨の記載があるが、前掲証拠に照らし採用できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。
 3 右認定事実によって判断するに、原告の給料が日額基準で計算され、しかも比較的高額とされていること、原告が健康保険、厚生年金に加入していないため給料からこれらの保険料等が控除されていないこと、所得税等の源泉徴収もなされていないことなどの点で、原告については、他の従業員と異なる取扱いがなされているが、これらの諸点は、いずれも雇用契約と矛盾するものではない。〔中略〕
 右認定のとおり、原告の勤務に対しては仕事の出来高にかかわりなく、出勤日数に応じた給料が支給されていたこと、その給料も、額は日額と出勤日数をもとに算定されたが、締切日、支給日が定められていたこと、勤務は被告の工場を就労場所とし、出勤日、勤務時間も定められていたこと、出退勤時刻はタイムカードに打刻され、遅刻早退分が給料から減額されたり、月によっては所定時間外賃金が支給されたりして出勤の有無や勤務時間が管理されていたことなどの諸事情に照らすと、原被告間の契約は、仕事の結果に対して報酬を支給する請負契約というよりも、労務に服したことに対する対価として賃金を支給する雇用契約であったと解するのが相当である。〔中略〕
〔賃金-割増賃金-支払い義務〕
 右認定の原告の就労状況によると、原告の業務は所定労働時間内では終了することができず、終業時刻を過ぎて残業することが恒常化していたことが認められ、被告としてもこのような時間外労働の成果を受領し続けて来ているのである、(ママ)原告の時間外労働に対しては、被告の黙示の指示がなされていたものと解するのが相当であり、被告は割増賃金を支払うべきである。
 もっとも、右時間外労働のうち「制限超過の所定時間内実労働」に対しては、すでに、通常の賃金は支払済みであるから、これに対する未払は二五パーセントの割増部分だけであり、「所定労働時間超過の実労働」については、通常賃金も未払であるから、一二五パーセントで計算した割増賃金を支払うべきである。〔中略〕
〔雑則-附加金〕
 被告には、付加金の支払を免除すべき事由は格別は認められず、右の未払賃金と同額の付加金の支払を命じるのが相当である。〔中略〕
〔労働契約-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償〕
 年休取得の権利を行使するか否かは労働者の自由であって、労働基準法の知識不足からこれを行使できなかったとしても、これによって原告が被った不利益まで被告が填補しなければならないとする理由はない。
 よって、年休を取得できなかったことによる不利益相当の金員支払を求める原告の請求は理由がない。