全 情 報

ID番号 07359
事件名 配転無効確認等請求事件
いわゆる事件名 ソフィアシステムズ事件
争点
事案概要  被告会社の名古屋営業所の技術職から川崎市所在の被告のマイコンシティ事業所の営業担当社員への転勤を命じられた従業員が、これを不服としてその撤回を求め、マイコンシティに赴任しなかったが、その約六か月後に本件配転に異議をとどめつつ赴任したうえで、右配転無効確認の請求をしたケースで、就業規則に配転条項が存在し、配転に関する慣行もあり、使用者は労働者の個別的同意なしに配転を命じることができ、また本件の配転には通常甘受すべき程度を超える著しい不利益はなかったとして棄却された事例。
参照法条 労働基準法2章
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令の根拠
配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の濫用
配転・出向・転籍・派遣 / 配転・出向・転籍・派遣と争訟
裁判年月日 1999年7月13日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成9年 (ワ) 3993 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 労働判例773号22頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-配転・出向・転籍・派遣と争訟〕
 原告は平成八年一〇月三一日受付の訴状の請求の趣旨において本件配転命令が無効であることの確認を求めていたが、平成九年七月一五日付け請求の趣旨変更申立書において本件配転命令の無効確認を原告の勤務地、所属の確認に変更したのであり(当裁判所に顕著である。)、右の経過に加えて、原告が確認を求めている対象である原告の勤務地、所属は原告と被告との間に成立している雇用関係という法律関係において原告が被告に対し労務を提供するという債務を履行すべき場所を決定する基準となるべき事実であることも併せ考えれば、本件訴えのうち原告の勤務地、所属の確認を求める部分は、要するに、原告が被告の名古屋営業所において勤務する労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めているものと解せられ、言辞に不適切な点があることは否定できないものの、原告が確認を求めているのは単なる事実の確認ではなく、右に説示したような労働契約上の地位の確認と解すべきであって、そうであるとすると、本件訴えのうち原告の勤務地、所属の確認を求める部分が単なる事実の確認を求める訴えであるかのような内容になっていることだけを理由に不適法であるとして直ちに却下することはできないというべきである。〔中略〕
 本件確認の訴えのうち原告の勤務地、所属の確認を求める部分は本件配転命令が無効であることを前提とする主張であり、原告が本件訴訟の口頭弁論終結の時点において本件配転命令の効力を争っていることは明らかであるから、原告が異議なく現在の就労場所で就労しているというだけでは、本件訴えのうち原告の勤務地、所属の確認を求める部分が確認の利益を欠いているということはできない。被告の主張は採用できない。
 4 以上によれば、本件訴えのうち原告の勤務地、所属の確認を求める部分を不適法として却下すべきであるという被告の主張はいずれも採用できない。
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令の根拠〕
 配転は、労働者の勤務場所又は職種(提供すべき労務の種類)を将来にわたって変更する人事異動の一つであるが、使用者が労働者の個別的同意なしに労働者の勤務場所を決定してこれに転勤を命じて労務の提供を求め、又は労働者の個別的同意なしに労働者の職種の変更を決定してこれを命じて労務の提供を求めるためには、雇用契約その他の両当事者の合意の解釈として、使用者が労働者の個別的同意なしに労働者の勤務場所を決定してこれに転勤を命じて労務の提供を求める権限又は労働者の職種の変更を決定してこれを命じて労務の提供を求める権限(両者の権限を合わせて以下「配転命令権」という。)を有すると認められることが必要であると解される。〔中略〕
 原、被告間の雇用契約その他原、被告間の合意の解釈として、被告は業務上の必要性に応じてその裁量により原告の個別的同意なしに原告の勤務場所を決定してこれに転勤を命じて労務の提供を求める権限又は労働者の職種の変更を決定してこれを命じて労務の提供を求める権限を有するものと認められる。〔中略〕
 そうすると、被告は本件配転命令の発令に当たって原告が本件配転命令に従って転勤することについて原告の個別的同意を得ていない(争いがない。)が、そのことを理由に本件配転命令が無効であるということはできない。〔中略〕
 原、被告間の雇用契約その他原、被告間の合意の解釈として、被告は業務上の必要性に応じてその裁量により原告の個別的同意なしに原告の勤務場所を決定し原告に転勤を命じて労務の提供を求めることができるものというべきであるが、転勤、特に転居を伴う転勤は、一般に、原告の生活関係に少なからぬ影響を与えずにはおかないから、被告の配転命令権は無制約に行使することができるものではなく、これを濫用することは許されないことはいうまでもないところ、原告の勤務場所を決定し原告に転勤を命じるという配転命令につき業務上の必要性が存しない場合には、当該配転命令は権利の濫用として無効であるというべきである。そして、業務上の必要性については、当該転勤先への異動が余人をもっては容易に替え難いといった高度の必要性に限定することは相当ではなく、労働力の適正配置、業務の能率増進、労働者の能力開発、勤務意欲の高揚、業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与する点が認められる限りは、業務上の必要性の存在を肯定すべきである(最高裁昭和六一年七月一四日第二小法廷判決裁判集民事一四八号二八一ページ)。〔中略〕
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の濫用〕
 原告の勤務場所を決定し原告に転勤を命じるという配転命令につき業務上の必要性が存する場合であっても、当該配転命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき又は労働者に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるときなどの特段の事情の存する場合は、当該配転命令は権利の濫用として許されないものというべきである(前掲最高裁昭和六一年七月一四日第二小法廷判決)。〔中略〕
 右1で認定した事実によれば、原告とAは本件配転命令後は東京と名古屋に別れて住んでおり、原告はおおむね毎週週末は名古屋に帰っているというのであるから、東京と名古屋で別居することによって原告とAは肉体的、精神的及び経済的な点において家庭生活上の不利益を相応に被っているものと認められるが、右1で認定した事実に加えて、原告の陳述書(〈証拠略〉)及び本人尋問における供述並びにAの陳述書(〈証拠略〉)における供述を併せ考えても、これらの供述からうかがわれる原告とAの肉体的、精神的及び経済的な点における家庭生活上の不利益はいまだ本件配転命令に基づく転勤によって通常甘受すべき不利益の程度を著しく超えていないものと認められ、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。
 3 そうすると、本件配転命令が原告に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益をもたらすものとして権利の濫用として無効であるということはできない。