全 情 報

ID番号 07361
事件名 賃金支払請求事件
いわゆる事件名
争点
事案概要  警備保障会社で雇用され、午後五時半から翌日午前八時半までの間の常夜勤務の警備員として、警備や現金輸送などの業務に従事していた労働者六名が、退職後に、在職当時の時間外労働及び深夜労働につき、割増賃金を請求したケースで、仮眠中にも異常事態の対応等の業務遂行に対応できるように待機するものとされ、拘束一五時間のうち、実作業時間を除く休憩、仮眠時間についても、使用者の指揮命令下に置かれていたとして、割増賃金の請求が認容された事例。
参照法条 労働基準法32条
労働基準法37条
労働基準法115条
体系項目 労働時間(民事) / 労働時間の概念 / 仮眠時間
賃金(民事) / 割増賃金 / 支払い義務
賃金(民事) / 割増賃金 / 割増賃金の算定基礎・各種手当
雑則(民事) / 時効
裁判年月日 1999年7月14日
裁判所名 長野地佐久支
裁判形式 判決
事件番号 平成5年 (ワ) 107 
裁判結果 認容(控訴)
出典 労働判例770号98頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働時間-労働時間の概念-仮眠時間〕
 労働基準法にいう労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下にある時間(いわゆる拘束時間)のうち休憩時間(同法三二条)を除いた時間、すなわち、実作業(労働)時間をさすものであるところ、ここにいう休憩時間は、就業規則等で休憩時間とされている時間を指すのではなく、現実に労働者が自由に利用することが保障された時間を指すものというべきである(同法三四条三項)。すなわち、現実に労務を提供している時間だけではなく、使用者の指揮命令下にあり、現実に労務に従事していなくても、作業遂行上の都合で待機しているいわゆる手待時間であれば、たとえこれが就業規則等で休憩、仮眠時間とされているものであっても、なお労働時間に当たり、賃金支給の対象となるべきものである。
〔賃金-割増賃金-支払い義務〕
 前記のとおり、被告は、労働基準法四一条の許可を受けていない上、被告の賃金規定は、手待時間を賃金支払の対象から除外することを規定しているものと解すべきではないから、前記時間外労働、深夜労働に対する手当に関する右賃金規定が、右各手当の対象を拘束一五時間を超える時間外労働に限定し、拘束一五時間のうちの休憩、仮眠時間について、それらが手待時間の実質を備えていても、およそ時間外手当、深夜手当の対象としないものと解するのは相当でなく、労働基準法三七条の趣旨に則って合理的に解釈すれば、右賃金規定は、原告ら警備員の休憩、仮眠時間が手待時間すなわち労働時間としての実質を有するものと認められる限りは、時間外手当、深夜手当の対象とすべきものと解するのが相当である。
〔労働時間-労働時間の概念-仮眠時間〕
 原告らは、被告と警備委託先間の警備契約に基づいて、警備委託先に派遣され、その建物設備等を盗難、火災等の災害から守り、安全を確保するため、四夜連続一勤務一五時間ないし一五時間半の勤務で、かつ、深夜勤務を伴う勤務に従事しているものであり、このような勤務形態は原告ら警備員に相当程度の精神的、肉体的緊張を与えるものといわなければならず、原告らの労働密度が低いものであるとは到底いえず、また、原告らの一五時間の拘束時間中実作業時間を除く休憩、仮眠時間は、就業規則の規定にかかわらず、場所的拘束の度合が相当程度強い上、休憩、仮眠時間は特定されておらず、次に掲げるとおり、勤務先により、休憩、仮眠中に現実に発生する業務の内容、頻度等に差こそあれ、休憩、仮眠中に異常事態の発生等一定の業務遂行の必要性が生じることは皆無ではなく、休憩、仮眠中であっても、右業務遂行の必要性が生じた場合に即応できるよう待機するものとされ、右業務遂行の必要性が現実に生じた場合には直ちに対応して業務を遂行すべき職務上の義務が課されていたものというべきである。〔中略〕
 したがって、原告ら警備員は、拘束一五時間のうち、実作業時間を除く休憩、仮眠時間についても、使用者である被告の指揮命令下におかれていたものと認めるべきものであるから、原告らの休憩、仮眠時間は労働時間に当たるものというべきである。
〔賃金-割増賃金-割増賃金の算定基礎・各種手当〕
 労働基準法三七条では、基準賃金は、家族手当、通勤手当のほか命令で定める手当を除外するものとされ、労働基準法施行規則二一条によれば、別居手当、子女教育手当、臨時に支払われた賃金、一か月を超える期間ごとに支払われる賃金は割増賃金の基礎となる賃金に算入しないものとされているところ、常夜勤務者の常駐手当、食事手当はいずれも概ね一律に支給され(〈証拠略〉)、賃金性が高く、また、安全手当については、それぞれ異なる金額が支給され、安全認識の高揚を目的とされているものである(〈証拠略〉)が、緊急時の出動を求められる原告ら警備員については、警備員としての能力評価に基づく手当であって賃金性が高いものであり、これらを除外すべき理由はないことなどを考慮すると、いずれも基準賃金に含まれるものと解するのが相当である。
〔雑則-時効〕
 債権の消滅時効は、債権を行使することについて、法律上の障害がなくなったときから進行するものであるところ、原告らと被告間の労働契約において、賃金支払期は、前記のとおり、前月の二一日から当月の二〇日までの間の賃金について当月月末日の確定日払と定められていたから、原告らの賃金債権の消滅時効は、月々の賃金について、各支払期から進行し、二年の消滅時効にかかるものである。〔中略〕
 時間外手当及び深夜手当は、賃金台帳、タイムカード、現実の勤務を記載した警備勤務表に基づいて、就業規則に基づく賃金規定に定められた複雑な計算方法により算定すべきものであるところ、これらの書類は被告において所持し、原告らは被告から交付された各月の給料明細書を所持しているに過ぎない(〈証拠・人証略〉)から、原告らにおいて容易に算定することができないことは明らかであるから、このような場合、消滅時効中断の催告としては、具体的な金額及びその内訳について明示することまで要求するのは酷に過ぎ、請求者を明示し、債権の種類と支払期を特定して請求すれば、時効中断のための催告としては十分であると解されるから、原告らの前記請求は時効中断の催告としての効力があるものというべきである。
 (三) ところで、前記のとおり、原告らは、前記催告の後六か月以内である平成五年一〇月一日に本件訴えを提起しているから、右訴え提起により、平成三年六月分以降同年八月分までの賃金債権の時効は中断されたものというべきである。