全 情 報

ID番号 07362
事件名 損害賠償、退職手当金請求上告事件
いわゆる事件名 兵庫県社土木事務所事件
争点
事案概要  県職員が多額の借金を抱え、失踪したのち、約二か月後になされた懲戒免職処分について、本人の妻に右人事発令書を読み上げ、右通知書と発令書を妻に交付し、かつ、県が右人事発令通知を公報に掲載し、右公報をその者の最後の住所に郵送したが、退職願を受理しないで懲戒免職としたのは違法である等として本人及びその不在者財産管理人が損害賠償及び退職金の請求を行ったケースの上告審で、右処分の意思表示は法令に根拠がなく、同人に到達したとみなすことはできないとして処分を無効とした原判決の判断が違法とされ、破棄・差戻しとされた事例。
参照法条 民法97条の2
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒解雇・懲戒免職処分の意思表示の方法
裁判年月日 1999年7月15日
裁判所名 最高一小
裁判形式 判決
事件番号 平成9年 (オ) 367 
裁判結果 破棄差戻(差戻)
出典 時報1692号140頁/タイムズ1015号106頁/裁判所時報1247号2頁/労働判例765号7頁/判例地方自治195号45頁
審級関係 控訴審/07409/大阪高/平 8.11.26/平成8年(ネ)469号
評釈論文 山代義雄・民商法雑誌122巻4・5号218~221頁2000年8月/秋山昭八・地方公務員月報457号2~11頁2001年8月/田倉整・発明97巻5号105~111頁2000年5月/林豊・平成12年度主要民事判例解説〔判例タイムズ臨時増刊1065〕392~393頁2001年9月
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒解雇・懲戒免職処分の意思表示の方法〕
 所在が不明な公務員に対する懲戒処分は、国家公務員に対するものについては、その内容を官報に掲載することをもって文書を交付することに替えることが認められている(人事院規則一二-〇「職員の懲戒」五条二項)ところ、地方公務員についてはこのような規定は法律にはなく、兵庫県条例にもこの点に関する規定がないのであるから、所在不明の兵庫県職員に対する懲戒免職処分の内容が兵庫県公報に掲載されたことをもって直ちに当該処分が効力を生ずると解することはできないといわざるを得ない。
 しかしながら、上告人の主張によれば、上告人は、従前から、所在不明となった職員に対する懲戒免職処分の手続について、「辞令及び処分説明書を家族に送達すると共に、処分の内容を公報及び新聞紙上に公示すること」によって差し支えないとしている昭和三〇年九月九日付け自丁公発第一五二号三重県人事委員会事務局長あて自治省公務員課長回答を受けて、当該職員と同居していた家族に対し人事発令通知書を交付するとともにその内容を兵庫県公報に掲載するという方法で行ってきたというのであり、記録上そのような事実がうかがわれるところである。そうであるとするなら、兵庫県職員であった被上告人は、自らの意思により出奔して無断欠勤を続けたものであって、右の方法によって懲戒免職処分がされることを十分に了知し得たものというのが相当であるから、出奔から約二箇月後に右の方法によってされた本件懲戒免職処分は効力を生じたものというべきである。
 原審の前記判断は、右と異なる見解に立って本件懲戒免職処分の効力を否定したものであって、法令の解釈適用を誤った違法があるといわざるを得ず、その違法が原判決に影響を及ぼすことは明らかである。論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、本件各請求については、更に審理判断を尽くす必要があるから、本件を原審に差し戻すこととする。