全 情 報

ID番号 07367
事件名 地位保全等仮処分命令申立事件
いわゆる事件名 住友林業事件
争点
事案概要  住宅販売会社の営業社員として雇用され営業係長の地位にあった者が、リストラの一環で退職勧奨が行われ退職した後で、右退職は、それに応じなければ懲戒解雇するなどと懲戒解雇をちらつかせたり、社内融資の返済について誤った説明をするなどして退職を強要したもので違法であるとして、地位保全等の仮処分を申立てたケースで、退職の意思表示は心裡留保に当たらず、要素の錯誤もなかったとして申立てが却下された事例。
参照法条 民法93条
民法95条
体系項目 退職 / 退職願 / 退職願と心裡留保
退職 / 退職願 / 退職願と錯誤
裁判年月日 1999年7月19日
裁判所名 大阪地
裁判形式 決定
事件番号 平成10年 (ヨ) 3565 
裁判結果 却下
出典 労経速報1718号15頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔退職-退職願-退職願と心裡留保〕
 右認定の事実によれば、債権者が、その趣旨、内容を理解したうえで退職届を提出したことは明らかであり、真意が伴っていなかったとの事情はなんら認められず、心裡留保に該当するとの主張は到底採用できない。
〔退職-退職願-退職願と錯誤〕
 債権者は、平成一〇年五月二八日ころ以後、債務者が、債権者に対し、退職に応じなければ懲戒免職にする、その場合には退職金も支給されないと申し向け、また、債権者が退職に応じた場合には、社内融資の残額も分割返済が可能と説明し、このため、債権者はその旨誤信させられ、本件退職届を提出したが、債権者には何ら懲戒事由はなかったし、退職後の社内融資の分割返済も受けられなかったのであって、本件退職の意思表示には、要素の錯誤があり無効であるとともに、債務者の欺罔行為によるものであるから取り消すと主張する(争点2及び3)。
 しかしながら、債務者が、退職か懲戒免職かを迫ったという右主張に沿う証拠としては、債権者自身が作成した報告書(書証略)及び陳述書(書証略)のみであって、これを裏付けるような客観的な証拠はない。むしろ、前記のとおり、被告の就業規則等によれば、成績不良を理由に解雇することがあることが規定されており、その場合に退職手当を支給することとはされていないから、債務者が、債権者に退職を勧奨するにあたって、成績不良を理由に解雇を持ち出したことは十分考えられる(長期間全く業績なしという成績であるから、解雇事由に該当する可能性は極めて高く、したがって、債務者が解雇の可能性を申し向けたとしてもやむを得ないところであり、それを欺罔行為ということはできない)が、懲戒免職を持ち出す必要はない。平成一〇年五月二八日の退職勧奨がなされた面談時に問題にされていたのは専ら債権者の成績不良であるが、成績不良が懲戒事由になるとは通常は考えられていないし、債務者の就業規則にもそのような規定はない。そのことは、債権者も当然熟知していたはずであるから、債務者が成績不良を理由に懲戒免職か退職かを迫ったというのはいかにも不自然である。これらの事情に照らすと、債権者の右陳述書等の記載はにわかには信用できないし、債権者がそれによって錯誤に陥ったとも考え難い。