全 情 報

ID番号 07370
事件名 賃金等請求事件
いわゆる事件名 塩野義製薬事件
争点
事案概要  薬科大学を卒業後、被告製薬会社に入社し、当初は一般事務職として位置付けられているDI担当者として雇用され、昭和五〇年からはDI担当者でありながら「製担」の業務に試験的に従事し、昭和五四年には被告会社で初の女性「製担」となり、平成三年には課長待遇に昇格した者が、「製担」となった後も同期の男性と能力給に格差があったのは違法な男女賃金差別であったとして、退職金を含め賃金の差額として三六八七万円の損害賠償及び慰謝料五〇〇万円などの賠償を求めたケースで、違法な賃金差別を認めて二五一八万円の損害賠償及び慰謝料二〇〇万円が認容された事例。
参照法条 労働基準法4条
民法709条
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 男女同一賃金、同一労働同一賃金
裁判年月日 1999年7月28日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成7年 (ワ) 9553 
裁判結果 一部認容、一部棄却(確定)
出典 労働判例770号81頁/労経速報1707号3頁
審級関係
評釈論文 伊藤昌毅・経営法曹128号23~34頁2000年8月/山田省三・労働判例777号7~14頁2000年5月1日/神尾真知子・平成11年度重要判例解説〔ジュリスト臨時増刊1179〕206~208頁2000年6月/相澤美智子・労働法律旬報1487号58~66頁2000年9月10日/池田直樹・労働法律旬報1463号6~11頁1999年9月10日
判決理由 〔労基法の基本原則-男女同一賃金〕
 原告が雇用された昭和四〇年ころには、従業員の採用に当たって、その希望は聴取したものの、補助職、基幹職といった区分やその具体的な説明はされず、その補職は被告の人事上の必要によってされていたものといえるのであるが、補助職に当たる能力給区分と基幹職に当たる能力給区分とでは、その後の能力給に差が生じるものでありながら職種に変更があっても能力給区分の変更は認められていなかった。これによれば、同じ大学卒でありながら、男性についてはそのすべてを基幹職たる能力給区分で採用し、女性については一時期若干名を基幹職たる能力給区分で採用しているものの、その殆どを補助職たる能力給区分で採用したものであって、これは男女をもって区別したといわなければならないところである。ただ、(証拠略)及び弁論の全趣旨によれば、MRという職種は、対外的に病院等を担当し、勤務時間も不規則となり勝ちで、また転勤もないではなく、相当に厳しい職種であったことが認められるところ、原告の採用についても、担当職務について希望を聴取しており、また同期の女性でMRとして採用された者もあることからすると、右区別をもって、不合理な男女差別とまでは認定することはできない。
 しかしながら、被告は、昭和五四年六月に、原告を、その職種を変更して製担としたのであるから、同じ職種を同じ量及び質で担当させる以上は原則として同等の賃金を支払うべきであり、その当時、基幹職を担当していた同期男性五名の能力給の平均との格差が少なくなかったことからすれば、生じていたその格差を是正する義務が生じたものといわなければならず、その義務を果たさないことによって温存され、また新たに生じた格差は不合理な格差というべきである。そして、被告は、昭和五五年から同五七年までの昇給は、その是正を図ったものと評価できるものの、結局は是正に至らなかったのである。これによれば、本件格差は、採用時における職務担当における男女の区別に起因するものであり、右是正義務を果たさないことによって生じた格差は、男女の差によって生じた不合理なものといわなければなず(ママ)、即ち原告の賃金を女性であることのみをもって格差を設けた男女差別と評価しなければならないものである。〔中略〕
 労働基準法四条は、男女同一賃金の原則を定めるところ、使用者が女性従業員に男性従業員と同一の労働に従事させながら、女性であることのみを理由として賃金格差を発生させた場合、使用者としては右格差を是正する義務があり、右是正義務を果たさない場合には、男女同一賃金の原則に違反する違法な賃金差別として、不法行為を構成する。本件においては、原告が他の男性従業員と同様の製担としての業務を担当し始めた昭和五四年六月以降、原告が女性であることのみを理由に他の男性従業員との間に賃金格差が生じており、被告は右賃金格差を是正する義務が生じていたのに、これを果たさなかったことは前述のとおりである。してみれば、被告に少なくとも過失による不法行為が成立するものというべきである。〔中略〕
 被告は、原告に対し、賃金差別により原告に生じた損害を賠償すべき責任があるところ、原告に生じた損害は差別がなければ支払われたはずの賃金額ということになる。〔中略〕
 原告が損害として請求する期間の始期である昭和六〇年は原告が製担となって既に六年を経過した時期であり、過去の経歴の役割は低減するはずであり、昭和六〇年以降の原告の製担としての職務遂行状況は、A2に評価されるものであったこと、その他諸般の事情を考慮すれば、差別がなければ原告に支払われたはずの賃金額は、原告主張の同期男性五名の能力給平均額の九割に相当する額(別表3「認定適正能力給額」欄記載の金額)と認めるのを相当とする。〔中略〕
 前述のとおり、原告は、製担となった昭和五四年以降賃金差別を受けてきたもので、原告に生じた精神的苦痛には大きいものがあるが、その差別の態様、期間等、諸般の事情を考慮すれば、右精神的苦痛の慰藉に要する額は二〇〇万円をもって相当というべきである。