ID番号 | : | 07372 |
事件名 | : | 遺族補償給付等不支給処分取消請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 永井製本事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 製本会社の裁断工が、くも膜下出血で死亡したことにつき、配偶者が右死亡は精神的負担の大きな業務に従事してきたことによるものであるとして、遺族補償不支給決定の取消しを請求したところ、業務と当該くも膜下出血発症との間には相当因果関係が認められるとして、請求が認容された事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法施行規則別表1の2第9号 労働者災害補償保険法7条1項1号 労働者災害補償保険法37条 |
体系項目 | : | 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 脳・心疾患等 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 業務起因性 労災補償・労災保険 / 審査請求・行政訴訟 / 審査請求との関係、国家賠償法 |
裁判年月日 | : | 1999年8月11日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成6年 (行ウ) 76 |
裁判結果 | : | 一部認容、一部却下(控訴) |
出典 | : | 時報1687号143頁/タイムズ1011号151頁/労働判例770号45頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 島岡大雄・平成11年度主要民事判例解説〔判例タイムズ臨時増刊1036〕376~377頁2000年9月 |
判決理由 | : | 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務起因性〕 労災保険法に基づく保険給付は、労働者の「業務上」の死亡について行われるが(同法七条一項一号)、労働者が「業務上」死亡したといえるためには、業務と死亡との間に相当因果関係のあることが必要である(最高裁第二小法廷昭和五一年一一月一二日判決・判例時報八三七号三四頁参照)。〔中略〕 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕 くも膜下出血は、その原因が脳動脈瘤の破裂であれ、脳出血の脳室への穿破であれ、その発症の基礎となる動脈瘤ないし血管病変が存在し、これが種々の危険因子の集積によって増悪し発症に至るものであるから、ある業務に従事していた者がくも膜下出血によって死亡した場合において、右発症が業務上のものであること、すなわち、業務とくも膜下出血の発症との間に相当因果関係を肯定するためには、当該業務が、くも膜下出血の発症を、自然経過を超えて、急激に著しく促進させるに足りる程度の過重負荷となっていたものと認定できることを要し、かつ、それで足りるものと解するのが相当である。けだし、右のような場合には、当該業務に内在ないし通常随伴する危険が、それ以外の発症の原因と比較して相対的に有力な原因となっていたものと評価することができるからである。〔中略〕 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕 (1) 本件発症前にAが従事した業務の内容、勤務状況等が前記1、2判示のとおりであること、特に、ア Aの従事していた断裁業務、とりわけ〔2〕の作業が、それ自体として、肉体的、精神的な負担の大きいものであったこと、イ 一一月一〇日以降、会社の事業内容は年間で最も繁忙な時期に入っていて、この時期の断裁業務の対象となるものが量的に多く、質的にも難度の高いものが含まれるという傾向にあったため、Aは、連日午後八時過ぎまでの残業を余儀なくされたこと、ウ にもかかわらず、本件発症直前の三日前については、それまでAの業務の一部を手伝っていた助手が連続して休んだため、Aは、〔1〕ないし〔3〕の作業のすべてを残業終了に至るまで単独で進めなければならず、それ以前にも増して大きい、肉体的、精神的な負担を被ったこと、他方、(2) Aの本件発症にかかる危険因子の有無及び具体的内容は前記4判示のとおりであって、結局、年齢以外には、さほど有意とすべきものは見あたらないこと、以上の事実に照らすと、本件においては、Aの業務が、くも膜下出血の発症を、自然経過を超えて、急激に著しく促進させるに足りる程度の過重負荷となったこと、このような過重負荷が、Aの有していた動脈瘤ないし血管病変を、自然経過を超えて、急激に著しく増悪させた結果、本件発症に至ったものと認めることができる。 そうすると、Aの業務と本件発症との間には相当因果関係があるものというべきである。〔中略〕 〔労災補償・労災保険-審査請求・行政訴訟-審査請求との関係、国家賠償法〕 原処分である本件処分が取消しを免れない以上、原告は、これによって、本件処分を不服としてした審査請求に対する裁決(本件決定)の取消しを求める法律上の利益を有しないこととなることは明らかである。したがって、被告審査官に対する訴えは、その余の点について判断するまでもなく、却下を免れない。 |