ID番号 | : | 07382 |
事件名 | : | 転勤命令無効確認等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 新日本製鐵(総合技術センター)事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 製鉄会社の従業員二名に対する北九州市の事業所から千葉県内の事業所への配置転換命令につき、右二名及び右二名の内の一名の妻が、右配置転換命令を違法であるとして無効確認を求めたケースで、右配置転換命令による不利益は社会通念上甘受すべき程度を著しく超えるとはいえず、権利の濫用に当たらないとして棄却された事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 |
体系項目 | : | 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令の根拠 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の限界 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の濫用 |
裁判年月日 | : | 1999年9月16日 |
裁判所名 | : | 福岡地小倉支 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成3年 (ワ) 890 |
裁判結果 | : | 棄却(控訴) |
出典 | : | 労働判例774号34頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 中園浩一郎・平成12年度主要民事判例解説〔判例タイムズ臨時増刊1065〕376頁2001年9月 |
判決理由 | : | 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令の根拠〕 原告らが入社した当時のA製鐵の就業規則には「業務上の都合によって転勤させまたは職場もしくは職種を変更することがある」旨の規定があるところ、証拠(〈証拠・人証略〉)によれば、原告X1及び原告X2は、臨時作業員としてA製鐵に入社した際、右就業規則を印刷物として配布され、新入臨時作業職員の導入教育において、約六時間をかけて説明を受け、右採用時及び二か月を経て作業職社員として採用された際の二度にわたり、就業規則等を遵守する旨を記載した誓約書及び身元引受書を提出したこと、その後、就業規則は数次にわたり改正されたものの、本件転勤命令が発令された当時を含め、いずれも前記と同趣旨の規定をおいていることが認められ、右事実に加え、前認定のとおり被告と連合会との間の労働協約にも同旨の規定があること、A製鐵は全国規模の企業であって、その労務管理のあり方からすれば、就業規則等に転勤規定が存在するにもかかわらず、これを個別に解除して勤務地を限定した労働契約を締結するとは考え難いことに照らし、原告X1及び原告X2と被告との労働契約関係は、被告に人事権の行使としての転勤命令権を認めた右就業規則によって規律されていると認められ、右就業規則の転勤命令権に関する規定の適用を排除し、勤務地を限定する合意が成立した旨の原告らの主張を認めるに足りる証拠はない。〔中略〕 本件転勤命令発令当時、被告は、労働契約に基づき、原告X1及び原告X2に対し、個別の同意がなくても、勤務場所を変更する転勤命令を発し、変更後の勤務場所における労務提供を求める権利を有していたと認められる。 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の限界〕 二 転勤命令権の濫用の主張について 使用者の転勤命令権の行使は、転勤につき業務上の必要性がない場合、業務上の必要性がある場合であっても、当該転勤命令が他の不当な動機ないし目的をもってなされたものであるとき、もしくは、労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等、特段の事情がある場合には、権利の濫用として無効となると解される。 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令の根拠〕 労働者を配置転換し、他勤務地に転勤させる業務上の必要性については、当該転勤先への異動が余人をもって容易に替え難いという高度の必要性がある場合に限定されず、労働力の適正配置、業務の能率増進、労働者の能力開発、勤務意欲の高揚、業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与すると認められる限り、業務上の必要性の存在は肯定されると解される。〔中略〕 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の限界〕 原告X2は、子供の教育、原告X3の勤務及び両親の介護等の必要から単身赴任の途を選択し、その結果、それなりの経済的、精神的負担を負うに至ったと認められるが、被告の転勤援助措置により、経済的負担は相当程度軽減されており、また、本件転勤命令当時、同原告らの実親はそれぞれ同原告らの兄弟と同居し、介護等につき兄弟らの協力を得られる状況にあり、原告X3は保険外交員の仕事に就いて日が浅く、転勤先での新たな就職は十分可能であり、被告も就職の斡旋を申し出ていたのであるし、原告X2の転勤後、子供の教育に手がかからなくなり、単身赴任を解消する余地があったと認められることに照らし、原告X2の単身赴任の選択及び継続は、同原告らの意思に基づく決定ということができ、また、旧第三技術研究所から総合技術センターに転勤した者の中には、原告X2と同様の単身赴任者が多数いることを合わせ考えると、本件転勤により原告X2が受ける経済的、精神的不利益は、社会通念上、労働者において甘受すべき不利益の程度を著しく超えているとは認められない。〔中略〕 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の濫用〕 原告X1は、経済的理由や妻の勤務等の理由から単身赴任を選択し、このため、経済的、精神的負担を被っていると認められるが、前記のとおり、被告の転勤援助措置により、経済的負担は相当程度軽減されており、同原告の子は既に就職して遠隔地に居住しているため、転勤後、単身赴任を解消する途もあったと認められ、前記A労組の対応を併せ考慮すると、本件転勤命令により、原告X1が受けた経済的、精神的不利益は、社会通念上、労働者において甘受すべき不利益の程度を著しく超えているとは認められない。 4 以上の次第であるから、本件転勤命令が権利の濫用に当たり、無効である旨の原告らの主張は理由がない。 |