全 情 報

ID番号 07389
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 JR東海(退職)事件
争点
事案概要  JR東海の従業員が脳内出血で倒れ、会社の休職・復職判定委員会の判定に基づいて病気休職中であったが、本人の復職の意思表示にもかかわらず、三年の休職期間満了により退職扱いと決定されたことに対して、右退職扱いを違法として従業員としての地位確認と未払い賃金の支払を求めたケースで、使用者は、配置換え等により現実に配置可能な業務の有無を検討すべきであり、本人の復職の意思表示にもかかわらず復職不能とした判断には誤りがあり、退職扱いは就業規則に反して無効であるとして請求が認容された事例。
参照法条 労働基準法2章
体系項目 休職 / 休職の終了・満了
裁判年月日 1999年10月4日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成10年 (ワ) 3014 
裁判結果 認容(控訴)
出典 労働判例771号25頁
審級関係
評釈論文 井村真己・沖縄法政研究2号111~122頁2000年3月/加藤智章・法政理論〔新潟大学〕33巻3号180~193頁2001年2月/山下昇・平成11年度重要判例解説〔ジュリスト臨時増刊1179〕211~213頁2000年6月/小畑史子・労働基準53巻2号24~28頁2001年2月/大石玄・労働法律旬報1488号56~62頁2000年9月25日/長谷川珠子・法学〔東北大学〕64巻6号137~141頁2001年2月
判決理由 〔休職-休職の終了・満了〕
 労働者が私傷病により休職となった以後に復職の意思を表示した場合、使用者はその復職の可否を判断することになるが、労働者が職種や業務内容を限定せずに雇用契約を締結している場合においては、休職前の業務について労務の提供が十全にはできないとしても、その能力、経験、地位、使用者の規模や業種、その社員の配置や異動の実情、難易等を考慮して、配置替え等により現実に配置可能な業務の有無を検討し、これがある場合には、当該労働者に右配置可能な業務を指示すべきである。そして、当該労働者が復職後の職務を限定せずに復職の意思を示している場合には、使用者から指示される右配置可能な業務について労務の提供を申し出ているものというべきである。〔中略〕
 前記認定によれば、平成九年一二月当時の原告の身体の状態は、〔1〕歩行については、多少のふらつきがあり、時間がかかるものの、杖なしに独立の歩行が可能であり、〔2〕握力も左手に比べて右手の方が弱いものの、健常人のそれと大差がなく、ただ右手指の動きが悪いため文字を書くなどの細かい作業が困難であり、〔3〕構語障害については、会話の相手方が十分認識出来る程度であり、〔4〕複視はあるものの、その程度は軽く、たまには焦点が合うこともあるというものであった。また血圧については、服薬により一定のコントロールが出来ており、やや高めながらも安定しており、健康管理を続ければ脳血管疾患の再発の危険性は少ない。
 以上のような被告内での職務内容の変更状況や原告の身体の状況等を考慮した場合、原告が就労可能であったと主張する各業務のうち、少なくとも大二両における工具室での業務は就業可能であり、原告を交検業務から右工具室での業務に配置替えをすることも可能であったとするのが相当である。〔中略〕
 身体障害等によって、従前の業務に対する労務提供を十全にはできなくなった場合に、他の業務においても健常者と同じ密度と速度の労務提供を要求すれば労務提供が可能な業務はあり得なくなるのであって、雇用契約における信義則からすれば、使用者はその企業の規模や社員の配置、異動の可能性、職務分担、変更の可能性から能力に応じた職務を分担させる工夫をすべきであり、被告においても、例えば重量物の取り扱いを除外したり、仕事量によっては複数の人員を配置して共同して作業させ、また工具等の現実の搬出搬入は貸出を受ける者に担当させるなどが考えられ、被告の企業規模から見て、被告がこのような対応を取り得ない事情は窺えない。そうであれば、少なくとも工具室における業務について原告を配置することは可能であり、原告について配置可能な業務はないとする被告の右主張は採用できないところである。〔中略〕
 原告が休職期間中に復職ができないとした被告の判断は、右誤った本件判定委員会の判断に基づくものであること、前述のとおり当時の原告の状態からして客観的には少なくとも工具室勤務は可能な状態であったこと、前述のとおり、A所長らが、B医師から原告の症状が固定し、軽作業等可能であるとの判断も聞き、また右のような原告の状態をみているにもかかわらず、判定委員会の結論が出る以前において、復職させる場所がないとの判断を先行させていることに照らし、その判断に誤りがあるものといわざるを得ない。
 従って、現実に復職可能な勤務場所があり、本人が復職の意思を表明しているにもかかわらず、復職不可とした被告の判断には誤りがあると言わざるを得ないから、被告による原告に対する本件退職扱いは就業規則に反し無効である。