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ID番号 07391
事件名 遺族補償給付等不支給処分取消請求上告事件
いわゆる事件名 アーク溶接・佐伯労働基準監督署長事件
争点
事案概要  長年にわたり粉じん作業に従事し、じん肺管理区分三と、その後労働者が、じん肺及びこれに合併する肺結核にかかり、原発性肺がんにより死亡した労働者の遺族が、右死亡には業務起因性があるとして遺族補償不支給処分の取消しを求めていたケースの上告審で、右原発性肺がんと粉じん作業との間には相当因果関係は認められないとした原審判断が相当とされ、遺族の上告が棄却された事例。
参照法条 労働基準法施行規則35条別表1の2第9号
じん肺法施行規則2条
労働者災害補償保険法7条1項1号
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 業務起因性
労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 職業性の疾病
裁判年月日 1999年10月12日
裁判所名 最高三小
裁判形式 判決
事件番号 平成7年 (行ツ) 53 
裁判結果 棄却(確定)
出典 時報1695号129頁/タイムズ1018号192頁/裁判所時報1253号1頁/労働判例769号16頁
審級関係 控訴審/06420/福岡高/平 6.11.30/平成3年(行コ)7号
評釈論文 仙波啓孝・平成12年度主要民事判例解説〔判例タイムズ臨時増刊1065〕389~391頁2001年9月/保原喜志夫・月刊ろうさい51巻1号4~8頁2000年1月
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務起因性〕
〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-職業性の疾病〕
 労働省労働基準局長の委嘱により、じん肺と肺がんとの関連に関する専門家会議は、昭和五一年九月以降じん肺による健康障害についての検討を行った結果、同五三年一〇月一八日付けをもって、「じん肺と肺がんとの関連に関する専門家会議検討結果報告書」(以下「専門家会議報告書」という。)を作成提出した。同報告書の中心を流れる考え方を要約すると、石綿肺を除くじん肺と合併肺がんの関連について、直接的な因果関係を主張するに足る知見は、国の内外を問わず得られておらず、むしろ、因果関係の存在を否定する見解が支配的であり、右因果関係については将来の解明に待つべきことを述べるものである。
 5 専門家会議報告書以後の内外の医学的研究の成果によっても、同報告書の見解との間に大きな状況の変化は認められない。また、けい酸ないしけい酸塩の発がん性に関する内外の知見を総合すると、右発がん性があることは医学上いまだ確定されておらず、むしろ消極説が現段階の支配的見解と考えられる。そして、じん肺患者に肺がんが発生する仕組みについては、いくつかの見解が主張されているものの、いずれも現時点においては仮説にすぎず、医学上の定説となるには至っていない。けい肺と肺がんとの間に何らかの関連性があることは強く示唆されるが、一方、肺がん発生リスクは、既知の職業がんの場合におけるリスクに匹敵するほど高いものではなく、これと同一のレベルで論ずることはできないとされている。また、外因性の肺がんには、職業的有害因子によるもののほかに、喫煙のように非職業的有害因子によるものも含まれるので、その影響を適切に評価する必要がある。このため、調査対象の選択や解析方法の相違によっては、粉じん作業と肺がんとの間の因果関係につき、肯定的な結論が得られたり、得られなかったりするのであろうし、研究者の間で調査対象の選択や解析方法の正当性をめぐって際限のない議論が繰り返されており、いずれが正当であると判断することができるような状況にはない。
 これらの検討結果等を総合すると、現時点においては、じん肺と肺がんとの間に、病理学的因果関係はもとより、疫学的因果関係の存在もいまだこれを確証することができない。結局、現在の医学的知見では、じん肺と肺がんとの間の関連性が示唆されているにとどまり、直ちに高度の蓋然性をもって両者の間の一般的因果関係を認めるに至っていない。〔中略〕
〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-職業性の疾病〕
 原審の適法に確定した前記事実関係によれば、Aの従事した粉じん作業が直接的又は間接的に同人の肺がんを招来したという関係を是認し得る高度の蓋然性が証明されたとまではいまだいえず、右の因果関係につき通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持つにはいまだ不十分であるとする趣旨の原審の前記判断は、正当として是認すべきものというほかはない。