ID番号 | : | 07392 |
事件名 | : | 地位保全等仮処分命令申立事件 |
いわゆる事件名 | : | セガ・エンタープライゼス事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 平成二年に大学院卒の正社員として採用された従業員が、特定の業務分野のないパソナルーム勤務を命じられた後に、労働能率が劣り、向上の見込みがない、積極性がない、自己中心的で協調性がない等として解雇されたことに対して、右解雇を無効として地位保全・賃金仮払いの仮処分を申し立て、会社主張の解雇理由は具体的事実の裏付けがないとして、請求が一部認容された事例 |
参照法条 | : | 労働基準法89条1項3号 民法1条3項 |
体系項目 | : | 解雇(民事) / 解雇事由 / 職務能力・技量 解雇(民事) / 解雇権の濫用 |
裁判年月日 | : | 1999年10月15日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 決定 |
事件番号 | : | 平成11年 (ヨ) 21055 |
裁判結果 | : | 一部認容、一部却下 |
出典 | : | 労働判例770号34頁/労経速報1722号15頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 宮川泰彦・労働法律旬報1530号30~33頁2002年6月25日/田中達也・季刊労働法196号183~189頁2001年7月/野川忍・ジュリスト1185号122~125頁2000年9月15日 |
判決理由 | : | 〔解雇-解雇事由-職務能力・技量〕 債権者は、人材開発部人材教育課において、的確な業務遂行ができなかった結果、企画製作部企画制作一課に配置転換させられたこと、同課では、海外の外注管理を担当できる程度の英語力を備えていなかったこと、A会社から苦情が出て、国内の外注管理業務から外されたこと、アルバイト従業員の雇用事務、労務管理についても高い評価は得られなかったこと、加えて、平成一〇年の債権者の三回の人事考課の結果は、それぞれ三、三、二で、いずれも下位一〇パーセント未満の考課順位であり、債権者のように平均が三であった従業員は、約三五〇〇名の従業員のうち二〇〇名であったこと(前記一3(一)ないし(三))からすると、債務者において、債権者の業務遂行は、平均的な程度に達していなかったというほかない。〔中略〕 ただ、右のように、債権者が、債務者の従業員として、平均的な水準に達していなかったからといって、直ちに本件解雇が有効となるわけではない。〔中略〕 就業規則一九条一項各号に規定する解雇事由をみると、「精神又は身体の障害により業務に堪えないとき」、「会社の経営上やむを得ない事由があるとき」など極めて限定的な場合に限られており、そのことからすれば、二号についても、右の事由に匹敵するような場合に限って解雇が有効となると解するのが相当であり、二号に該当するといえるためには、平均的な水準に達していないというだけでは不十分であり、著しく労働能率が劣り、しかも向上の見込みがないときでなければならないというべきである。 債権者について、検討するに、確かにすでに認定したとおり、平均的な水準に達しているとはいえないし、債務者の従業員の中で下位一〇パーセント未満の考課順位ではある。しかし、すでに述べたように右人事考課は、相対評価であって、絶対評価ではないことからすると、そのことから直ちに労働能率が著しく劣り、向上の見込みがないとまでいうことはできない。〔中略〕 就業規則一九条一項二号にいう「労働能率が劣り、向上の見込みがない」というのは、右のような相対評価を前提とするものと解するのは相当でない。すでに述べたように、他の解雇事由との比較においても、右解雇事由は、極めて限定的に解されなければならないのであって、常に相対的に考課順位の低い者の解雇を許容するものと解することはできないからである。 債務者提出にかかる各陳述書(〈証拠略〉)には、債権者にはやる気がない、積極性がない、意欲がない、あるいは自己中心的である、協調性がない、反抗的な態度である、融通が利かないといった記載がしばしば見受けられるが、これらを裏付ける具体的な事実の指摘はなく、こうした記載は直ちに採用することはできない。〔中略〕 〔解雇-解雇権の濫用〕 債務者としては、債権者に対し、さらに体系的な教育、指導を実施することによって、その労働能率の向上を図る余地もあるというべきであり(実際には、債権者の試験結果が平均点前後であった技術教育を除いては、このような教育、指導が行われた形跡はない。)、いまだ「労働能率が劣り、向上の見込みがない」ときに該当するとはいえない。 なお、債務者は、雇用関係を維持すべく努力したが、債権者を受け入れる部署がなかった旨の主張もするが、債権者が面接を受けた部署への異動が実現しなかった主たる理由は債権者に意欲が感じられない(前記一4(一))といった抽象的なものであることからすれば、債務者が雇用関係を維持するための努力をしたものと評価するのは困難である。 したがって、本件解雇は、権利の濫用に該当し、無効である。 |