全 情 報

ID番号 07396
事件名 地位確認等請求控訴事件
いわゆる事件名 京王自動車事件
争点
事案概要  タクシー会社に勤務する乗務員が、勤務中に同僚との間で、無線配車に関するルールの違反をめぐって争いとなり、同僚の営業車両のエンジンキーを抜き取って乗務できない状況にしたことを理由として懲戒解雇され、右解雇を無効であるとして従業員としての地位確認を請求したケースの控訴審で、右解雇は解雇権濫用に当たるとはいえないとして、解雇を無効として従業員としての地位確認を認めた原審を取消し、会社側の控訴が認容された事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項9号
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 自宅待機命令・出勤停止命令
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 暴力・暴行・暴言
懲戒・懲戒解雇 / 処分の量刑
裁判年月日 1999年10月19日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 平成11年 (ネ) 102 
裁判結果 認容(上告)
出典 労働判例774号23頁/労経速報1715号21頁
審級関係 一審/07242/東京地/平10.11.24/平成9年(ワ)21790号
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-自宅待機命令・出勤停止命令〕
 当裁判所も、控訴人のした出勤停止命令は懲戒処分ではなく、本件懲戒解雇が二重処罰に該当する旨の被控訴人の主張は理由がないものと判断する。その理由は、次の2のように原判決について訂正をするほか、原判決「事実及び理由」の第三「争点に対する判断」の一(原判決一三頁末行から一五頁一〇行目まで)の説示と同一であるから、これを引用する。〔中略〕
 控訴人会社においては、〔1〕遠方からの配車を排除して迅速な配車を行い、乗務員の秩序を守ることにより、利用者の利便を確保すること、〔2〕適正な目安で配車することにより、速度超過等による事故発生を防止すること、〔3〕一定の基準を設定することにより、乗務員間の不公平や軋轢をなくすこと等を目的として、無線センターの開設に伴い、各営業所と組合支部との申し合わせ事項として無線ルールが定められ、各営業所に共通の基本的なルールとともに各地区ごとの地域の特性を踏まえた個別の無線ルールが定められている。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-暴力・暴行・暴言〕
 被控訴人自ら無線ルールの趣旨に反する対応を直前にしていたにもかかわらず、右Aの対応を一方的に無線ルール違反と決めつけて同人のみを殊更に難詰し、組合役員又は班長への上申又は照会という正規の手続を経ることなく、会社の判断も仰がずに独断で私的かつ暴力的な制裁を加えた被控訴人の行為は、その動機において到底正当なものとはいえないというべきである。〔中略〕
 右のとおり、無線ルールの運用について組合役員又は班長への上申又は照会という正規の手続を経ることなく、会社の判断も仰がずに独断で私的かつ暴力的な制裁を加えた被控訴人の所為は、乗務員に許容される権限の範囲を著しく逸脱し、その態様自体が著しく会社秩序を乱すものというべきである。〔中略〕
 被控訴人は、各社のタクシー車両が多数待機している駅構内に連なる公道上で、同僚の乗務員に対して暴行を加えた上、会社から営業財産として当該乗務員に委託された車両のエンジンキーを奪取して運行不能の状態に陥れ、公道に置き去りにしたまま自己の車両に顧客を乗せて立ち去ったものであり、他の乗務員等の協力がなければ、被控訴人が駅構内に戻るまでより長時間にわたって運行不能の状態が続いたものと推認されること、本件事件の対応のためにA及び他の複数の乗務員が一時間以上にわたって業務の中断を余儀なくされたこと等を考慮すると、被控訴人の本件行為は、単にA個人との関係にとどまらず、会社秩序を著しく乱すのみならず、会社財産を不当に侵害し、その業務を妨害するとともに、会社の信用を毀損する行為であり、当該行為の規律違反の程度は、重大であるというべきである。
〔懲戒・懲戒解雇-処分の量刑〕
 〔1〕(控訴人の本件行為は、会社秩序を著しく乱すのみならず、会社財産を不当に侵害し、その業務を妨害するとともに、会社の信用を毀損する重大な行為であること、〔2〕被控訴人自ら無線ルールの趣旨に反する対応をしながら、他の乗務員の対応を一方的に無線ルール違反と決めつけて殊更に難詰し、組合役員又は班長への上申又は照会という正規の手続を経ることなく、会社の判断も仰がずに独断で私的かつ暴力的な制裁を加えた被控訴人の所為は、乗務員に許容される権限の範囲を著しく逸脱し、その動機においても到底正当なものとはいえないこと、〔3〕事後の対応も、営業所長への始末書の提出を再三拒み、本社の事情聴取の際も自己の過失を否定する発言に終始するなど、事柄の重大性に対する認識を欠き、真摯な反省が示されておらず、不適切なものであったこと、〔4〕右〔3〕の点も含めて、被控訴人の処分を軽減すべき有利な情状は見当たらず、調査の結果不利な情状の方が数多く明らかになったこと、〔5〕控訴人会社における他の非違行為等の事例との均衡を失するものとはいえず、現に本件懲戒解雇については被控訴人の所属する組合も事前に了承していること等の諸般の事情を総合して考慮すると、被控訴人の本件行為が就業規則七条二項及び九条に違反することは明らかであり、控訴人が同規則七八条一項、七九条一項を適用して被控訴人を懲戒解雇としたことは相当な措置であったといわざるを得ないのであって、本件懲戒解雇が解雇権の濫用に当たるとは到底認められない。