全 情 報

ID番号 07404
事件名 未払給料請求事件
いわゆる事件名 松田砂利工業事件
争点
事案概要  会社が、週四〇時間制への移行に伴い就業規則を改正し、休日を月に二日増やしたが、日給制である労働者の給与が二日の休日分だけ減額されることになったことを理由として、右給与を減額される労働者が、就業規則の不利益変更に当たり、効力は及ばないとして、すでに受け取っていた賃金と新就業規則実施後の賃金の差額及び昼休み時間のうち四五分を待機時間として時間外手当を請求したケースで、前者については、不利益の程度が大きく変更に合理性が認められないとして、請求が認容され、後者については、右合意は労基法三四条違反し無効であるとして棄却された事例。
参照法条 労働基準法89条1項2号
労働基準法93条
労働基準法34条
体系項目 就業規則(民事) / 就業規則の一方的不利益変更 / 賃金・賞与
休憩(民事) / 「休憩時間」の付与 / 休憩時間の定義
裁判年月日 1999年12月21日
裁判所名 大分地
裁判形式 判決
事件番号 平成10年 (ワ) 442 
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 労経速報1721号22頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔就業規則-就業規則の一方的不利益変更-賃金・賞与〕
 新たな就業規則の作成又は変更によって労働者の既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは原則として許されないが、労働条件の集合的処理、特にその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいって、当該規則条項が合理的なものである限り、個々の労働者において、これに同意しないことを理由としてその適用を拒むことは許されない。そして、右にいう当該規則条項が合理的なものであるとは、当該規則の作成又は変更が、その必要性及び内容の両面からみて、それによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても、なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認することができるだけの合理性を有するものであることをいい、特に賃金、退職金など労働者にとって重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については、当該条項がそのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずるものというべきである。右の合理性の有無は、具体的には、就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度、使用者側の変更の必要性の内容・程度、変更後の就業規則の内容自体の相当性、代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況、労働組合等との交渉の経緯、他の労働組合又は他の従業員の対応等を総合考慮して判断すべきである。〔中略〕
 本件就業規則により、一か月の賃金は、Aで一万八六一〇円、Bで一万八八九〇円のそれぞれ減額となるべきもので、原告らに及ぼす経済的不利益の程度は相当大きいものである。
 他方、週四〇時間労働制を実施するために、被告において労働時間の配分を統一的、画一的に行うべく就業規則を変更する必要性が生じたことが認められる。しかし、これを実施するための方策としては、一日の労働時間を短くして休日を増やさない方法もあるところ、被告は、休日を増加させないで週四〇時間労働制を導入すると、一日の労働時間が七時間以下となる日が生じ、事業効率が著しく低下すると主張し、Cもこれに沿う供述をするが、その内容は抽象的であって、右主張を具体的に認めるに足りる証拠はない。
 以上のとおり、原告らの被る不利益の程度は大きい上、週四〇時間労働制実施のために休日を一か月に二日増加させることが必要とまでは認められないし、原告ら従業員と被告とは、週四〇時間労働制実施に際して、原告ら日給制従業員の一か月の賃金を減少させないことを前提としていたと認められ〔中略〕 、経理事務員等月給制の従業員については、休日の増加によっても一か月の賃金は減少しない。そうすると、前記認定のとおり、本件就業規則によって休日が増え、一日の労働時間が七時間二〇分から七時間に短縮し、また、その結果、日給制の原告らにとっては基本日額に変更がないため時間単位当たりの賃金が約四・八パーセント上昇した(短縮された労働時間二〇分が短縮後の労働時間七時間に占める割合分賃金が上昇したことになる)という事情を考慮しても、前記で説示したような合理性を認めることはできない。したがって、月に休日を二日増やすという本件就業規則の条項は、原告らに対してはその効力を生じないものというべきであり、被告は、原告らに対し、休日の増加により減少した勤務日数分の日給を支払う義務がある。
〔休憩-「休憩時間」の付与-休憩時間の定義〕
 原告らは、〔1〕昼休み時間のうち四五分を待機時間として時間外手当を支給すること及び、〔2〕始業時間前の五分について仕業点検として時間外手当を支給することが被告との間で合意されていたとし、新勤務体系に移行してこれらが支給されなくなったとして、これらの合意に基づき、これら時間外手当の支払を求めるものと解される。
 しかしながら、右〔1〕の合意は、法三四条に違反し無効であるから、同合意自体に基づいて時間外手当の支払を求めることはできないというべきである。なお、原告らは、同条は片面的強行法規であって、労働者が同意する限り、右[1]の合意は有効である旨主張するが、独自の見解というほかなく、到底採用することができない。