ID番号 | : | 07409 |
事件名 | : | 損害賠償請求、退職手当金請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 兵庫県社土木事務所事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 兵庫県社土木事務所に勤務していた従業員Xが家族を置いて失踪し所在、生死共に不明となり無断欠勤が続いたことから、行方不明から約二か月後に、兵庫県が無断欠勤を理由として地方公務員法の規定に基づいて懲戒処分として免職する旨を記載した人事発令通知書及び処分説明書を作成して、Xの妻に交付し、かつ右通知書の内容を県公報(図書館等で閲覧可能)に登載し、右公報をXの最後の住所(家族居住)に郵送したが、民法九七条の二の公示による意思表示の手続はとらなかったことから、Xの不在者財産管理人が、免職の効力は生じておらず、Xは定年退職したものであるとして、退職手当金の請求をしたケースの控訴審(兵庫県が控訴)で、一審では、民法上の公示方法によらなくても県公報への掲載等により、Xは処分がなされることを了知しえたとして懲戒処分は有効であるとしてXの請求を棄却していたが、一審を取り消して退職手当金の請求が認容された事例。 |
参照法条 | : | 民法97条の2 人事院規則12-0(職員の懲戒)第5条2項 兵庫県職員の懲戒の手続及び効果に関する条例2条 |
体系項目 | : | 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒免職の公示手続 |
裁判年月日 | : | 1996年11月26日 |
裁判所名 | : | 大阪高 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成8年 (ネ) 469 |
裁判結果 | : | 取消、認容(上告) |
出典 | : | 時報1609号150頁/タイムズ950号122頁/労経速報1738号5頁/判例地方自治159号46頁 |
審級関係 | : | 上告審/07362/最高一小/平11. 7.15/平成9年(オ)367号 |
評釈論文 | : | 細川俊彦・判例地方自治170号31~33頁1998年3月/木ノ下一郎・税54巻8号140~144頁1999年8月 |
判決理由 | : | 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒解雇・懲戒免職処分の意思表示の方法〕 兵庫県職員の懲戒の手続及び効果に関する条例(昭和三八年四月一日条例三一号)二条は、職員に対する「懲戒処分としての免職の処分は、その理由を記載した書面を当該職員に交付して行なわなければならない」と定めている。しかし、その職員が所在不明で、書面を交付して処分を通知することが不可能な場合の処分手続については規定がない。他に被控訴人の条例・規則においても、このような場合の処分手続を定めた規定は存在しない。〔中略〕 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒解雇・懲戒免職処分の意思表示の方法〕 公務員の免職の行政処分の効力発生時期は、特別の規定のない限り、意思表示の一般法理に従い、その意思表示が相手方に到達した時、すなわち、辞令書の交付その他公の通知によって、相手方が現実にこれを知り、または相手方が知りうる状態におかれた時と解される(最高裁昭和二六年(れ)第七五四号同二九年八月二四日第三小法廷判決・刑集八巻八号一三七二頁)。 四 これを本件にみると、まず本件懲戒免職処分が控訴人に現実に到達して、控訴人がこれを現実に知ったことがないことは、前記認定のとおりである。 前記二1、3のとおり、控訴人出奔前の住所においてその妻に人事発令通知書等を交付し、右住所に県公報を送付しているのであるが、控訴人は既にその二月余前に右住所を出奔し、生死・所在ともに不明となっていたのであるから、一時的な外出・旅行の場合とは異なり、これをもって相手方(控訴人)が処分を知りうる状態におかれたとすることはできない。〔中略〕 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒解雇・懲戒免職処分の意思表示の方法〕 被控訴人は、法律や条例の規定がない場合でも、民法九七条ノ二の手続きによることなく自ら、前記二1、2、3の手続きを行うことにより処分通知の効力を生じさせることができると主張する。 しかしながら、公務員行政は法令の根拠に基づいて行われるべきものである。公示による意思表示によって相手方が現実に通知を知ることがほとんどないのは当裁判所に顕著であるところ、このような方法により免職などの不利益な処分の効力を発生させ、不服申立の期間も進行させられるとすれば、その正当性の根拠は、法令により、公示による意思表示の存在が相手方を含め、一般的に予告されているところにあると解せられるから、法令の根拠もなくして、懲戒免職処分の効力を生じさせることはできない。前記最高裁昭和二九年八月二四日判決も、相手方が現実にこれを知り、または相手方が知りうる状態におかれた場合以外で、免責処分の効力が生じるのは、「特別の規定」のある場合に限られるとしているところである。 行方不明者に対し行政処分の効力を生じさせる必要性があるのは否定できない。しかしながら、民法九七条ノ二の規定により公示による意思表示が現に可能であり、また県は、適切な要件の下で、自ら公示による意思表示を行える旨の条例を制定することができるのであるから、右のような原則を無視してまで処分者自身による公示を認める必要はない。 以上判断のとおり、地方公務員の免職処分については、法令の根拠なくして、被控訴人(知事)が自ら公示による意思表示を行うことはできない。したがって被控訴人の行った前記二1、2、3の手続きによっては免職の意思表示が控訴人に到達したとみなすことができず、その効力は生じていない。 |