ID番号 | : | 07419 |
事件名 | : | 保険金請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 東海ベントナイト化工事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 鋳物用の粘結剤等の販売等を業とする会社Yの従業員Bの妻Xが、Yは保険会社との間で被保険者をB、保険金受取人をYとする逓増収入保障特約付平準定期保険契約(保険金+家族の生活保障のための逓増月払給付金支給)を締結していたところ、Bの死亡により右保険金等を受領したことから、BとYの間で右保険金は死亡退職金もしくは弔慰金としてXらに支払われる旨の合意が成立していたとして、右保険金等の引渡しを請求したケースで、保険契約は被保険者ないしその家族の生活保障にあり、Bが保険契約締結に同意を与えた時点でYはXに対し右保険金の相当額を死亡退職金もしくは弔慰金として支払う旨の合意が成立していたとしたうえで、Xらに具体的に支払う額については、保険契約を締結した目的には節税対策や解約返戻金による利益の先送りが含まれていたこと等から、保険金の額からYが支払った保険料及び税金を差し引いた額をYとXが折半して取得するのが相当として、請求が一部認容された事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法89条1項3号の2 商法674条1項 |
体系項目 | : | 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 団体生命保険 |
裁判年月日 | : | 1998年12月16日 |
裁判所名 | : | 名古屋地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成7年 (ワ) 2380 |
裁判結果 | : | 一部認容、一部棄却(確定) |
出典 | : | タイムズ1045号264頁/労働判例758号36頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労働契約-労働契約上の権利義務-団体生命保険〕 (一) 本件保険契約の主契約である無配当平準定期保険普通保険は、約款上、被保険者である従業員が保険期間中に死亡し、または所定の高度障害状態になったときに保険金の支払いを保障するものであって、右原因が業務上の災害によるものかを問わない。また、本件保険契約の逓増収入保障特約は、約款上、被保険者である従業員が死亡または高度障害に該当し、主たる契約の死亡保険金または高度障害保険金が支払われた場合、以後、所定の期間まで被保険者の家族の生活保障のため毎年一定の率で逓増する月払給付金を支払うものと記載されている。 したがって、本件保険契約は、保険約款上、主契約及び特約ともに、被保険者ないし、その家族の生活保障の目的を有していると認められる。 (二) 昭和六三年当時、被告の取締役で、従業員から社長と言われていたAは、従業員であるBに対し、負傷して働くことができなくなった場合や死亡した場合等に、被告が、Bまたは遺族に対し、特約の付いた本件保険金から相当額の補償金を支払うと説明して、本件保険契約の被保険者になるように申入れた。そのためBは、同人を被保険者とし、保険金受取人を被告とする本件保険契約を被告が締結することに、商法六七四条一項の同意をしたものである。 したがって、Bと被告の当時の担当者で、実質上、被告の代表権限を有していたと認められるA社長は、本件保険契約が、主契約及び特約ともに、被保険者ないし、その家族の生活保障の目的を有し、保険事故としてBが死亡した場合に支払われる保険金の相当部分が死亡退職金もしくは弔慰金として被保険者の遺族に支払われることを了解していたものと認められる。〔中略〕 〔労働契約-労働契約上の権利義務-団体生命保険〕 (四) 以上のほか、一般に、他人の生命保険は、保険金目的の犯罪を誘発したり、賭博保険や人格権侵害の恐れがあるので、こうした危険を防止するため、商法六七四条一項は被保険者の同意を要件としていて、濫用的運用は許されないこと、並びに、本件保険契約が締結された昭和六三年九月及びBが死亡した平成六年一〇月当時、被告には、退職金もしくは弔慰金について定めた就業規則や労働協約等はなかったこと等を考慮すると、被告が、従業員であるBを被保険者とする本件保険契約を締結した目的には、被告の節税対策や解約返戻金による利益の先送りのほかに、被告の従業員に対する福利厚生ないし遺族の生活保障のため、本件保険金の相当額を、被保険者の高度障害の場合の給付金や、死亡の場合の遺族に対する死亡退職金もしくは弔慰金として支給することが含まれていたと解するのが相当である。〔中略〕 〔労働契約-労働契約上の権利義務-団体生命保険〕 被告は、本件合意【1】に従い、受益の意思表示をした原告に対し、本件保険金の相当部分を死亡退職金もしくは弔慰金として支払う義務があるというべきである。〔中略〕 〔労働契約-労働契約上の権利義務-団体生命保険〕 本件保険契約は、被告が自らを保険金受取人としてC会社と契約を締結して保険料を支払ってきたものであり、他方、Bが前立腺癌に罹患しなかったら死亡時の五三歳から保険期間の七五歳まで二二年間の約半分の期間は被告で稼働できたものと推認できることなどを考慮すると、本件保険金八九四九万円から、右保険金を取得するために被告が支払った保険料七一八万二七六〇円、及び税金一九八八万一三〇〇円を差し引いた金額を、被告と、Bの家族である原告が、それぞれ折半して取得するのが相当である。 さらに、右金額から、被告は節税対策及び利益の先送りの目的も考慮して本件保険契約の保険金額及び保険料を決定したこと、被告がこれまで従業員であるBのために経済的負担を行ってきた経緯、並びに、従業員間の平等取扱の要請等を併せ考えると、被告がBにつき出捐した入院治療費五四二万九六七五円、及び葬儀費用五〇万円、並びに原告が既に受領済みの死亡退職金二四一万八〇六四円を差し引くことが、当事者間の衡平に適うものと認める。 そうすると、被告が、本件保険金のうちから、原告に対し死亡退職金もしくは弔慰金として支払うべき金額は、次のとおり、二二八六万五二三一円をもって相当と認める。 |