ID番号 | : | 07423 |
事件名 | : | 地位保全等仮処分命令申立事件 |
いわゆる事件名 | : | ナショナル・ウエストミンスター銀行(二次仮処分)事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 金融、為替取引、証券、投資顧問業務などの複数の業務部門によって構成された外資系企業グループに所属する銀行Yの東京支店で、入社以来トレードファイナンス(貿易金融業務)関係の事務を担当し、アジア・パシフィック部門のアシスタント・マネージャーであった労働者Xが、グループの経営戦力の転換に基づくアジア地区におけるトレードファイナンス業務の廃止の決定により、担当業務が消滅したこと及びXを従来の地位を保持させたまま配転させうるポジションがないことを理由に退職勧奨されたが、これを拒否したことから関連会社への職務転換を提案されたが、給与が相当程度下回ることから出向は受諾したものの賃金等の労働条件は労働組合との交渉に委ねることとしたが、一定の期限内に会社の提案を受諾しなければ三〇日経過後に解雇する旨の通知がなされたため、労働条件については争う権利を留保しつつ受諾する旨の通知をしたが、結局、解雇されたことから、本件解雇は就業規則の解雇事由に該当しないものであり、また解雇権濫用により無効であるとして、(1)労働契約上の地位確認及び(2)賃金支払を求める仮処分申立てをしたケースの第二次処分で、本件解雇については経営上の必要性があると認められるものの、人員削減の方法として解雇という方法以外があったにもかかわらず解雇を選択していることなどから、経営上の必要性が企業経営上の観点から合理性を有すると認めることはできないとして、(1)について、請求が認容された事例。なお、(2)については保全の必要性がないとして請求棄却。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 民法627条1項 労働基準法89条1項3号 民法1条3項 |
体系項目 | : | 解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の必要性 解雇(民事) / 解雇事由 / 就業規則所定の解雇事由の意義 解雇(民事) / 解雇の自由 解雇(民事) / 解雇権の濫用 解雇(民事) / 解雇と争訟・付調停 |
裁判年月日 | : | 1999年1月29日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 決定 |
事件番号 | : | 平成10年 (ヨ) 21249 |
裁判結果 | : | 一部認容、一部却下 |
出典 | : | 労働判例782号35頁/労経速報1755号15頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔解雇-解雇事由-就業規則所定の解雇事由の意義〕 本件就業規則二九条の前段は「解雇は、次の場合に限り行う。」という規定の仕方ではなく、「行員は、次の各号のいずれかにあてはまる場合には、解雇されることがある。」という規定の仕方であって、その規定の仕方を見る限り、いわゆる普通解雇事由に基づいて解雇権を行使しうるのは本件就業規則二九条の前段に掲げる解雇事由に限られているとはいいがたいこと、現に本件就業規則三〇条の第三段及び本件給与規則一〇条には長期疾病の場合に行員が解雇されることがあることが定められているが、この解雇事由は本件就業規則二九条の前段に掲げる解雇事由には挙げられていないこと、以上によれば、債務者はいわゆる普通解雇事由に基づいて解雇権を行使しうるのは本件就業規則二九条の前段に掲げた解雇事由に限られるという趣旨で本件就業規則二九条の前段を設けたわけではないと解するのが相当である。〔中略〕 本件就業規則二九条の前段に定める事由に該当しない普通解雇も許されるというべきである。 〔解雇-解雇の自由〕 〔解雇-解雇権の濫用〕 (1) 民法六二七条一項は「当事者カ雇用ノ期間ヲ定メサリシトキハ各当事者ハ何時ニテモ解約ノ申入を為スコトヲ得此場合ニ於テハ雇用ハ解約申入ノ後二週間ヲ経過シタルニ因リテ終了ス」と規定しており、期間を定めない雇用については解雇は原則として自由になし得ることを明らかにしている。また、民法六二六条一項は「雇用ノ期間カ五年ヲ超過シ又ハ当事者ノ一方若クハ第三者ノ終身間継続スヘキトキハ当事者ノ一方ハ五年ヲ経過シタル後何時ニテモ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得但此期間ハ商工業見習者ノ雇用ニ付テハ之ヲ一〇年トス」と規定しており、五年を超える期間を定めた雇用といえども、雇用が五年を超えた場合には当事者の一方は理由のいかんを問わずに雇用契約を解除することができることを明らかにしている。 (2) このように解雇は本来自由になし得るものであるというべきところ、最高裁昭和五〇年四月二五日第二小法廷判決(民集二九巻四号四五六ページ)は、「使用者の解雇権の行使も、それが客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合には、権利の濫用として無効になると解するのが相当である。」と述べ、最高裁昭和五二年一月三一日第二小法廷判決(裁判集民事一二〇号二三ページ)は、「普通解雇事由がある場合においても、使用者は常に解雇しうるものではなく、当該具体的な事情のもとにおいて、解雇に処することが著しく不合理であり、社会通念上相当なものとして是認することができないときには、当該解雇の意思表示は、解雇権の濫用として無効になるものというべきである。」と述べており、本来自由になし得る解雇といえども、解雇権の行使が客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合や一応解雇事由があると認められても当該具体的な事情のもとにおいて解雇に処することが著しく不合理であり社会通念上相当なものとして是認することができない場合には、解雇権の行使は権利の濫用として無効であるというべきである。 〔解雇-解雇と争訟〕 本件解雇の理由は債権者の所属部門の閉鎖による担当業務の消滅であり、この解雇事由は本件就業規則二九条前段に定める解雇事由(中略)のいずれにも該当しないのであるが、債務者は普通解雇事由である限りは本件就業規則二九条前段に定める解雇事由以外の事由を主張することは許されるというべきである(中略)から、債務者が本件解雇の理由を主張し疎明した以上は、本件解雇が解雇権の濫用として無効であることを基礎づける事実については債権者においてこれを主張し疎明しなければならないと解される。〔中略〕 〔解雇-整理解雇-整理解雇の必要性〕 (ア) 債権者が余剰人員となり人員削減の対象となったのは資本の効率を高めて収益の拡大を図る(具体的には東京支店について投資銀行としての特化を図る)ためにGTBSアジアパシフィック部門を閉鎖したことによるのであり、東京支店についてGTBSアジアパシフィック部門を存置し続けることによって将来具体的な経営危機が招来されることが想定されていたわけではなかったのであって、このようなGTBSアジアパシフィック部門の閉鎖によって達成しようとした経営上の目的からすれば、人員削減の方法として他に採りうる方法があるにもかかわらず、そのような方法を選択せずに解雇という手段を直ちに選択したとすれば、解雇によって達成しようとする経営上の目的とこれを達成するための手段ないしその結果との間には均衡が失われているというべきである。〔中略〕 〔解雇-整理解雇-整理解雇の必要性〕 債務者の東京支店は現に経営危機に陥っているわけではなく、したがって、債務者が本件解雇後も債権者に本件解雇前の給料を支払って債権者を雇用し続けることが困難な経営状況であったとはいえないこと、債権者は平成五年秋ころに輸出入事務(トレード・ファイナンス)のほかに金融派生商品の後方事務を担当するよう内示を受けたことがあり、また、平成五年三月一二日に債権者に対する人事考課表(〈証拠略〉)を作成した支店長は債権者に対し業務管理部(オペレーション部)の他の部署で経験を積ませることがよいと考えていたのであり(証拠略)、これらの時点では債権者は既にアシスタント・マネージャーであり、したがって、債務者としても債権者には輸出入事務(トレード・ファイナンス)以外の業務をアシスタント・マネージャーとして処理する能力がおよそ欠けていると判断していたわけではないといえること、債務者の東京支店では平成一〇年一、二月ころに為替資金決裁部門のアシスタント・マネージャーが退職しており(証拠略)、債権者の配転が問題となっていた平成九年三月ないし四月の時点において東京支店のアシスタント・マネージャーの役職者について今後数年間のうちに自然減が期待できる状況にはおよそなかったとはいえないこと、以上を総合考慮すれば、余剰人員となった債権者についても直ちに解雇せずにGTBSアジアパシフィック部門以外の他の部署に既に配属されているアシスタント・マネージャーとは別にいわばこれを補佐するような形でアシスタント・マネージャーとして配属し(したがって、債権者は当該部署に配属されるべきアシスタント・マネージャーとしては過員ということになる。)、今後数年間のうちに東京支店のアシスタント・マネージャーの役職者の自然減を待つことによっていずれ債権者が余剰人員ではなくなることを待ち、数年間が経過した時点でもなお債権者が余剰人員であった場合には債権者を解雇するという方法も採り得たものと考えられる。〔中略〕 〔解雇-整理解雇-整理解雇の必要性〕 そうすると、債務者は余剰人員となった債権者について人員削減の方法として解雇という方法以外に右(ウ)で説示したような方法があったにもかかわらず、そのような方法を選択せずに解雇という方法を選択していることに照らせば、本件解雇については解雇によって達成しようとする経営上の目的とこれを達成するための手段ないしその結果との間に均衡が失われているというべきである。 |