全 情 報

ID番号 07427
事件名 退職金請求事件
いわゆる事件名 東京新電機事件
争点
事案概要  会社を満六〇歳に達したために定年退職した元労働者が、退職金規定に基づいて「会社都合による退職以外の場合」の支給率が適用されて退職金が算出・支給(約一一二〇万円)されたが、定年退職は会社都合による退職であるから退職金規定における「会社都合の場合の支給率」(会社都合により退職したもの、在職中に死亡した者等が高い支給率で退職金が支給される旨の規定がある)を適用されるべきであるとして、その支給率を適用して算出した金額(約一三五五万円)との差額分の支払を請求したケースで、退職金規定の条項及び規定の構造からすれば、特段の事由がある場合に、より高い支給率が適用されることになっているが、定年退職の場合は特段の事由として規定にあげられておらず、以前に定年退職した者にも「会社都合による退職以外の場合」の支給率が適用されていること等の理由から、請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法11条
労働基準法89条1項3号の2
体系項目 賃金(民事) / 退職金 / 退職金請求権および支給規程の解釈・計算
裁判年月日 1999年4月20日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成10年 (ワ) 15753 
裁判結果 棄却
出典 労経速報1726号3頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔賃金-退職金-退職金請求権および支給規程の解釈・計算〕
 退職金規定の条項及び規定構造(同規定五条、六条の関係)からすれば、退職金の支給率は別紙乙欄が標準的に適用され(同規定六条)、特段の事由がある場合にのみより高い支給率となる別紙甲欄が適用される(同規定五条)。定年退職の場合は同規定五条の特段の事由として挙げられていない。
 3 前記のとおり、被告の従業員が退職する場合、退職の理由が退職金規定五条所定の事由に該当すれば高い支給率に基づく退職金の支給が受けられるが、これ以外にも、当該従業員が在職中に勤務成績が優秀であったか、特に会社に功労があった場合には、功労加算退職金として退職金が加算される(退職金規定四条)。〔中略〕
〔賃金-退職金-退職金請求権および支給規程の解釈・計算〕
 就業規則二〇条には退職事由として「定年に達したとき」が挙げられている一方、退職金規定五条にはこれが挙げられていない。〔中略〕
〔賃金-退職金-退職金請求権および支給規程の解釈・計算〕
 以上一及び二の事実によれば、被告において定年退職となった者に対して支給すべき退職金の支給率は、退職金規定六条の適用により別紙乙欄のそれであるものと認められる。〔中略〕
〔賃金-退職金-退職金請求権および支給規程の解釈・計算〕
 我が国の企業においては退職事由に応じて支給される退職金額に差を設けるのが一般であるが、高い支給額を定めている理由としては、(1)使用者が永年勤続した退職者に対して功労報償を与えるという点及び(2)退職者の退職後の生活の基盤を形成して、いわば生活保障を一定程度施すという点にあるものと考えられる。この観点から定年退職の場合をみると、定年退職の場合退職の時期は労働者にとって客観的に明らかであるから、(2)の面は定年退職の場合に高い退職金を支給する理由としてはそれほど重要な要素とはならないものと解される。したがって、定年退職の場合に高い退職金を支給する理由としては、(1)の面が重要であるということができる。
 本件被告においては、退職金規定五条に定年退職がその事由として挙げられていないことは前記のとおりであるが、一の3で認定したとおり、退職金規定四条において功労加算退職金の制度が整備されており、定年退職者に対しても同条の適用があることは明らかである。そうすると、被告において定年退職者の被告に対する永年勤続の功労を評価したいと判断すれば、退職金を加算することが可能であるということになる。〔中略〕
〔賃金-退職金-退職金請求権および支給規程の解釈・計算〕
 被告においては、定年退職の場合に一律に高い支給率の適用があるわけではないとはいえ、功労加算退職金の支給によって高い支給率の適用による退職金を支給したのと同様の結果とすることが可能であるから、他の企業との比較で不均衡であるとの批判は必ずしも当たらないと解すべきである。〔中略〕
 2 原告は、被告の就業規則によれば、被告の従業員は満六〇歳に達したときは、当該社員の労働継続の意思、能力等に関係なく、一律に定年により被告を退職することとされ、かつ、被告が必要と認めたときは、嘱託として引き続き在職することができるものとされているから、被告における定年退職制度は被告の都合により定められたものであり、会社都合の退職というべきである旨主張する。
 しかし、右主張は、一般的な意味で定年退職は会社都合の退職であるとの域を出ず、そうである以上、1の判断のとおり右主張は採用できないといわざるを得ない。
なお、原告の右主張中、「会社都合」に当たるとの解釈根拠として、定年退職後被告が必要と認めた場合は嘱託として再雇用することができるとの就業規則上の規定を挙げる部分については、確かに再雇用という側面においては被告の都合により決定することができるが、退職そのものとは明らかに場面を異にするというべきであり、この部分の原告の主張は失当である。