ID番号 | : | 07430 |
事件名 | : | 地位確認等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 筑波大学(外国人教師事件) |
争点 | : | |
事案概要 | : | 筑波大学大学長から期間を二年として招聘され、更に招聘期間を二年延長された右大学外国語センターの外国人教師Xが、招聘された年度以降、毎年期間を一年とする雇用契約の締結を四回にわたり繰り返してきたところ、次回の雇用契約の更新をしない旨の通知がなされたことから、右雇止めは、解雇権の濫用法理の適用又は類推適用により権利濫用又は信義則に違反して無効であるとして、外国人教師であることの地位確認及び賃金支払を請求したケースで、政府又はその機関が国家公務員法二条七項に基づいて外国人教師との間で締結した契約は民法上の雇用契約であり、Xには労働基準法が適用されると解されるとしたうえで、会計法上の制約から大学学長と外国人教師との間での雇用契約を締結する場合は期間の定めを一年以内とする契約しか締結できないこと等から、大学長とXとの間の雇用契約期間満了後の新たな契約締結拒否については、契約期間が一年である限りは解雇権の濫用法理を類推適用できないとし、また本件においては延長された招聘期間及び四回目の雇用契約期間もともに終了していること等から、四回目の雇用契約期間満了後に雇用契約がなお存続している余地はないとして、その他のXの主張も採用されず、請求が棄却された事例。 |
参照法条 | : | 国家公務員法2条7項 労働基準法14条 労働基準法3条 労働基準法2章 民法1条3項 |
体系項目 | : | 労働契約(民事) / 労働契約の期間 労基法の基本原則(民事) / 労働者 / 大学助手・講師・教師 労基法の基本原則(民事) / 均等待遇 / 国籍と均等待遇 解雇(民事) / 短期労働契約の更新拒否(雇止め) |
裁判年月日 | : | 1999年5月25日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成10年 (行ウ) 59 |
裁判結果 | : | 棄却(控訴) |
出典 | : | 労働判例776号69頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 付月・月刊高校教育37巻11号68~74頁2004年8月/李〓・労働法律旬報1486号20~27頁2000年8月25日 |
判決理由 | : | 〔労基法の基本原則-労働者-大学助手・講師・教師〕 国立大学又は国立短期大学の学長が外国人を教授又は研究に従事させるために当該外国人と締結する契約は民法上の雇用契約であると解するのが相当である。〔中略〕 〔労基法の基本原則-労働者-大学助手・講師・教師〕 一般職の職員については、原則として国家公務員法附則一六条により労働基準法の適用が除外され、国家公務員法の一部を改正する法律(昭和二三年一二月三日法律第二二二号)第一次改正法律附則三条により、別に法律が制定実施されるまでの間、国家公務員法の精神に抵触せず、かつ、同法に基づく法律又は人事院規則で定められた事項に矛盾しない範囲内において労働基準法及びこれに基づく命令の規定を準用することとされているが、国家公務員法二条七項に基づいて政府又はその機関と契約を締結する外国人は一般職又は特別職以外の勤務者であるから、そもそも国家公務員法附則一六条の適用がなく、労働基準法及びこれに基づく命令が適用される。 〔労働契約-労働契約の期間〕 A学長が原告との間で締結した雇用契約として原、被告を法的に拘束し、原、被告間に雇用関係を成立させるのは、A学長と原告が会計法上の制約から一年ごとに締結を繰り返している契約の方であって、A学長が原告との間でした招へい期間を二年として原告を外国人教師として招へいすることの合意は、A学長と原告が会計法上の制約から一年ごとに締結を繰り返している契約の前提であり、その合意は右の契約に基づいて成立する原、被告間の雇用関係を規律するものというべきであって、例えば、A学長は、この合意に基づいて、この合意で定められた招へい期間が満了する以前においては会計法上の制約から一年ごとに締結を繰り返している契約に定められた契約期間の満了という理由だけでは新たな契約の締結を拒否することができないという債務を負担しているものと考えられる(したがって、招へい期間は、使用者は原則としてその間は雇用契約を解約できないという意味において、身分保証期間ということができる。)が、そうであるからといって、この合意がA学長が原告との間で締結した雇用契約として原、被告を拘束し、原、被告間に雇用関係を成立させるものということはできないと解される。 そうすると、A学長が原告との間で締結した雇用契約の契約期間はあくまでも一年であって、原告の招へい期間である二年をもってA学長が原告との間で締結した雇用契約の契約期間であるということはできない。A学長が原告との間で締結した雇用契約が労基法一四条に反するということはできない。 〔労基法の基本原則-均等待遇-国籍と均等待遇〕 国立大学又は国立短期大学の学長が外国人を教授又は研究に従事させるために当該外国人と締結する契約は一年を超えない契約期間を定める契約であるとされ、期間を定めない契約を締結することが全く予定されていないのは、国の会計原則として会計年度独立の原則が採用されているため、会計法上の制約として、国立大学又は国立短期大学の学長が外国人教師と締結する雇用契約は会計年度ごとに締結しなければならないとされていることによるのであり、そうであるとすると、国立大学又は国立短期大学の学長が外国人を教授又は研究に従事させるために当該外国人と締結する契約は一年を超えない契約期間を定める契約であるとされ、期間を定めない契約を締結することが全く予定されていないことが、労基法三条で禁止された国籍に基づく労働条件の差別に該当するということはできない。 〔解雇-短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕 期間の定めのある労働契約において労働者が当該労働契約で定められた契約期間の満了後も雇用関係の継続を期待することに合理性があると認められる場合には、そのような契約当事者間における信義則を媒介として、契約期間の満了後の新たな労働契約の締結拒否(雇止め)について解雇に関する法理を類推すべきであると解される(前掲の最高裁昭和四九年七月二二日第一小法廷判決は右の観点から雇止めについて解雇の法理を類推適用したものと解される。)。したがって、国立大学又は国立短期大学の学長が外国人教師と締結する雇用契約の満了後の新契約の締結拒否について解雇権の濫用法理が類推適用されるといえるためには、当該外国人教師が雇用契約で定めた契約期間の満了後も雇用契約に基づいて成立した雇用関係の継続を期待することに合理性があると認められなければならない。〔中略〕 〔解雇-短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕 日本国憲法は、予算は期間を一年間とする会計年度限りで効力を有するという原則を採っているものと解されるところ、この原則は国会による財政の統制(日本国憲法八三条)を実効あらしめるための重要な原則であると考えられ、そこで、財政法は、国の会計原則として予算の経費の年度間の融通を禁止した会計年度独立の原則を採用したのであって、そうであるとすると、仮に国立大学又は国立短期大学の学長が外国人教師との間で一年を超える契約期間を定めた雇用契約や期間の定めのない雇用契約を締結したとしても、その雇用契約は無効であると解されるから、国立大学又は国立短期大学の学長が外国人教師との間で締結する雇用契約で定めた契約期間が一年である場合には、契約期間が満了したにもかかわらず、当該雇用契約の効力が失効しないという事態をそもそも観念することができないものと考えられ(もっとも国立大学又は国立短期大学の学長が外国人教師との間で締結する雇用契約が継続費や繰越明許費や国庫債務負担行為といった支出負担行為としてされたというのであれば、右とは異なる結論となることも考えられないでもないが、国立大学又は国立短期大学の学長が外国人教師と締結する雇用契約が継続費や繰越明許費や国庫債務負担行為といった支出負担行為としてされたことを認めるに足りる証拠はない。)、そうすると、国立大学又は国立短期大学の学長が外国人教師と締結した雇用契約の満了後の新たな雇用契約の締結拒否について、その雇用契約で定めた契約期間が一年である限りは、そもそも解雇権の濫用法理を類推適用することはできないということになる。〔中略〕 〔解雇-短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕 A学長が原告との間で締結した雇用契約は本件四回目の契約で定めた契約期間の終期である平成一〇年三月三一日の経過をもって失効したのであり、A学長が原告との間で締結した雇用契約に解雇権の濫用法理を類推適用する余地はないのであるから、本件通知が解雇の意思表示に当たると解する余地はなく、したがって、本件通知を解雇の意思表示に当たると解してそれが解雇権の濫用に当たるという原告の主張は、その前提を欠いており、採用できない。 |