ID番号 | : | 07434 |
事件名 | : | 保険金請求事件 |
いわゆる事件名 | : | ランバーメンズ・ミューチュアル・カジュアルティー・カンパニー事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 保険相互会社Yと自家用自動車共済共同組合Aとの間で締結された普通傷害保険契約(通勤途上を含む職業又は職務に従事している間に被った傷害に対してのみ保険金を支払うという危険担保特約つき)の被保険者であるAの専務理事Xが、Aの取り扱う自動車共済保険販売のため、自家用貨物自動車事業共同組合Dとの事務打合せ会に出席した後、夕刻から会食及び二次会に参加し、帰宅するべく新神戸駅から新幹線に乗車し、新大阪で在来線に乗換えたが、途中居眠りをしたため、降車するはずの京都駅を乗過ごし、終点の米原駅まで乗車してしまったため引き返そうとしたが、終電時刻を過ぎていたので、タクシーを探そうと付近の国道を横断中に交通事故に遭い、外傷性くも膜下出血等の傷害を受けたため(後遺障害が残存)、業務災害の認定を受けて労災保険給付金が支給されたが、Yからは、本件事故は、業務遂行中のものではなく、また合理的経路からの逸脱中に生じたものであるとして保険事故に当たらないとして保険金請求が認められなかったことから、Yに対して保険金の支払を請求したケースで、Xの打合せ及びこれに続く会食等への参加は、Aの用務に当たり、居眠りのための乗過ごしは私的な意図・目的による経路の逸脱に当らないとして、Xの請求が認容された事例。 |
参照法条 | : | 労働者災害補償保険法1条 労働者災害補償保険法7条 商法629条 |
体系項目 | : | 労災補償・労災保険 / 通勤災害 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 出張中 |
裁判年月日 | : | 1999年6月14日 |
裁判所名 | : | 京都地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成10年 (ワ) 1087 |
裁判結果 | : | 認容(控訴) |
出典 | : | 時報1693号147頁/タイムズ1006号237頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 松本隆・損害保険研究62巻1号229~239頁2000年5月/西村健一郎・月刊ろうさい52巻9号4~7頁2001年9月/竹濱修・判例評論499〔判例時報1715〕219~222頁2000年9月1日 |
判決理由 | : | 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-出張中〕 1 本件会食行為等の業務遂行性の有無 (一) 本件特約上、「被保険者がその職業または職務に従事している間(通勤途上を含みます。)に被った傷害にかぎり」保険金が支払われるものとされているが、ここにいう「職業または職務に従事」の意義については定義規定が置かれていないところ、右特約文言からすれば、労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)一条、七条一項一号所定の「業務」に準じて解釈するのが一般的な保険契約者の通常の意思に沿うものと考えられる。 そこでまず、本件打ち合わせへの参加行為が、事業施設以外における業務である出張に該当するか否かについて検討する。 出張とは、一般に、事業主の包括的又は個別的な命令により、特定の用務を果たすために通常の勤務先(あるいは自宅)から出発し、用務地に赴き、右用地を果たして勤務先ないし自宅に戻るまでの一連の過程をいうのが相当であり、出張に該当するか否かは、事業者の指示命令・内容(社内でどのように取り扱われていたか)、用務先へ赴く目的、右用務の内容、出張者の日常的本来的業務等を考慮して社会通念上出張といえるか否かで判断すべきである。 これを本件についてみると、原告がA会社の唯一の専務理事であり、原告の業務日程については、普段から原告自身が裁量で決定し、A会社にはその旨事後報告していたこと、原告は平成八年頃から丹波地方や淡路地方等多方面に出向いて代理商の開設を進めるなど出張業務も多かったこと、本件打ち合わせの日程調整も原告がBらと相談して決定しており、打ち合わせ後は事務所に帰ることなく直接帰宅する旨の予定を明らかにしていたこと、本件打ち合わせは、A会社がC会社と提携して新商品を販売し、営業基盤を拡大していくという重要なプロポーザル(提案)を行うべく、D会社の所在する神戸市まで赴いていて行われたものであること、D会社のE専務らと原告らとが全員集って会合を開いたのは本件打ち合わせが最初であることなどの事情からすれば、本件打ち合わせへの参加行為は、社会通念上、日常的な外勤業務等の単なる公用外出ではなく、出張と解するのが相当である。〔中略〕 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-出張中〕 往復行為の中断事由が存するか否かについては、右事由が出張で行うべき特定の用務の遂行と密接関連性があるか否かで判断されるべきである。 そして、本件会食行為等は、本件打ち合わせに引き続いて行われたものであり、本件打ち合わせの目的は、A会社とC会社とが共同して新たに販売する新商品のD会社に対するプロポーザルであり、三者間の業務提携という重要営業事項に関する打ち合わせである。その上、右企画が成功するか否かは、D会社の理事会の賛同を得て、その組合員に対する斡旋が積極的に行われるか否かにかかっているところ、本件打ち合わせの相手方はD会社の専務及び常務であり、前記認定によれば、本件打ち合わせによって、両名の協力意思を得て、業務提携に見通しがつき、さらに右企画を確実に成功に導くためには右両名との信頼関係を深めて円満な関係を維持することが必要であったと考えられる。そうすると、相手方であるD会社側から「F」での会食の招待がなされたときは、原告及びBがこれを安易に辞退することは慣例上困難と認められる上、右会食中においても、右経緯からすれば、引き続き業務提携に関する話も行われ、さらに相互の協力体制が深まったものと認めるのが相当である。したがって、右会食行為は、出張で行うべきであった新商品のプロポーザルという用務の遂行と密接関連性を有するものと認められる。 次に、右会食に引き続いて行われた「G」での接待行為は、前記認定事実によれば、右会食を受けてこれに答えるべくBが提案したものであり、新商品の営業活動に赴いた原告及びBの側で、D会社を接待しても不自然ではないところ、逆に同社のE専務らから会食の招待を受けたことに配慮して、彼らを二次会に招待する行為に及ぶのは、一般に広く営業業務上の慣例として行われている接待行為(事業主から営業上特命として指示され、又は営業上必要なものとして許可を得ている接待行為)と何ら変わるところはないというべきである。また、右二次会において、飲酒行為があったり、カラオケが興じられたとしても、引き続き業務提携に関する話題がもたれていたことや、本件打ち合わせの重要性、及び本件打ち合わせや右会食との連続性にかんがみれば、単なる親睦目的の会合や私的遊興といえないのは明らかであり、出張の目的たる用務との密接関連性が失われたものということはできない。 (四) 以上によれば、本件会食行為等には、出張たる用務との密接関連性が認められ、出張に伴う往復行為の中断事由には該当しない。 〔労災補償・労災保険-通勤災害〕 原告の予定された帰宅経路は、京都駅でJR奈良駅に乗り換え、黄檗駅で下車するというものであったところ、京都駅を乗り過ごすことは、形式的には右経路からの逸脱があったといえる。 しかし、「合理的経路からの逸脱」というためには、経路からの逸脱という客観的側面だけではなく、右逸脱の目的、内容といった主観面や、逸脱の経過、通勤又は業務との関連性の有無・程度等についての考慮が不可欠というべきである。なぜなら、そもそも合理的経路からの右逸脱後の事故・災害が本件保険契約における保障の対象とされないのは、右逸脱がおよそ通勤又は業務と関連性が認められず、全くの私的行為であって、本件保険に付された本件特約の趣旨が、かかる私的行為については保険給付の対象外としていると認められるからである(本件特約の趣旨は、労災保険において、私人としての自由行動が事業主の指揮命令・管理下に属しない代わりに同保険の保護対象とはならないのと同旨と解される。)。 (二) そこで本件について検討すると、原告が、新大阪駅で新幹線からJR東海道線に乗り換えた時刻は午後一〇時二〇分頃と推測されるところ、本件会食行為等からの深夜の帰途であることや、そのころの原告には出張業務が多く疲労していたこと等の事情からすれば、乗車後に車内で仮眠し、同列車が京都駅に到着したことに気づかず、そのまま乗り過ごしたとしても、直ちに出張に予定された合理的経路からの逸脱があったとはいえない。また、原告が京都駅を乗り過ごしたのは、意図的なものではなく、単なる寝過ごしであり、米原駅下車後も家族に乗り過ごしの事実を電話連絡して直ちにタクシーに乗って帰宅しようとしたことからすれば、原告は、終始帰宅の意思を有していたことが認められ、途中で通勤又は業務とは関係のない私的な意図・目的による経路の逸脱・乗り越しがあったとは認められない。 |