全 情 報

ID番号 07435
事件名 地位保全、賃金仮払処分事件
いわゆる事件名 日米英語学院事件
争点
事案概要  期間を一年とする雇用契約を毎年継続更新しながら、英会話学院Yの英会話講師として就労し、労働組合の支部長であった外国人の労働者Xが、レッスン中にストライキするようになって以降まもなく、YはXをグループレッスンの担当から外し、新規の受講生にXのプライベートレッスンの受講が可能であることを告げず、また受講希望者にはXはストライキを行うかもしれないこと等を告げるなどをしていた状況下において、Xの稼働率が減少することとなったため、契約期間満了日に、クラス予約率が五〇パーセント未満であり、割り当てられた義務とスケジュールに関し職員に非協力的であるとして、就業規則の規定に基づいて解雇通知がなされたが、本件解雇は、稼働率の減少の原因は会社にあること等から解雇権の濫用、もしくは不当労働行為に当たり、無効であるとして、(1)雇用契約上の地位の確認及び(2)賃金の支払を求めて仮処分を申し立てたケースで、受講生の予約に左右されないグループレッスンの担当からXを除外し、Xのレッスンを受講しないように働きかける等のストライキに対する措置が稼働率の大幅な減少に影響を与えていることを理由に、右解雇は権利の濫用に当たり無効であるとして、(1)について請求が認容、(2)についても請求が一部認容された事例。
参照法条 労働基準法89条1項3号
民法1条3項
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 稼動率の減少
解雇(民事) / 解雇事由 / 勤務成績不良・勤務態度
解雇(民事) / 解雇権の濫用
裁判年月日 1999年6月16日
裁判所名 大阪地
裁判形式 決定
事件番号 平成11年 (ヨ) 10010 
裁判結果 一部認容、一部却下
出典 労経速報1727号20頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇事由-稼動率の減少〕
 3 本件債権者の行っていたプライベートレッスンは、受講生の予約という債権者本人の就労意欲とは別の要素により、その数が左右されるという特殊性がある。他方、レッスンのストライキを望まない受講生がいるということは合理的に推認できるところ、かかる状況下で、レッスンのストライキを実施した場合、債権者の行うプライベートレッスンの数が減少することは避けられない。このような場合に、プライベートレッスンの数の減少を解雇の理由とすることは、結果的に債権者のストライキの行使を制限することになり相当でないうえ、加えて、本件においては、前記認定のとおり、受講生の予約に左右されないグループレッスンの担当から債権者を除外する、債権者のレッスンを受講しないように債務者のスタッフが受講生に働きかけていた等債務者の本件ストライキに対する措置が、債権者の稼働率の大幅な減少に影響を与えていることが一応認められることに鑑みれば、本件において稼働率の減少を解雇理由とすることは許されないものといわざるをえない。
〔解雇-解雇事由-勤務成績不良・勤務態度〕
 1 債務者は、債権者はレッスンがない場合には宿題のチェック、テープの作成、レベルチェック、モデルレッスン等を行わなければならないのに、債務者の業務命令を無視して、スタッフから依頼された仕事及び教材の作成をしておらず、このことは債権者は、レッスンを行わない時に何をしたかについて「On―Duty Hour Record Sheet」に記録することとされていたにもかかわらず、これを記録していないことからも明らかである、またスタッフや非組合員講師に対して、債務者を非難する言動を行い、組合の活動に同意するように言う、債務者の学院長等に対し英語のスラングを使って「恥を知れ」「イヤなヤツ」などと言う、レッスン中の他の講師の教室をのぞき込んだり、罵声を浴びせたりする等の嫌がらせ行為を継続したと主張する。これに対し、債権者はこれらの事実を否認し、「On―Duty Hour Record Sheet」への記載については、これを記載しなければならないことを知らない講師も多く、ほとんどの講師はこれを記入していないと主張する。
 2 確かに、「On―Duty Hour Record Sheet」について、債権者が記載すべきであるのに、その記載がない部分があることが一応認められる(書証略)。しかし他方「On―Duty Hour Record Sheet」の記載については、ほとんどの講師が記入していなかったこと(書証略)、債権者は、レッスンのない時間を使って教材や添削等の仕事をしており、またスタッフに対しても仕事をすることを申し出ており、スタッフから依頼された仕事を行っていたこと(書証略)が一応認められる。
 また、スタッフや非組合員の講師に対する嫌がらせ行為について、債務者は疎明として書証(略)を提出するが、書証(略)については、前述のとおりその内容の信用性に疑念があるうえ、ストライキ中他の講師の教室をのぞき込んだり、罵声を浴びせたり、パソコンルームで注意したスタッフに怒鳴ったといった各事実については、これを否定する受講生の陳述書(人証略)、債権者の授業中の様子から、罵声をあびせる、怒鳴るなどといったことは考えられないとの受講生の陳述書(人証略)に照らし、右各疎明はたやすく信用しえず、他にスタッフや非組合員の講師に対する解雇理由足りうるほどの事実について、これを一応認めうるまでの疎明はない。
 従って、本件においてレッスンがないときの債権者の就労状況が不良であるとの一応の疎明はなく、右債務者の主張は採用しえない。
〔解雇-解雇権の濫用〕
 以上より本件解雇について、解雇理由〔1〕は、解雇理由とはなしえず、解雇理由〔2〕は、解雇理由とされた事実が認められない(なお解雇理由〔3〕については、本件仮処分手続きにおいて具体的な主張はない)。よって本件解雇は、その余の点について判断するまでもなく、解雇権の濫用として無効であり、債権者、債務者間の雇用契約の存在を前提とする債権者の本件仮処分の申立てについて、その被保全権利を一応認めうる。