ID番号 | : | 07441 |
事件名 | : | 賃金請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 日本貨物鉄道事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 国有鉄道会社Zの職員(約二八年間)であったXは、その後Zの分割・民営化に伴い設立された株式会社Yの従業員として採用されたが、Yでは設立時に満六〇歳定年制を導入する就業規則が施行され、当面五五歳を定年とし逐次六〇歳へ移行することとされていたが、その三年後に満六〇歳定年制が就業規則の改正とともに実施されたのに伴い、満五五歳以上の労働者は原則として出向し、基本給月額は満五五歳時点でその六五パーセントとし、昇給・昇格はなしとする旨の社員規程が制定され、右規程に基づきXも五五歳到達により右基本給減額等の措置を受けたことから、(1)Y設立時及び(2)その三年後の就業規則は不利益変更に当たるとして、未払賃金等の請求をしたケースで、(1)については、日本国有鉄道改革法の規程に基づくと、YはZとXとの間の労働契約に基づく権利義務関係を承継しておらず不利益変更の前提を欠くとし、(2)については、六〇歳定年制に移行する際に五五歳以上の者についての新たな労働条件を規定したものであり、本件就業規則の変更は既存の労働条件を不利益に変更したものではないとして、請求が棄却された事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 労働基準法93条 労働基準法89条1項3号 労働基準法3条 |
体系項目 | : | 退職 / 定年・再雇用 労基法の基本原則(民事) / 均等待遇 / 社会的身分と均等待遇 就業規則(民事) / 就業規則の一方的不利益変更 / 賃金・賞与 就業規則(民事) / 就業規則の一方的不利益変更 / 定年制 |
裁判年月日 | : | 1999年8月24日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成9年 (ワ) 20615 |
裁判結果 | : | 棄却 |
出典 | : | 労経速報1733号3頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔就業規則-就業規則の一方的不利益変更-定年制〕 〔退職-定年・再雇用〕 原告は、被告が、日本国有鉄道とその職員との間の労働契約に基づく権利義務関係を承継したことを理由に、被告が新たに就業規則を制定して右権利義務関係を一方的に労働者の不利益に変更した場合は、就業規則の不利益変更の問題となる旨主張する。〔中略〕 しかしながら、被告は日本国有鉄道とその職員との間の労働契約に基づく権利義務関係を承継していないのであり、原告の右主張はその前提を欠くものといわざるを得ない。 改革法は、承継法人の職員については、承継法人に引き継がせる事業等、承継法人に承継させる資産、債務、権利、義務と区別し、日本国有鉄道とその職員との労働契約関係を承継法人(新会社)に承継させないこととしたものと解するのが相当である。 〔退職-定年・再雇用〕 〔就業規則-就業規則の一方的不利益変更-定年制〕 証拠(略)によれば、設立委員が、日本国有鉄道を通じ、その職員に対し、被告の職員の労働条件及び職員の採用の基準を提示して、職員の募集を行った際、日本国有鉄道は、定年は六〇歳とするが、当面五五歳とし、経営の状況等を勘案して逐次六〇才に移行する旨を記載した文書をその職員全員に配布することとしたことが認められ、この事実に基づいて考えると、原告も当時右文書を配布されたものと推認することができる。この推認に反する(書証略)部分及び原告本人の供述部分はたやすく採用することができない。 そうすると、被告が昭和六二年四月一日に施行した就業規則により満六〇歳定年制を導入したことが、日本国有鉄道とその職員との間の労働契約に基づく権利義務関係を一方的に労働者の不利益に変更したものとなる旨の原告の主張はその前提を欠くものといわざるを得ないし、原告が前記文書を受領して定年に関する労働条件を承知した上で募集に応じ、被告の職員として採用されたことからすれば、原告の前記主張に理由がないことは明らかである。〔中略〕 〔就業規則-就業規則の一方的不利益変更-賃金・賞与〕 原告は、被告が五五歳到達者処遇規定により一方的に労働条件を切り下げ、就業規則を労働者の不利益に変更した旨主張する。 しかしながら、被告は、平成二年四月一日の就業規則の改正以前は五五歳の定年制を採っていたから、五五歳以上の者の労働条件について就業規則上何ら定めを置いていなかったのであり、就業規則の右改正により満六〇歳定年制に移行する際にこれまで規定のなかった五五歳以上の者の労働条件を新たに規定したものである。したがって、就業規則の右改正は既存の労働条件を変更したものとはいうことはできない。 もっとも、このような場合であっても、就業規則の作成又は改正により定められる労働条件は合理的なものでなければならず、これを肯定できるときにその法的規範性を認めることができるものと解するのが相当である。 そこで、その見地から検討すると、証拠(略)によれば、抗弁1の事実を認めることができ、この認定に反する証拠はないから、平成二年四月の就業規則改正による六〇歳定年制の合理性を肯定することができる。 〔退職-定年・再雇用〕 憲法一四条及び国際人権規約B規約二六条は不合理な差別を禁止しているが、事柄の性質に応じて合理的と認められる差別的取扱いをすることは、右各法条の否定するところではない(憲法一四条、地方公務員法一三条について最高裁昭和三九年五月二七日大法廷判決民集一八巻四号六七六頁)。二で述べたところによると、五五歳到達者処遇規定には合理的な理由があるというべきであるから、憲法一四条及び国際人権規約B規約二六条に違反しない。 〔労基法の基本原則-均等待遇-社会的身分と均等待遇〕 労働基準法三条にいう「社会的身分」は、生まれによって決定されるものを指すと考えるか、後天的なものを指すと考えるかの見解の対立はあるにしても、社会において占める継続的地位であり、他者とは違う存在であることを前提とするが、一定の年齢(五五歳)に達したことは、誰でも同じように不可避的にその年齢に到達するといえるから、「社会的身分」には当たらないものと解するのが相当である(最高裁昭和三九年五月二七日大法廷判決民集一八巻四号六七六頁)。 よって、五五歳到達者処遇規定が、自己の意思によっては逃れることのできない年齢という社会的身分を理由として賃金その他の労働条件について差別的取扱いをするものであることを前提に、労働基準法三条に違反するとする原告の主張は失当である。 |