全 情 報

ID番号 07447
事件名 損害賠償等請求事件
いわゆる事件名 メディカルシステム研究所事件
争点
事案概要  医療用システムの開発等を業とする会社Yに大卒のホルダー心電図解析技術者として雇用されていた従業員Xが、Yでは職能資格制度が採用され、J級(一般職能三等級まであり)、S級(中間指導職能三等級まであり)、M級(管理職能五等級まで)があり、大卒入社員についてはJ三等級に格付けし、多くは三年在籍でS一等級に昇格させる取扱いであったところ、Xは(1)入社以来勤務時間中にしばしば休憩し、(2)就業三〇分前になると新たな作業等を行わず、(3)作業効率の改善等に対する取り組みが消極的であり、(4)収益拡大を目的とする残業増加方針にも従わず残業を行わなかったことから、入社時にJ三等級一号に格付された以後、約八年間において号は九号まで昇給したもののJ三等級のままで昇格はなかったことから、入社以来、昇格、昇給においてYに差別されているとして、不法行為に基づく損賠償請求権に基づき、昇格、昇給において差別されていなければ支払われていたであろう賃金と現実に支払われた賃金との差額等の支払及びXの職能資格がS二等級五号であることの確認を請求したケースで、J三等級からS一等級への昇格がXほど遅い者はほかにいないという極めて異常な事態の原因は、(1)から(3)では足りないが、(4)が勘案されていたと判断し、残業に協力する社員と協力しない社員とではYへの寄与度、貢献度の点で極めて大きな差があるから、残業の頻度の差を考課対象事実とすることには合理性があり、その結果として生じた考課の差は差別ではないとして、昇格、昇給における成績考課、情意考課においてXを標準的であると評価することはできず、その結果として昇格の遅れがXに対する差別とはいえないとして、請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法11条
労働基準法2章
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額
裁判年月日 1999年9月21日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成10年 (ワ) 18188 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 労働判例786号67頁/労経速報1734号3頁
審級関係
評釈論文 藤内和公・民商法雑誌124巻4・5号290~301頁2001年8月
判決理由 〔賃金-賃金請求権と考課査定・昇給昇格・賃金の減額〕
 被告は、社員のうち、職能等級要件の概念に照らして当該等級における平均以上と認められ、上位等級での職務遂行能力が備わっており、能力考課が所定水準以上で、原則として所定の在級年数を満たしている社員について所属部長が推薦し、所属部長の推薦を受けた社員について平成六年以前は面接を実施し、平成七年以降はレポートの提出と面接を実施し、平成六年以前は面接態度、理解度及び具体性などが総合的に評価された上、現在在級期間の成績考課を加えて総合的に検討した結果、昇給の可否を決定し、平成七年以降はレポートの内容、面接態度、理解度及び具体性などが総合的に評価された上、現在在級期間の成績考課を加えて総合的に検討した結果、昇給の可否を決定していたものと認められる。〔中略〕
〔賃金-賃金請求権と考課査定・昇給昇格・賃金の減額〕
 右(三)によれば、大卒の社員を昇格させるにせよ、昇給させるにせよ、いずれにせよ、当該社員の成績考課、情意考課において当該社員が標準的であると評価することができることが必要である。
 そこで、原告の平成四年四月以降の昇格、昇給における成績考課、情意考課において原告を標準的であると評価することができるかどうかについて検討する。〔中略〕
〔賃金-賃金請求権と考課査定・昇給昇格・賃金の減額〕
 右の(6)で認定、説示した原告の非協力的態度が平成四年四月以降の原告の昇格、昇給における原告の成績考課、情意考課において原告にとって不利益に評価されるべき事情として毎年勘案されていたというのは、要するに、原告が残業しないことが平成四年四月以降の原告の昇格、昇給における原告の成績考課、情意考課において原告にとって不利益に評価されるべき事情として毎年勘案されていたということにほかならないというべきであるが、そもそも残業に協力する社員と協力しない社員とでは、被告に対する寄与度、貢献度の点で差があるわけであるから、残業の頻度の差を考課対象事実とすることには合理性があり、その結果、残業に協力する社員と協力しない社員とで成績考課、情意考課に差が生じたとしても、それを差別であるということはできない。したがって、原告が残業しないことを平成四年四月以降の原告の昇格、昇給における原告の成績考課、情意考課において原告にとって不利益に評価されるべき事情として勘案することがおよそ許されないということはできないのであって、これがおよそ許さないという前提に立つ原告の主張は採用できない。〔中略〕
〔賃金-賃金請求権と考課査定・昇給昇格・賃金の減額〕
 残業をしない原告と残業をする社員とでは被告に対する寄与度、貢献度には極めて大きな差があるというべきである。
 また、本件諸事情も被告に対する寄与度、貢献度という観点からこれをしんしゃくすることができるというべきであり、その観点からすれば、本件諸事情がある原告とそのような事情がない社員とでは被告に対する寄与度、貢献度にはやはり大きな差があるというべきである。
 そして、以上を総合考慮すれば、原告の平成四年四月以降の昇格、昇給における成績考課、情意考課において原告を標準的であると評価することはできないというべきである。