全 情 報

ID番号 07451
事件名 地位確認請求事件
いわゆる事件名 ヘルスケアセンター事件
争点
事案概要  医薬品の調剤を業とする会社Yで期間を一年とする雇用契約のもとで薬剤師として勤務し、唯一の契約社員であった労働者Xが、右契約を四回更新した以降、期間を六か月に短縮されて契約を更新したが、Yでは通院患者の減少等に伴い経営状態が悪化したこともあって、社長の指示により副社長から、期間を三か月として契約更新しこれをもって終了させるということが事前に説明されたが、更新時において社長から期間満了により終了することが告げられなかったため、異議も唱えず期間を三か月とする契約を更新したところ、右期間満了時に雇止めされたため、本件雇止めは解雇権の濫用であり無効であるとして、雇用契約上の地位の確認及び賃金支払を請求したケースで、本件雇止めは、今直ちに人員削減の必要性があるとは認められず、合理的な理由がないとして更新拒絶権の濫用で無効であるとして請求が一部認容された事例。
参照法条 労働基準法14条
労働基準法21条
民法536条2項
体系項目 解雇(民事) / 短期労働契約の更新拒否(雇止め)
賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 就労拒否(業務命令拒否)と賃金請求権
賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / バックペイと中間収入の控除
裁判年月日 1999年9月30日
裁判所名 横浜地
裁判形式 判決
事件番号 平成10年 (ワ) 4131 
裁判結果 一部認容、一部却下、一部棄却(控訴)
出典 労働判例779号61頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕
 (証拠略)に前示争いのない事実等を総合すると、被告は、原告との間で、契約期間満了時に「特別職員雇用契約書」という標目の契約書をもってその都度雇用契約を更新してきたこと、雇用期間が当初において一年であったものが、平成九年七月の更新時においては期間を六か月、平成一〇年一月の更新時においては期間を三か月と定められ、期間が漸次短縮されたこと、原告は、右期間の短縮による更新時においても、契約書に署名押印したことが認められる。これらの事実に後記二1(一)(2)に認定のとおり、原告が右更新時において、期間短縮の点について異議を述べていなかったことを総合すると、原告と被告との間の雇用契約における期間の定めが形骸化しているわけではなく、契約の更新が繰り返されたからといって、右契約が期間の定めのないものに転化したということはできない。したがって、この点を前提とする原告の解雇権濫用の主張は理由がない。〔中略〕
〔解雇-短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕
 平成一〇年一月一三日の原告と被告Y1副社長とのやり取りや平成九年中の賃金据え置きの状況をみれば、原告は契約期間が終了する同年四月一五日には契約更新がされない可能性の高いことを認識していたことは明らかである。しかし、前認定のとおり、被告は原告を平成四年七月に雇用して以来、平成九年七月の更新時まで数度に亘って一年間の契約を更新してきたこと、他の契約社員が退職した原因はいずれも自らの都合によるもので被告から雇止めをしたことは一度もなかったことを斟酌すれば、その後に契約期間が六か月、三か月と短縮されたこと、原告が契約社員をなくする被告の戦略を認識したことを考え併せても、原告にとって平成一〇年四月一六日以降もある程度雇用契約が継続することが期待される状況にあるものというべきである。また、原告は契約期間を三か月とする契約書に署名押印してから二日後には組合に救済を求め、同年三月五日に組合が被告に交渉を求めていることから、被告としても期間が満了する平成一〇年四月一五日には原被告間の雇用契約関係が終了することを期待し得ない状況にあったことは明らかである。よって、当事者双方とも、期間は一応三か月と定められているが、いずれかから格別の意思表示がなければ当然更新されるべき雇用契約を締結する意思であったものであり、原被告間の雇用契約は、期間終了ごとに当然更新を重ねてあたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在していたものといわなければならない。
 したがって、本件雇止めは、実質的に解雇と同視されるから、解雇の法理が類推適用されるものというべきである。〔中略〕
〔解雇-短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕
 原告の勤務時間は、終業時間が通常シフトの正社員より三〇分早いだけで、これに応じて賃金も少なくなっているのであり、また、原告本人によれば、同人の業務内容は正社員と全く同一であること、同人は残業も月間スケジュールに予め決定されている限り就いていたこと、休日についても正社員と同様であることが認められる。そして、これらの事実によれば、仮に正社員の中に右のような僅かな雇用形態の相違に不満を感じる者がいたとしても、原告のような勤務形態の契約社員が存在することは被告の経営の合理的な運営を特に妨げるものとは言い難いから、被告の右主張には理由がない。
 (六) したがって、正社員を整理解雇する場合と、原告のような期間雇用者である契約社員を雇止めする場合とでは、おのずから合理的な差異があるとしても、本件薬局の経営悪化を理由として、今直ちに人員削減の必要性があるのとは認められないから、結局、原告を雇止めすべき合理的な事由の存在が認められないといわなければならない。
〔賃金-賃金請求権の発生-就労拒否(業務命令拒否)と賃金請求権〕
 被告は、前認定の仮処分決定後、原告に被告における就労を命じたものの、原告が理由なく出勤しないことから、口頭弁論終結日である平成一一年八月四日までの賃金請求のうち、右出勤拒否時以降は民法五三六条二項に基づく原告の賃金請求権は消滅したと主張し、なるほど(証拠略)によれば、被告は、原告に対し、平成一〇年一〇月二七日に到達した内容証明郵便をもって仮就労を命じ、その後も同年一一月一〇日、同年一二月四日及び同月三〇日各到達の内容証明郵便をもって同種の就労命令をしたことが認められる。しかし、原告は、神奈川県医療労働組合連合会と連署で被告の内容証明に返答し、就労条件について問い合わせたところ(〈証拠略〉)、これに対する被告の回答(〈証拠略〉)には、「A君(ママ)の金員に関することについては、裁判所の仮決定に基づく額をもって明確になっております。なお、会社は、A君(ママ)の仮就労に伴うその他労働条件については、従前通りで仮に取り扱います」と記載されており、被告が原告に対し、月額一五万円しか払わないが従前どおりの仕事をさせると回答したことは明らかである。しかるに(証拠略)によれば、本件仮処分においては、原告の被保全権利としては、二七万六七五七円(原告の平均賃金月額から通勤手当五〇四〇円を控除した金額)が認定されながら、なお、保全の必要性から月額一五万円の仮払いが認容されていることは明らかであり、右被告の原告に対する就労命令は、労働基準法二四条一項本文の趣旨からしても適法なものとは認め難い。そうすると、被告は、右就労命令にもかかわらず、依然として原告による労働の提供に対する受領を拒否しているものというべきであって、原告の賃金請求権は消滅するものではない。
〔賃金-賃金請求権の発生-バックペイと中間収入の控除〕
 使用者が労働者に対して有する雇止め期間中の賃金支払債務のうち平均賃金額の六割を超える部分から当該賃金の支給対象期間と時期的に対応する期間内に得た中間利益の額を控除することは許されるものと解すべきである。
 これを本件についてみると、原告が被告において得ていた月額収入は、通勤手当五〇四〇円(〈証拠略〉)を除くと、平均で二七万六七五七円であり、平成一〇年一〇月一六日から本件口頭弁論終結日までの中間収入である月額七万円はその四割に満たない金額である。よって、右期間内に得た中間収入の全部について被告が支払うべき金員から控除することが許される。