全 情 報

ID番号 07455
事件名 賃金請求事件
いわゆる事件名 毅峰会(吉田病院・賃金請求)事件
争点
事案概要  病院を経営する医療法人Yが設置する病院の医事課事務員として勤務していた従業員X(第一次解雇撤回後、夜間当直員として復職したものの、病院の不正等を内部告発したこと等を理由に第二次解雇通知がなされ、右解雇に関する本案訴訟の口頭弁論期日でYはXの従業員確認等の請求を認諾していた)が、(1)他の従業員よりも勤務時間が短いこと等を理由に約二か月間のうち深夜勤務に該当する時間二三八時間分の割増賃金が支払われず、また(2)従来から過去長期間にわたり給与の一部として支給されてきた勤続手当及び調整手当が支払われず、更に、(3)第二次解雇に関するXの地位保全等の仮処分決定に基づきXの復職に関して話合いが実施された際に、Xは病院の謝罪等に固執して就労拒否したことから賞与の査定が不能になったこと、その後本案訴訟中には病院の不正を糾弾するビラを病院周辺住宅に配布するなど営業上の利益を害したこと等を理由に賞与が不支給とされたため、各未払賃金等の請求をしたケースで、(1)については、Yには労働基準法が規定する水準を下回らない深夜勤務に対する割増賃金支払義務があるとして、請求が認容され、(2)については、各手当は労務の対価である賃金の一部であったというべきで、労働契約の内容にもなっていたものと解されるとして、Xの個別同意なしに一方的に削減・減額されることは許されないとして、請求が認容され、(3)については、賞与の算定方法等は雇用契約内容となっており、基本的には賃金の一部というべきであり、正当な理由もなく減額・不支給されることは許されないとしたうえで、Y主張の不支給事由のうち、Xのビラ配布等の背信行為についてのみ、賞与不支給の正当な理由として認められるとして、ビラ配布行為がなされた時期以外の対象期間における未払賞与について請求が認容された事例。
参照法条 労働基準法37条
労働基準法11条
労働基準法89条1項2号
体系項目 賃金(民事) / 割増賃金 / 割増賃金の算定基礎・各種手当
賃金(民事) / 賞与・ボーナス・一時金 / 賞与請求権
賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 特殊勤務手当
裁判年月日 1999年10月29日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成10年 (ワ) 13296 
裁判結果 一部認容、一部棄却(控訴)
出典 労働判例777号54頁/労経速報1734号22頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔賃金-割増賃金-割増賃金の算定基礎・各種手当〕
 割増賃金の支払義務は、強行法規である労働基準法三七条三項によるものであり、被告が主張する右の各事情は、深夜勤務に割増賃金を支給しないことを合理化できるものではなく、いずれも主張自体失当である。
 また、被告は原告の基本給の中には、割増賃金が含まれており、そのような支給方法とすることを原告所属の労働組合との間で合意したとも主張するが、それは結局、原告の基本給を減額させる合意であるところ、被告と原告あるいは原告所属の労働組合との間でそのような合意がなされたと認めるに足る証拠はない。
 よって、被告には、少なくとも労働基準法が規定する水準を下回らない深夜勤務に対する割増賃金支払義務があるというべきである。
〔賃金-賃金請求権の発生-特殊勤務手当〕
 調整手当や勤続手当は、原告に対し、過去長期間にわたり給与の一部として支給されてきており、これらは労務の対価である賃金の一部であったというべきであり、このことは、原被告間の労働契約内容となっていたものと解される。
 したがって、これを、被告が、原告の個別の同意もないのに一方的に削除したり、減額したりすることは許されることではない。
〔賃金-賞与・ボーナス・一時金-賞与請求権〕
 被告では、夏季賞与につき基本給の二か月分、冬季賞与につき基本給の三か月分という算定方法で算出した額を基準とするが、対象期間の勤務状況や実績等を査定して右基準額を加減し、具体的な支給額を決定しているものというべきであり、このような支給額の算定方法は原告雇用時における被告事務長の説明やその後の長期間にわたる運用の実情を通じて原被告間の雇用契約内容となっていたと解される。
 右のような支給額の算定方法に照らすと、賞与は、被告の単なる恩恵的な給付に留まらず、報奨的性質等を併せ有するとしても、基本的には対象期間の勤務に対する賃金の一部というべきであって、被告が正当な理由もなく右基準額を減額したり不支給とすることは許されることではなく、そのような場合には、原告は右基準額に相当する賞与の支払を求めることができるものと解される。〔中略〕
〔賃金-賞与・ボーナス・一時金-賞与請求権〕
 被告は、第二解雇後の復職交渉で原告が被告代表者の謝罪等に固執して就労拒否したことから査定不能となった等と主張し、これを賞与不支給の理由としているところ、確かに、右認定のとおり、原告復職に関する話し合いが決裂したのは、原告が被告代表者の謝罪等を要求する態度に固執したためと認められるが、それ以前の問題として、被告は右認諾時までは解雇の有効性を主張して原告の従業員としての地位を否定し続けていたのであるから、原告の復職が実現しなかった根本の原因は、解雇を理由とする被告の原告に対する就労拒否にあるというべきである。
 したがって、この間の原告の不就労をとらえて査定不能とし、これを賞与不支給の理由とすることは相当でない。