全 情 報

ID番号 07460
事件名 損害賠償請求控訴、同附帯控訴事件
いわゆる事件名 中国研修生業務上災害事件
争点
事案概要  富山県国際研修振興協同組合と中国の上海交通大学の協定に基づき、右大学所属の実務・技能研修生として来日し、約二年数か月滞在後、帰国した中国人Xが、日本滞在中に、右組合に所属する会社Yの作業場で硫酸を扱う作業に従事し、月額一〇万円の収入を得ていた際に、硝酸の暴露により肺機能及び視力に障害を受け、その症状が固定したことから、不法行為又は雇用契約上の債務不履行に基づき、損害賠償を求めたケースの控訴審で、原審と同様に、Yの安全配慮義務違反を認めるとともに、中国で得られたと認められる収入を逸失利益として、慰謝料及び後遺障害慰謝料については、中国の物価水準等も考慮して算定され、Xの附帯控訴が一部認容、Yの控訴が棄却された事例。
参照法条 民法415条
民法416条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任
裁判年月日 1999年11月15日
裁判所名 名古屋高金沢支
裁判形式 判決
事件番号 平成10年 (ネ) 137 
平成10年 (ネ) 205 
裁判結果 原判決変更、控訴棄却、附帯控訴一部認容・一部棄却(確定)
出典 時報1709号57頁/タイムズ1042号136頁
審級関係 一審/富山地高岡支/平10. 7.14/平成8年(ワ)8号
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕
 被控訴人は、被控訴人が本件作業により疾病に罹患したのは、控訴人が硝酸の有毒性、危険性、その暴露、吸引により如何なる疾病に罹患するかとか、右危険を防ぐためにどうすればよいかについて具体的に説明、指導することを怠ったことが直接の原因であるから、過失割合を被控訴人六、控訴人四とする原判決の認定・判断は、余りにも公平を失するというべきである旨主張する。たしかに、控訴人が被控訴人に対して硝酸の危険性等について具体的に説明せず、防護方法についての説明・指導も具体的ではなく、保護具を着用させたのみであることは控訴人の指摘のとおりであり、控訴人の安全配慮義務違反の程度は軽微なものとはいえない。しかしながら、前記のとおり、控訴人は被控訴人に対して保護具を着用するように指導した上、被控訴人が就労している期間中、相当数の吸収缶やフィルターマスク等の保護具を購入して本件作業場に備え置いていたこと、被控訴人においても、これらの説明や保護具が備え付けられていることからも、硝酸を吸引することの危険性について一応の理解をすることが可能であったと考えられること、それにもかかわらず、保護具を着用せずに本件作業に従事することがあったこと等、前記認定の諸事情を総合して考慮すれば、過失割合を被控訴人六、控訴人四とすることが被控訴人に酷であって不公平であるとはいえない。被控訴人の主張は理由がない。〔中略〕
 (二) そして、前記認定のとおり、後遺障害による労働能力喪失率が三五パーセントであり、症状固定(平成七年七月)当時被控訴人は満三七歳であったから、右労働能力喪失の状態は就労可能な六七歳に至るまで三〇年間継続するものと認めるのが相当である。そこで、前記(原判示)認定の年収額(一八万円)を基礎に被控訴人の後遺障害による逸失利益の右症状固定当時の現価をホフマン式計算方法に基づき算定すると、次のとおり一一三万五八四五円となる。
 一八万円×〇・三五×一八・〇二九三=一一三万五八四五円
 3 慰謝料
 前記認定の被控訴人の後遺障害の部位、内容、程度、治療経過、被控訴人の年齢、発症原因、発症に至る経緯、症状固定後生活の本拠のある中華人民共和国の物価水準(これを考慮することが許されないとする被控訴人の主張は採用しない。)等本件に現れた一切の事情を総合して考慮すれば、本件による被控訴人の肉体的・精神的苦痛に対する慰謝料は、通院分・後遺障害分を併せて、合計三〇〇万円と認めるのが相当である。