全 情 報

ID番号 07462
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 浅井運送(損害賠償請求)事件
争点
事案概要  六千万円の債務超過及び二億四千万円程度の債務を負担して支払不能状態であったことから自己破産を申立てて従業員を全員解雇し、その後破産宣告が確定した運送会社Aの元従業員一四名のうちXら九名が、事業閉鎖、全員解雇を事前に明確な説明をせず行ったことが、事業継続義務違反、説明義務違反、解雇回避努力義務違反等であると主張して、また組合が事前協議義務違反等を主張して、Aの代表取締役、取締役、監査役のYら四名に対して、商法二六六条の三に基づき損害賠償請求したケースで、Aには破産原因は存在し、事業継続不能の状態に陥っていたことが認められ、このような状態においてYらが事業継続義務を負っていたということはできず、また説明義務違反、解雇回避義務違反等も認められないこと、また組合主張の事実はこれを認めるに足りる証拠がないことから、請求が棄却された事例。
参照法条 商法266条の3
労働基準法89条1項3号
民法1条3項
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 使用者に対する労災以外の損害賠償
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の回避努力義務
裁判年月日 1999年11月17日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成10年 (ワ) 6711 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 労働判例786号56頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償〕
 事業を継続するか否かは本来的に経営者の裁量にかかる事項であるところ、取締役がその経営見通しによって、業績向上を図ることができず、このままでは累積損失が増大し、債権者に対する債務や従業員に対する退職金債務の弁済が一層困難となることが予想される場合に早期に事業閉鎖を決定したとしても、これが取締役としての義務違反となるものではない。そして、右認定のとおり、A会社の経営は徐々に悪化し、本件破産申立時点では一億円を超える多額の累積損失を計上していたもので、これに対し、業績の好転につながるような事情は格別認められず、そのまま事業を継続したとしても、累積損失をいたずらに増大させることにしかならず、業績の回復に至る客観的な可能性があったとはいい難い。
 したがって、A会社はもはや事業継続が不能な状況に陥っていたというべきであって、このような状況においてなお被告一郎らが、A会社に対して事業継続義務を負っていたということはできず、右義務違反をいう原告板倉らの主張は理由がない。
〔解雇-整理解雇-整理解雇の回避努力義務〕
 原告Xらは、本件解雇が整理解雇に当たることを前提として、被告Yらが解雇回避の努力義務を怠ったと主張するものであるところ、A会社に破産原因が認められることは前述のとおりであり、法人の破産においては従業員との雇用関係を含め、その全財産を清算することが予定されているのであるから、企業が存続することを前提とする整理解雇の法理は適用されないというべきである。
 したがって、本件解雇が整理解雇に当たることを前提にして、被告Yらが希望退職の募集や配転の可能性等を探索すべき解雇回避のための努力義務を負うという原告Xらの主張は失当である。