ID番号 | : | 07467 |
事件名 | : | 損害賠償請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 三菱電機(安全配慮義務)事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 電機機器の製造・販売会社Yを定年退職した元従業員X(高血圧症であった)が、五〇歳に達した頃に、Yの関連会社である不動産会社の営業所に出向を命じられ、Yの寮・社宅等の管理営繕業務に従事し、経験のある水道の水漏れ等の補修作業に加えて、経験のないその他の補修作業や不動産管理業務一般を命じられ、また業務の性質上、休日出勤が余儀なくされることも多かったところ、五六歳のときに、業務を終えて自家用車で帰宅途中にくも膜下出血等を発症し、その後定年退職したが、本件発症により付添介護の必要な四股麻痺等の後遺症が残ったことから、Yが出向従業員であるXに対し、出向先の業務によって疾病が発症しないように配慮すべき安全配慮義務に違反して、過重な業務を放置したものとして、損害賠償を請求したケースで、Xの業務が安全配慮義務違反と評価できるほど過重な業務であったとは到底認めることができないとして請求が棄却された事例。 |
参照法条 | : | 民法415条 |
体系項目 | : | 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任 |
裁判年月日 | : | 1999年11月25日 |
裁判所名 | : | 静岡地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成8年 (ワ) 165 |
裁判結果 | : | 棄却(控訴) |
出典 | : | 労働判例786号46頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕 原告は、五〇歳のときに、開設されたばかりで設備も十分でない静岡営業所に出向し、経験のある水道の水漏れ等の補修作業だけでなく、経験のないその他の補修作業や不動産管理業務一般を行うよう命ぜられ、被告Y会社の寮・社宅等の営繕管理のほか緑地管理、パートタイマーの管理等多岐にわたる業務を行ってきたほか、その業務の性質上、休日出勤や夜間出勤を余儀なくされていたこと等が認められるが、他方で、原告が行っていた個々の業務の内容は、一般の就労と比較して決して重労働とはいえないこと、原告の業務は、確かに、夜間等に不定期に緊急な処理を求められることもあったが、通常は、必要に応じて適宜に行われれば足り、ノルマ等もなく、原告は、これらの業務を自己のペースで行うことができた上、その一部については部下のAと共同で行っていたこと、原告の業務は、多忙をきわめるといったものではなく、通常は、ほぼ所定労働時間内に業務を終了することができた上、残業時間も一日に多くて二時間程度であり、その合計時間も本件疾病発症前の一年間で約五八・五時間と決して多いとはいえないこと、原告は、その業務の性質上、休日出勤を余儀なくされることも多かったが、その場合には、年次有給休暇を取ることができたこと、原告の夜間出勤の回数は、多くて年に二、三回であり、極めて稀にしかなかったこと等が認められ、これらの事実を総合すれば、原告の業務が安全配慮義務違反と評価できるほど加重(ママ)な業務であったとは到底認めることができない。〔中略〕 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕 原告は、昭和五八年の心電図(〈証拠略〉)と昭和五九年の心電図の結果及び昭和五九年の胸部レントゲン写真の結果(〈証拠略〉)に照らすと、原告の高血圧症は、すでに高血圧症を原因とする心臓肥大が認められていた状態にあったから、B医師は、原告に対し、降圧剤を投薬するとともに、被告に業務上の配慮を行うよう伝えるべきであった旨主張し、これに沿う証拠(〈証拠略〉、証人C、同D)もあるので、以下、この点について検討する。 まず、B医師が、降圧剤を投薬しなかった点について検討すると、労働安全衛生法に基づく産業医による健康診断は、労働者に対し、当該業務上の配慮をする必要があるか否かを確認することを主たる目的とするものであり、労働者の疾病そのものの治療を積極的に行うことを目的とするものではないこと、高血圧症は、一般的に知られている疾病であり、その治療は、日常生活の改善や食事療法等のいわゆる一般療法を各個人が自ら行うことが基本であって(なお、原告がB医師からこのような指示を受けていたことは前記認定のとおりである。)、右のような一般療法により改善されない場合には、各個人が自らその治療を目的として病院等で受診することが一般的であることに照らすと、仮に、原告の高血圧症が、当時、降圧剤の投薬を開始するのが望ましい状態にあったとしても、産業医であるB医師がこれを指示しなかったことをもって、直ちに産業医に過失がある、あるいは被告に安全配慮義務違反があるとはいえないというべきである。したがって、この点に関する原告の主張は、失当である。 次に、B医師が、被告に対して業務上の配慮を行うよう伝えなかった点について検討すると、この場合には、少なくとも、原告の高血圧症が、原告が現に行っていた業務に照らし、業務内容の制限等の業務上の配慮が必要とされる状態にあったと認められることが必要となるところ、本件全証拠によっても、右事実を認めることはできない。〔中略〕 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕 その他、被告に健康管理の懈怠の安全配慮義務違反があったとする原告の主張に即して検討しても、これを認めることはできない。 |