ID番号 | : | 07469 |
事件名 | : | 地位保全等仮処分命令申立事件 |
いわゆる事件名 | : | 角川文化振興財団事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 文化の振興に寄与することを目的として設立された財団法人Yに嘱託(三年契約、月給制)、臨時雇用者(二か月契約、日給月給制)、臨時日給者(二か月契約、日給制)の雇用形態で書店Aからの出版企画の編集政策委託業務に従事するために雇用され、労働契約の更新手続を行わないまま期間満了後も引き続き労務に従事し、四年から一〇年間編纂室で勤務してきたXら九名が、Aからの業務委託契約打ち切りによる書籍編集部門編纂室閉鎖に伴い、YからAの一〇〇パーセント出資子会社である会社Bに移り、賃金は低額になるものの雇用契約ではなく請負契約を締結して仕事を継続する旨の提案を受けていたところ、解雇されたことから、Yは実質的にはAの一部門であり、AはYとの業務委託契約を解消すべき必要のないにもかかわらず破棄して、Xらを解雇し、子会社Bに移らせて低い労働条件で働かせて経費削減をしようとしたものであり、本件解雇はA主導による雇用形態と労働条件を不利益に変更する目的で行われた「リストラ解雇」で解雇権の濫用、もしくは整理解雇の要件を充たさず無効である等として、労働契約上の地位及び賃金支払の仮処分を申し立てたケースで、XらとYとの間の労働契約は本件解雇に及んだ時点において期間の定めのない契約であったとしたうえで、本件解雇については、XらはAに採用されたのではなく、YとAは別法人であることから、本件解雇はXら主張に係るリストラ解雇という意味において解雇権の濫用として無効であるとはいえず、Aからの業務委託契約によりYが編纂室を閉鎖したのは当然の措置であり、右のことから編纂業務に従事するXらを解雇するに当たり、解雇回避努力を尽くしていなかったとしても、また協議及び説明をしていなくても、人選のうえでも不合理はないことから解雇権の濫用に当たらないとして、請求が棄却された事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法14条 民法629条1項 民法1条3項 労働基準法89条1項3号 |
体系項目 | : | 労働契約(民事) / 労働契約の期間 解雇(民事) / 解雇権の濫用 解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の回避努力義務 解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇基準・被解雇者選定の合理性 解雇(民事) / 整理解雇 / 協議説得義務 |
裁判年月日 | : | 1999年11月29日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 決定 |
事件番号 | : | 平成11年 (ヨ) 21087 |
裁判結果 | : | 却下 |
出典 | : | 労働判例780号67頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 根本到・平成12年度重要判例解説〔ジュリスト臨時増刊1202〕222~224頁2001年6月/米津孝司・法律時報73巻3号118~121頁2001年3月 |
判決理由 | : | 〔労働契約-労働契約の期間〕 一年を超えない期間を定めた労働契約の期間満了後に労働者が引き続き労務に従事し、使用者がこれを知りながら異議を述べないときは、民法六二九条一項により黙示の更新がされ、以後期間の定めのない契約として継続されるものと解され、また、一年を超える期間を定めた労働契約は労働基準法一四条、一三条により一定の事業の完了に必要な期間を定めるものの外は期間が一年に短縮されるが、その期間満了後に労働者が引き続き労務に従事し、使用者がこれを知りながら異議を述べないときは、民法六二九条一項により黙示の更新がされ、以後期間の定めのない契約として継続されるものと解される。 (3) そうすると、債権者X1を除くその余の債権者らと債務者との間の労働契約は債務者において働き始めた当初に締結した労働契約又は債務者において働き始めた後に切り替えた労働契約で定めた二か月という契約期間が経過した後は期間の定めのない契約として継続されているというべきである。 また、債権者X1と債務者との間の労働契約は債権者X1が姓氏大辞典の編さんに携わる目的で締結されたが、姓氏大辞典は全県刊行となればその完結までには一〇年以上を要することが予想されたというのであるから、三年という契約期間が姓氏大辞典の編さんという事業の完了に必要な時期を定めたものということができないことは明らかであって、そうであるとすると、債権者X1と債務者との間の労働契約の期間は一年に短縮され、債権者X1と債務者との間の労働契約は右の一年という期間が経過した後は期間の定めのない契約として継続されているというべきである。 (4) 以上によれば、債権者らと債務者との間の労働契約は本件解雇に及んだ時点において期間の定めのない契約であったと認められる。 〔解雇-解雇権の濫用〕 解雇は本来自由に行いうるものであることからすれば、使用者は単に解雇の意思表示をしたことを主張し疎明すれば足り、解雇権の濫用を基礎づける事実については労働者がこれを主張し疎明すべきであるということになる。そして、債務者には就業規則の定めがないこと(前記第二の二5)からすれば、債務者は本件解雇の理由に当たる事実についてこれを主張し疎明する必要はなく、かえって債権者らにおいて解雇権の濫用を基礎づける事実として解雇が理由らしい理由もないのにされたことを主張し疎明する必要があるというべきである。 したがって、以下においては、右に述べた観点から、本件解雇に当たって解雇の理由となった事実がなかったかどうかを検討する。〔中略〕 〔解雇-解雇権の濫用〕 債権者らはA会社に採用されたのではなく債務者に採用されたのであって(前記第三の一1(一)(5)ないし(10))、本件全疎明資料に照らしても、A会社との間に雇用関係が存することを認めることはできないのであり、債務者とA会社は別の法人であること(争いがない。)からすれば、法的にはA会社が債権者らの雇用主であるということはできないのであり、その上、本件解雇をした法的主体は債務者であってA会社ではないのであるから、A会社が債権者らの実質的な雇用主であるという観点に立ってみれば、本件解雇は債権者らが主張するように雇用形態と労働条件を不利益に変更する目的で行われたリストラ解雇であるといえないでもないからといって、そのことから直ちに法的には債権者らの雇用者である債務者が債権者らの雇用形態と労働条件を不利益に変更する目的で本件解雇に及んだということはできないのであって、したがって、本件解雇が債権者の(ママ)主張に係るリストラ解雇という意味において解雇権の濫用として無効であるということはできない。 〔解雇-整理解雇-整理解雇の回避努力義務〕 一般に余剰人員を削減しこれを整理する目的でするいわゆる整理解雇をするに当たっては、使用者が希望退職の募集などの他の手段を採ることによって解雇を回避することができたにもかかわらず、直ちに解雇した場合、あるいは、整理解雇を回避することが客観的に可能であるか否かは別として、整理解雇はいわば労働者側に出血を強いるものであることから、使用者としてもそれ相応の努力をするのが通例であるのに、何の努力もしないで突然整理解雇したりした場合などには、諸般の事情を考慮すると、使用者は整理解雇を回避するために十全の努力をしていないとして解雇権の行使が権利の濫用に当たるというべき場合があり得るものと解される。なぜなら、整理解雇は労働者側に解雇される帰責性がないにもかかわらず解雇によって失職するという不利益を被らせるものである以上、終身雇用を前提とする我が国の企業においては企業としてもそれ相応の努力をするのが通例であるのに、何の努力もしないで解雇することは、労働契約における信義則に反すると評価される場合があり得るからである。 しかし、整理解雇において使用者に解雇回避努力が求められる理由が右のとおりであるとすると、本件解雇は姓氏大辞典などの出版企画の編さんに携わる目的で平成二年一一月以降債務者に雇用又は再雇用された債権者(前記第三の一1(一)(5)ないし(10))についてされたものであり、本件解雇の理由がA会社からの出版企画の編集、制作の委託の打切りであることからすれば、本件においては債権者らの雇用主である債務者が本件解雇に当たり解雇回避努力を尽くしたかどうかを検討する前提が欠けているというべきである。 したがって、仮に債権者らの主張するように債務者が解雇回避努力を尽くしていなかったとしても、そのことから直ちに本件解雇が権利の濫用として無効であるということはできない。 〔解雇-整理解雇-整理解雇基準〕 本件解雇は姓氏大辞典などの出版企画の編さんに携わる目的で平成二年一一月以降債務者に雇用又は再雇用された債権者(前記第三の一1(一)(5)ないし(10))についてされたものであり、本件解雇の理由がA会社からの出版企画の編集、制作の委託の打切りである以上、債権者らの雇用主である債務者が債権者らを解雇の対象としたことに何ら不合理な点はないというべきである。 〔解雇-整理解雇-協議説得義務〕 整理解雇を行うに当たって企業が事前の説明、協議を尽くすことは望ましいと考えられるから、事前の説明や協議を尽くさなかったことが、諸般の事情を考慮すると、解雇に至る手続が信義に反するかどうかという観点から、解雇権の濫用という評価を基礎づける事情に当たるといえる場合があり得るものと解される。 債務者が本件解雇に先立ち本件解雇をせざるを得ない理由などについて債権者らに説明し債権者らとの間で協議していないことは前記第三の一2(三)(1)オのとおりであるが、本件解雇は姓氏大辞典などの出版企画の編さんに携わる目的で平成二年一一月以降債務者に雇用又は再雇用された債権者(前記第三の一1(一)(5)ないし(10))についてされたものであり、本件解雇の理由がA会社からの出版企画の編集、制作の委託の打切りである以上、債務者が本件解雇に先立ち本件解雇をせざるを得ない理由などについて債権者らに説明し債権者らとの間で協議していないことが信義に反するということはできない。 |