全 情 報

ID番号 07475
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 タジマヤ(解雇)事件
争点
事案概要  森林浴製品等の製造、販売等を業とする会社Zに雇用され大阪支店営業担当次長であった労働者Xが、Zでは不良リース等による莫大な損失等を原因とする経営不振により事業縮小及び大阪支店の閉鎖が実施され、それに伴いZから解雇の意思表示(第一次解雇)がなされたところ、第一次解雇前に開催された役員会での決定に従い、Zは菓子、食料品等の販売を主たる業とする会社Y(YはZの発行済株式を多数保有し、Zには非常勤のYの兼務役員がいたが、役員会や株主総会、財務会計等は別個で、就業規則も別で異なる労務管理を行っていた)に営業譲渡し、Zが解散することとなったため、XはZから解雇の意思表示(第二次解雇)を受けたが、Xは(1)ZとYは実質的に法人格は同一であり、また、(2)Zの営業はYに譲渡されているところ、Zのなした解雇は無効であると主張して、Yに対し、雇用契約上の地位確認と未払賃金の支払、未払一時金、立替払した不動産賃料の各支払を請求したケースで、第一次・第二次解雇はともに整理解雇として有効の要件を充たさず解雇権の濫用で無効であるとしたが、(1)については、ZはYと同一でその営業部門の一部であるとはいえず、Zの法人格が形骸化していたとはいえないとして、YがXとの間の労働契約関係を否定することが法人格の濫用になるとはいえないとしたが、(2)については、ZからYへの営業譲渡がなされた際に、YがZに在籍した従業員を全員雇用していることから、譲渡の対象となる営業には雇用契約も含むものとして営業譲渡がなされたとし、本件解雇が無効になることによりZに在籍したものとして扱われるXとYとの間の雇用契約もYに承継されたものとして、請求が一部認容された事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項3号
民法1条3項
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約の承継 / 営業譲渡
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の要件
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の必要性
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の回避努力義務
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇基準・被解雇者選定の合理性
解雇(民事) / 整理解雇 / 協議説得義務
裁判年月日 1999年12月8日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成10年 (ワ) 7003 
裁判結果 一部却下、一部認容、一部棄却(控訴)
出典 労働判例777号25頁/労経速報1758号3頁
審級関係
評釈論文 橋本陽子・ジュリスト1192号231~234頁2001年1月1日/春田吉備彦・労働判例805号15~22頁2001年8月1日/幡野利通・季刊労働法197号128~134頁2001年11月/野川忍・労働判例百選<第7版>〔別冊ジュリスト165〕84~85頁
判決理由 〔解雇-整理解雇-整理解雇の要件〕
 (一) 本件各解雇がいわゆる整理解雇であることは被告も認めるところであるが、整理解雇が有効となるためには、第一に人員削減の必要があること、第二に使用者が解雇回避のための努力を尽くしたこと、第三に被解雇者の選定が妥当であること(客観的で合理的な基準を設定し、これを公正に適用して行われたこと)、第四に手続が妥当であることが必要であると解される。〔中略〕
〔解雇-整理解雇-整理解雇の必要性〕
 前記のとおり、訴外会社では、平成七年頃、不良リースによって莫大な損失を抱えるに至っていることが判明したこと、その後経費節減の一環として個別の退職勧奨による人員削減などが行われたこと、それにもかかわらず訴外会社の業績では到底損失の目処が立たず、平成九年三月頃には再建を断念せざるを得なかったこと、このため、営業譲渡が不能であれば解散して清算するしかないとの方針が決定されていたことなどが認められ、本件第一解雇当時、訴外会社単独では営業の継続は困難な事態にまで立ち至っていたのであるから、事業縮小とそのための人員削減の必要性が大きかったことは認めることができる。
〔解雇-整理解雇-整理解雇の回避努力義務〕
 これに対して、訴外会社は、退職勧奨等によって一部従業員を任意退職させるなどしてきてはいるが、他方、解散後は、訴外会社の事業を被告が引き継ぐことが予定されており、現に事業規模を縮小したうえで被告が引き継いでいること、その際、在籍する従業員も被告が全員雇用していることなどが認められ、原告がそのまま訴外会社に在籍していたとしたら、他の従業員同様被告に雇用された蓋然性は高いというべきである。しかるに、事業縮小の一環として原告が担当していた大阪支店における営業部門の廃止が不可欠なものであったのか、そうだとしても、事業引継とともに被告に雇用させるべく、希望退職者の募集や配置転換をするなどして原告の雇用継続を図ることができなかったのかなどについて、被告は何ら主張するところがなく、訴外会社においてこれらの検討が十分なされたとは認められず、訴外会社が原告の解雇回避のための努力を尽くしたとは認められない。
〔解雇-整理解雇-整理解雇基準〕
 いかなる基準で原告が被解雇者に選定されたかも不明であって解雇者選定の妥当性も認め難い(被告代表者本人尋問中には、原告の成績が上がらなかったことが解雇の理由であると述べている部分があるが、原告の成績不良を裏付ける証拠はなく、右供述から人選の妥当性を認めることはできない。
〔解雇-整理解雇-協議説得義務〕
 第一解雇の予告は、事前の協議や説明もなく、法定の予告期間もあけずに、原告に告知されたものであって、手続的にも不当というほかない。原告が、訴外会社の指示で大阪支店従業員に退職勧奨をし退職させたとの事実があることは認められるが、そのことは、原告において訴外会社の財務状況や人員削減の必要性を認識する契機になったとしても、訴外会社が、原告に対し、単なる任意退職の勧奨とは異なる整理解雇を通告するにおいて、事前に十分な説明や協議をすべき義務を免れさせるものではない。
〔解雇-整理解雇-整理解雇の要件〕
〔解雇-解雇権の濫用〕
 以上によれば、第一解雇は、整理解雇としての有効要件を満たすものとはいい難く、解雇権の濫用であって無効である。
〔労働契約-労働契約の承継-営業譲渡〕
 被告が訴外会社に在籍した従業員全員を雇用していることからすると、譲渡の対象となる営業にはこれら従業員との雇用契約をも含むものとして営業譲渡がなされたことを推認することができる。
 前記のとおり、訴外会社が原告に対してした本件各解雇はいずれも無効であり、右営業譲渡がなされた当時、原告はなお訴外会社に在籍したものと扱われるべきであるから、右営業譲渡によって、原告と訴外会社との間の雇用契約も被告に承継されたものと解される。
 三 争点3(原告の請求)について
 (一) 右のとおり、原告と訴外会社との間の雇用契約は被告に承継されたものと解されるので、原告が、被告に対し労働契約上の地位を有していることの確認を求める請求は理由がある。(主文第二項)
 (二) 被告は、訴外会社と原告との雇用関係を営業譲渡の一環として承継しており、その際、特に、原告に対して生じた既発生の債務を除外したなどの特段の事情も認められないから、被告は、訴外会社に既に生じていた債務をも含めて、原告に対する右労働契約上の債務を負うというべきである。