全 情 報

ID番号 07478
事件名 労働者災害補償保険給付不支給処分取消請求控訴事件
いわゆる事件名 京都南労基署長・トーヨータイヤ京滋販売事件
争点
事案概要  タイヤ販売会社Aの京都営業所で営業員として販売業務のほか、タイヤ取扱作業、伝票類の書字その他の作業に従事していたXが、入社後約三年半経過した頃から、右手で文字を書くことができないといった症状が現れたところ、その約半年後に医師からジストニアを発症したと診断されたため休職して治療を受けていたが、右手が従前のタイヤ取扱業務に復帰できる程度には回復しなかったため、休職開始から約四か月後に退職し、その後、京都南労基署長Yに、本件疾病は業務に起因するものであるとして労災保険法に基づく療養補償給付の支給を請求したが、不支給処分とされたことから、右処分の取消しを請求したケースの控訴審で、原審はXの請求を認容していたが、Xが罹患したジストニアは、Xの従事した作業内容、その発現した病態の特徴からも職業性ジストニアとは認め難いこと等から、Xのジストニアは特発性ジストニアの部分症状が右上股に発現したものであること、また特発性ジストニアの発症原因については未だ不明であり、その増悪因子も判明しないことは、医学的に一般に受け入れられている知見であることから、タイヤの入替え作業等がジストニア発症の誘因となし、これを増悪させたことを是認しうる高度の蓋然性があるとの証明に至らなかったというべきであるとして、本件業務と本件疾病との間には条件関係も認めることができないとして、Yの控訴が認容され、原審が取り消された事例。
参照法条 労働基準法75条
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 職業性の疾病
労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 業務起因性
裁判年月日 1999年12月17日
裁判所名 大阪高
裁判形式 判決
事件番号 平成9年 (行コ) 54 
裁判結果 原判決取消(請求棄却)(上告)
出典 タイムズ1054号162頁/労働判例791号46頁
審級関係 一審/07033/京都地/平 9.10.24/平成7年(行ウ)10号
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務起因性〕
 労基法七五条所定の災害補償の要件としては、労働者に生じた傷病等が「業務上」のものであることを要し、かつ、それで足りるが、傷病等が業務上のものであるというためには、業務と傷病等との間に相当因果関係が認められることを要すると解すべきである(「公務上の災害」の意義に関して、最高裁判所昭和五一年一一月一二日第二小法廷判決・裁判集民事一一九号一八九頁参照)。
 ところで、相当因果関係を肯認するためには、条件関係の存在が前提となるが、条件関係が存するというためには、業務がなければ傷病等が生じなかったという関係があること、すなわち、傷病等の発生の原因となった他の諸条件を前提として、それに業務が加わったことが結果発生に有意に寄与したといえることが必要となる。そして、「訴訟上の因果関係の立証は、一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく、経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明することであり、その判定は、通常人が疑を差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうるものであることを必要とし、かつ、それで足りるものである。」(最高裁判所昭和五〇年一〇月二四日第二小法廷判決・民集二九巻九号一四一七頁参照)が、条件関係は、法的評価を加える前の、いわば自然的・事実的因果関係ということができるから、医学的に一般に受け入れられる知見(経験則)に照らし、業務が傷病等を惹き起こす原因となることを是認しうる高度の蓋然性があるとの証明に至らない場合には、条件関係それ自体が存しないことに帰するというべきである。
〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-職業性の疾病〕
 A会社における、被控訴人の作業内容は、そのいずれをみても、質・量ともに、職業性ジストニアの発症の誘因となり、あるいはこれを増悪させるものとは認め難いというべきである。〔中略〕
〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-職業性の疾病〕
 被控訴人が罹患したジストニアは、被控訴人がA会社において従事した作業内容からも、その発現した病態の特徴からも職業性ジストニアとは認め難いし、その他、被控訴人のジストニアが増悪した経過において、右上肢以外の身体的部位の障害やジストニアの病態とはみられないような運動障害が出現しておらず、被控訴人には脳の変性疾患等の存在を窺うこともできないことをも総合すると、被控訴人のジストニアは、特発性ジストニアの部分症状が右上肢に発現したものというほかない。そして、特発性ジストニアの発症原因については未だに不明であるし、その増悪因子も判明していないことは、医学的に一般に受け入れられている知見(経験則)である。そうすると、被控訴人がA会社において従事したタイヤの搬入や入替え、伝票類の書字その他の作業が、医学的な経験則に照らし、ジストニア発症の誘因となり、あるいは、これを増悪させたことを是認しうる高度の蓋然性があるとの証明に至らなかったというべきであるから、本件業務と本件症状との間には、条件関係も認めることができないことに帰する。