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ID番号 07481
事件名 損害賠償等請求事件
いわゆる事件名 私立大学事件
争点
事案概要  私立大学の設立・経営を行う学校法人Y1の設置する大学の教授X1及びX2、助教授X3は、X1らほか講師を含む13名でY2及びY3を業務上横領及び背任の罪で告発し、更にX1らのみで、学生野球部憲章に抵触する誓約書が大学内で取り交わされたとして日本学生野球協会及び全日本大学野球連盟に対して審査を求める上申書を提出したことから、教授会の決議を経て、教授会の構成員として不適格として当分の間教授会の出席を停止され、教育に携わるのにふさわしくないとして当分の間授業の担当から外されるという処分を受け、以後、教授会の招集通知を受けられず、教授会への出席や議案審議への参加を拒否され、またこれまでX1らが担当していた講義が行えなくなったことから、Y1及び理事・学長であったY2及びY3、総務部長・理事であったY4に対して、(1)教授会に出席することの妨害排除、(2)Y2らの行為による精神的苦痛に対する慰謝料の支払、(3)Y1に対し講義を行うことの地位の確認及びY2らに対し講義することの妨害排除を請求したケースで、(1)については、本件出席停止処分については、Y1の処分は就業規則に定められていない懲戒処分を行った点、X1らの上申書問題、告発問題等が就業規則等に違反せず、長期間にわたり継続している点等から違法であるとし請求を認容(Y1以外に対する請求は棄却)し、(2)についても、Y1に対する請求のみを一部認容し、(3)については、当然にX1らが講義を担当する具体的権利を有することはできないとして、請求が不適法・却下された事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
民法1条3項
民法709条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 使用者に対する労災以外の損害賠償
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の限界
裁判年月日 1999年12月22日
裁判所名 仙台地
裁判形式 判決
事件番号 平成2年 (ワ) 476 
裁判結果 一部認容、一部却下、一部棄却(控訴)
出典 時報1727号158頁
審級関係
評釈論文 井口文男・平成12年度重要判例解説〔ジュリスト臨時増刊1202〕6~7頁2001年6月/中本敏嗣・平成12年度主要民事判例解説〔判例タイムズ臨時増刊1065〕384~386頁2001年9月
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の限界〕
 教授会の構成員たる教員が、教授会に出席すること及び講義を担当することは、いずれもこれらの者の権利であるということができるから、被告法人が、原告らに対し、これらを停止させることは、その権利を侵害する不利益処分というほかなく、その実質は、右就業規則にいう懲戒に相当するものというべきである。〔中略〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の限界〕
 右にみたとおり、本件処分は、その実質は、懲戒処分に相当するものというべきところ、懲戒処分を行うかどうか、懲戒処分を行うときに、いかなる処分を選ぶかについては、当該組織の事情に通暁した懲戒権者の広範な裁量に委ねられているが、右の裁量は恣意にわたることをえないものであることももとより当然であって、処分が社会観念上著しく妥当性を欠き、裁量権を濫用した場合は、違法であり、このことは、公私立を問わず、学校の教員に対して行われる懲戒処分についての司法審査においても、異なるところはないものというべきである(最高裁判所昭和五二年一二月二〇日判決・民集三一巻七号一一〇一頁、同昭和五九年一二月一八日判決・労働判例四四三号二三頁参照)。〔中略〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の限界〕
 就業規則に定める懲戒事由の不存在
 右のとおり、実質的には懲戒処分である本件処分は、不利益処分である以上、これが有効とされるためには、少なくとも、法規上の根拠及び右根拠において処分事由を定める事由に該当する事実が存在することが必要であるところ、被告法人においての懲戒に関する定めは、その就業規則五七条に、「懲戒は、譴責、減給、昇給停止、出勤停止及び懲戒解雇の五種とする。」とした上、同五六条は、「教職員は本条より第六一条までの規定による場合のほか懲戒を受けることはない。」とされているにもかかわらず、被告法人は、右規定に該当しない本件処分を行ったものであるから、右処分は、既にこの点において、違法であるというべきである。
〔労働契約-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償〕
 被告法人の本件処分が違法であることについては、これまで判示したとおりであるところ、原告らは、被告法人の右行為によって、大学の教員として不可欠かつ重要な教授会に出席して議案の審議に参加する権利及びそれまで有していた講義担当の権利を、しかも、法規上の根拠もないまま、八年もしくは九年の長きにわたって侵害されてきたものである。
 しかし、他方、原告らにとって、本件上申書の提出や告発は、本件大学の運営の正常化を目的としていたものであることは容易に推認されるところ、そうであれば、例え教授会でこの問題を取り上げても、当時の執行部の体制の下では、原告らの望むような議論は期待できないと考えていたとしても、まずは学内での議論をし、右誓約書を含む事実関係の解明や真偽の確認に努めるべきであり、これが大学の自治の目的にも適うものであったというべきである。しかるに、原告らは、このような行動を採ることのないまま、本件上申書の提出や告発に及んだところ、結局は、日本学生野球連盟の調査の結果は、学生野球憲章に抵触する疑いはないとして問擬されず、また、仙台地方検察庁における捜査の結果は、本件告発にかかる事実については、被告Y3及び同Y4のいずれについても、不起訴処分とされているのであり、このような結果からしても、原告らが、右のような行動をするに当たっては、なお慎重な配慮と裏付資料の収集とが要求されていたというべきである。これに加えて、原告らは、本件処分後、今日までの間、俸給の減額等の不利益を受けたものではないこと等の事情を総合考慮すれば、右処分によって原告らが被った損害に対する慰謝料としては、原告らそれぞれについて、二五〇万円とするのが相当である。