ID番号 | : | 07483 |
事件名 | : | 解雇無効確認等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | ポップマート事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 食料品・日曜雑貨品等の小売業等を業とする会社Yに任期二年の代表取締役として就任したXが、役員報酬九〇万円の支給(雇用保険加入なし、従業員と異なる給与明細書の取扱い)及び所定労働時間の定めなしという勤務実態のもとで、自ら営業体制の確立等を目標に掲げて、経営に直接関連する事柄について決定、実施し、取引業者に対してもY代表者として事情説明に応じていたところ、代表取締役就任一年後に以前Xが勤務していた会社AがYと訴訟関係になるに至り、かつてAに勤務していたXがYの代表取締役であるのはよくないとの理由で、代表取締役の退任・退職を示唆され、その後、取締役会及び臨時株主総会で右解任が決議されたことから、(1)主位的にXはYの使用人兼務取締役であったとして、解雇及び取締役解任の無効確認及び賃金の支払、(2)予備的に正当事由のない取締役解任であるとして損害賠償の支払を請求したケースで、(1)については、Xの報酬、勤務実態、業務内容等から、使用人としての地位を兼務していたということはできないが、名実ともにYの代表者であったといえ、有償ないし雇用型委任契約におけるXの解任は株主総会決議を経ていることから有効であるとしたうえで、(2)については、Xに著しい職務への不適任があったとはいえず、解任の正当事由を認めることはできないことから、Yには商法二五七条一項ただし書に基づく損害賠償責任があるとして、残存任期期間中の役員報酬相当額相当の損害賠償額(予備的請求)が認容された事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法9条 商法257条1項 |
体系項目 | : | 労基法の基本原則(民事) / 労働者 / 取締役・監査役 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 使用者に対する労災以外の損害賠償 |
裁判年月日 | : | 1999年12月24日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成11年 (ワ) 1616 |
裁判結果 | : | 一部認容、一部棄却(控訴) |
出典 | : | 労働判例777号20頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 香川孝三・ジュリスト1193号122〜124頁2001年2月1日 |
判決理由 | : | 〔労基法の基本原則−労働者−取締役・監査役〕 代表取締役とは、取締役会における業務執行に関する意思決定をするにあたり会社を代表して内部的及び外部的に業務執行にあたる会社の機関であり、その代表権の範囲は会社の営業に関する一切の裁判上または裁判外の行為に及ぶ包括的なものである。このことからすれば、原則として、代表取締役の地位は、使用者の指揮命令下で労務を提供する従業員の地位とは理論的には両立するものではなく、代表取締役が使用人としての地位を兼務するということはできない。たしかに、原告の主張するように、代表取締役が、実質的に前記のような代表取締役の権限を有していないと認められるような特段の事情が存する場合もないとはいえない。 しかし、本件についてみるに、原告の報酬は、役員報酬のみで諸手当は支給されておらず、雇用保険にも加入しておらず、給与明細書は使用されているものの(前記一2)、その取扱いは明らかに従業員とは異なっている。また、勤務の実態にしても、所定労働時間が定められていたわけではない(原告は、時間的拘束があった旨主張するが、実際に原告が午前七時ないし七時半ころから午後八時ころまで勤務していた実態があったとしても、そのような定めがあったことを認めるに足りる証拠はない。)。また、原告の行っていた業務をみても、原告は、被告の代表取締役に就任した当時、自ら営業体制の確立、経理業務の確立、電産業務の確立、物流センターの構築という、まさに被告の経営の中核に関する重要事項についての目標を掲げ(前記一2)、実際にも、営業力強化のためにA会社からBをスカウトし、電産業務の外注を実施し、経理部門の強化のために株式会社CからDをスカウトし、保険業務の委託会社を変更して経費の節減を図り、鮮魚部門及び総菜部門強化のために株式会社EからF及びGを採用し、売上高の拡大のために一部営業店舗の営業開始時間を早めるなど、経営に直接関連する事柄について決定、実施しているのであり(〈証拠略〉)、これらが、被告の取締役会長であるHの指示の下に行われた形跡はないのであって、そのことからすると、原告は、経営に関する広範な権限を有し、それを実行していたことが認められる。さらに、原告は、取引銀行や取引業者から説明を求められた際、被告の代表者として、被告の事情説明を行っていた(前記一2)のであるから、対外的にも被告の代表取締役として行動しており、それをHが指示したり、逆に制限したりした形跡はない。こうしたことからすると、原告は、名実ともに被告の代表取締役であったというべきである。〔中略〕 原告の取締役としての任期が平成九年一一月二一日から二年間であり、本件解任が任期途中の解任であることは当事者間に争いがないところ、原告は、本件のような有償ないし雇用型の委任契約の場合はやむを得ない事由のない限り解任は許されないと主張する。しかし、商法二五七条一項本文は、明確に取締役はいつでも株式総会の決議をもって取締役を解任することができる旨規定しており、原告の主張は採用できない。 したがって、株式総会決議を経ている本件解任は有効であるというべきである。〔中略〕 〔労基法の基本原則−労働者−取締役・監査役〕 原告は、名実ともに被告の代表取締役であったというべきで使用人としての地位を兼務していたということはできず、原告と被告との関係は委任契約に基づくものであったというほかない。 〔労働契約−労働契約上の権利義務−使用者に対する労災以外の損害賠償〕 被告は、本件解任は、原告が取締役として不適格であったことを理由とするもので不当事由があると主張する。そして、正当事由については、会社・株主の利益と取締役の利益の調和の上に決せられるべきものと解するのが相当であり、職務への著しい不適任は解任の正当事由にあたるというべきである。〔中略〕 〔労働契約−労働契約上の権利義務−使用者に対する労災以外の損害賠償〕 これらのことからすると、原告に著しい職務への不適任があったということは到底できず、他に正当事由を認めるに足りる証拠もないから、被告の主張を認めることはできない。 そうすると、被告は、商法二五七条一項但書に基づいて、本件解任に伴って原告に生じた損害を賠償すべき義務があるところ、その範囲は原告が取締役を解任されなければ残存期間中に得られたであろう利益、すなわち、残存期間中の役員報酬相当額と解するのが相当であり、具体的には、平成一〇年一二月一日から平成一一年一一月二〇日まで(一一か月と二〇日)の役員報酬相当額一〇五〇万円となる。 |