全 情 報

ID番号 07484
事件名 退職金請求事件
いわゆる事件名 津田鋼材事件
争点
事案概要  鋼材等の売買、輸出入等を目的とする会社Yの従業員Xら九名が、Yでは経営不振の打開策としての希望退職者募集の実施決定により五〇名の希望退職者募集が行なわれ、募集要綱には、申込みが募集人員を超過した場合には会社側で調整する旨が記載されていたところ、募集期間内に口頭ないし書面で応募したが、Y解散が決定されたことに伴い、募集期間終了前に全従業員に対して、本件募集の撤回が書面で通知されたところ、(1)本件募集は合意退職契約の申し込みであり、(2)退職者の調整が必要となる場合は解除権留保付合意退職契約の申込みであり、(3)募集が申し込みの誘因であっても退職者の調整以外は承諾を拒否できないとして、Xらの申込み時点で合意退職契約は既に成立したとして、基本給六か月分の上積み退職金及び年六分の遅延損害金を請求したケースで、(1)については、募集要綱にて「応募」を「申込み」と表現し、応募によっては退職者の調整を予定していたこと等から、Yは応募後に退職者を確定する意思であったと認められ、本件応募は申込みの誘因であって申込みではないとし、(2)については、本件応募が解除権留保付合意退職契約の申込みであるとの主張はYの意思に沿わない解釈であると同時に、むしろ許されないものであり、(3)調整の必要の有無は応募よりも後に判明することから応募の時点で合意が成立するとはいえないこと等から、本件募集に基づく合意退職契約は成立していないとして、請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法11条
労働基準法89条1項3号の2
体系項目 賃金(民事) / 退職金 / 退職金請求権および支給規程の解釈・計算
退職 / 合意解約
裁判年月日 1999年12月24日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成11年 (ワ) 2732 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 労働判例782号47頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔退職-合意解約〕
 原告らは、本件募集は契約の申込みであり、原告らが応募したことによって、直ちに合意退職契約が成立したと主張するので、検討するに、(証拠・人証略)、原告X本人尋問の結果によれば、本件募集に対する応募は、文書によるものとしていないこと、募集の人員を、総合職約四〇人、一般職約一〇人と限定し、募集要綱に「〔2〕募集人員を超過して申込みがあった場合は会社側で調整致します。〔3〕一事業所あるいは一部署で偏った申込みがあった場合も同様に調整致します。」と記載し、また、応募後に慰留を試みた例もあることが認められる。これによれば、被告が本件募集に対する応募について「申込み」という表現を用いているうえ、応募に文書を要求するなど厳格な手続を要求せず、募集人数を限定し、応募によっては調整を予定していたことは明らかであって、被告の意思としては、応募後に退職者を確定する意思であったと認めることができ、本件応募は申込みの誘引であって、申込みではないというべきである。〔中略〕
〔退職-合意解約〕
 希望退職募集に応募することは、それが申込みの誘引であるとしても、労働者に重大な決断を要求することであるから、右募集をたやすく撤回することは許されないとはいえるが、証人中本渉の証言によれば、本件募集の撤回は、募集後に、被告が解散することになったため行われたことが認められるところ、被告が解散すれば全ての従業員が退職することになるのであって、この場合、他の従業員との公平を図る観点からは、撤回もやむを得なかったというべきである。
 してみれば、原告らについて、本件募集に基づく合意退職契約は成立していないといわなければならない。
〔賃金-退職金-退職金請求権および支給規程の解釈・計算〕
 その余の点を判断するまでもなく、原告らの請求は理由がない。