全 情 報

ID番号 07490
事件名 地位保全等請求事件
いわゆる事件名 日本臓器製薬事件
争点
事案概要  医薬品の輸入、製造等を業とする会社Yの支店長であったXら四名が、Yでは輸入して販売した非加熱高濃縮血液製剤によりHIV感染・エイズ罹患という被害を与えた多数の血友患者らに約五〇億円の賠償金を支払うことになったほか、売上げの低下により、Xらを含む管理職等への年俸制実施とともに賃金が減額され、XらはYの将来に不安を抱くようになっていた中で、Yの代表取締役の長男で顧問であるAが、経営の刷新を求める「新生ビジョン」を作成し、経営陣やXらに配布したが、Yらは右計画を現経営陣の退陣とA自らがこれにとって代わろうとする意図のものであると判断したことから、これに対しXらは右計画を建設的なものとしてその実現を期待し、各支店で署名活動を行い、また管理職組合を結成したが、Yはこれを認めず、組合を会社の組織破壊の事実を隠蔽しようとする隠れ蓑であるとの文書を全管理職の自宅に送付し、Xのうち三名へ自宅待機命令、Y管理本部付への命令を発するとともにAを顧問から解職したため、Xらへの処分の撤回等を求めて組合は団体交渉を申し入れ、二日間本社前での座り込み等のストライキを行ったところ、YらはXらに対し、支店長として会社秩序を保持すべき責任がありながら社外の人間が行った新生ビジョンなる紊乱行為に加担したとして、またX2に対しては座り込み行為等が就業規則の懲戒規定に該当するとして、懲戒解雇処分を行ったことから、本件懲戒解雇は、解雇理由不存在、不当労働行為等、懲戒権及び解雇権の濫用で無効として労働契約上の地位確認、賃金支払を求めて仮処分申立てしたケースで、Xらの署名活動は現経営陣の失脚をねらったものではなく、新生ビジョンの実現に協力したにすぎず、Yが実体把握前の早い段階でクーデターと位置づけたものであり懲戒解雇事由(勤務上の事に関し、虚偽の手続又は届出を行い職場秩序を乱し、乱す恐れのある者、これに準ずる行為があったとき)に該当しないこと、管理職組合は支店長が加入していても労働組合として認められ、X2に対する本件座り込み参加を理由として懲戒解雇処分はできないこと、また各自の関与の程度を正確に把握する前に、支店長という立場にあるというだけで解雇を決定していることからすれば、本件解雇は即時解雇するだけの要件はなく、解雇権の濫用として無効とし、地位確認及び賃金支払について請求が一部認容された事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
労働基準法89条1項3号
民法1条3項
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の濫用
解雇(民事) / 解雇権の濫用
裁判年月日 2000年1月7日
裁判所名 大阪地
裁判形式 決定
事件番号 平成11年 (ヨ) 10065 
裁判結果 一部認容,一部却下(異議申立後に和解)
出典 労働判例789号39頁
審級関係
評釈論文 香川孝三・ジュリスト1205号150~152頁2001年7月15日
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用〕
 その署名活動が、結果的には、債務者の従業員に混乱を生じさせたとはいえるのであるが、多くの従業員が賛同した新生ビジョンそのものには、債務者自身一見建設的な意見であると認めるように、特段問題がなかったにもかかわらず、右混乱を生じた原因は、債務者が早期の段階で、これをクーデターと断定したことによるところが大であって、その責任をすべて債権者らに負わせることは酷というべきである。〔中略〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用〕
 以上を前提に、就業規則の懲戒解雇事由をみるに、その第七九条は懲戒解雇事由として一ないし一五号を定め、その三号に「勤務上のことに関し、虚偽の手続又は届出を行い職場秩序を乱し、又は乱すおそれのあるとき。」と、一五号に「その他前各号に準ずる行為があったとき。」と規定する。債務者は、債権者らの行為を、右三号、一五号に該当すると主張するが、三号は、「勤務上のことに関し、虚偽の手続又は届出」をした場合の規定であり、債権者らの行為がこれに直接該当するものではない。そこで、一五号該当性が問題となるが、就業規則第七八条の出勤停止に該当する事由として「越権専断の行為により、会社内の秩序をみだしたとき」等との項があり、債権者らの行為は、むしろこちらに近い。債権者らの署名活動によって、署名した者らは債務者に対する造反者という烙印を押されかねない状況となり、債務社内(ママ)の秩序が大きく乱されたことは否めないが、これは債務者が署名活動の実体を把握する以前にクーデターと断定したことによるところが大きく、これをすべて債権者らの責任とすることができないのは前述のとおりである。債務者は、債権者らを造反者として一律に扱うが、署名活動に対する関与の程度は、債権者それぞれによって異なり、債権者X2の関与は少ないし、債権者X4が関与したのは、Bの記述からも、平成一一年四月以降であることが分かる。これらを総合すれば、債権者らの行為は、未だ、就業規則第七九条一五号に該当するとはいえないものというべきである。
〔解雇-解雇権の濫用〕
 右通知書は、懲戒解雇事由の通知書であって、予備的に第五三条の予告による通常解雇の意思表示がされたとは、形式上認めることができないし、本件仮処分手続における意思表示についても手続上問題があるが、その点を別にしても、前記認定の事実によれば、債権者らの署名活動は、債務者代表取締役ら経営陣の退陣を求めて始まったものではなく、債務者の建設的な改善を求めた程度のものにすぎなかったのに、債務者において、署名活動の実体を把握する以前にクーデターと断定したことによって、無用の混乱を来したといえる部分が大きく、債権者らばかりを責めることができないのに、しかも、債権者ら各自の関与の程度も正確に把握する前に、支店長という立場にあるというだけで解雇を決定していることからすれば、即時に解雇するだけの要件はないというべきであり、右通常解雇は解雇権の濫用として無効である。