ID番号 | : | 07492 |
事件名 | : | 退職金請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 東京ゼネラル事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 商品取引所法の適用を受ける商品取引所市場におけるオプション取引等を目的とする会社Yの支店長であり、六月二六日付で退職の意思表示をしたものの上司らの慰留を受けて七月はじめまで勤務を続け、その後七月二〇日をもって退職した(退職日は六月か七月かで争いあり)Xが、Yでは約三年前からYの要職に就いていた従業員が大量に退職して競業会社に就職し、退職の仕方等でトラブルが発生していたこと等から就業規則が六月一六日付で改定、付属規程として退職金規程が新設されて、「会社の承諾を得ないで退職後一年以内に会社と同種または類似の競業を営みまたは同業競合会社に就職した場合」に退職金の支払が制限される旨の規定等が新設されたところ、Xは右規定に該当する事由があるとして退職金が五割減額されて支給されたことから、就業規則の変更は不利益変更であるから無効であり、また退職意思表示後の改変であるから、その適用はない等として、未払退職金を請求し、退職日(退職金の支払時期)等も争われたケースで、Xの退職日は新就業規則等の施行日よりも後であると認定して、Xに新就業規則の適用があるとしたうえで、就業規則の変更内容、変更の必要性、労働条件の改善(功労金制度の新設)、及び変更の手続(従業員の多くが変更に同意)等からすれば、本件変更には合理性があり有効であるとし、Xの退職及び競業他社への就職の経緯において、右規定を適用して退職金を減額することが許されるとして、請求が棄却された事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法11条 労働基準法89条1項3号の2 労働基準法93条 |
体系項目 | : | 賃金(民事) / 退職金 / 競業避止と退職金 就業規則(民事) / 就業規則の一方的不利益変更 / 退職金 |
裁判年月日 | : | 2000年1月21日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成10年 (ワ) 26972 |
裁判結果 | : | 棄却 |
出典 | : | 労経速報1751号7頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔就業規則-就業規則の一方的不利益変更-退職金〕 〔賃金-退職金-競業避止と退職金〕 新たな就業規則(付属規程を含む)の作成又は変更によって既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として許されないが、労働条件の集合的処理、特にその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいって、当該規則条項が合理的なものである限り、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒むことは許されない。そして、右にいう当該規則条項が合理的なものであるとは、当該就業規則の変更等が、その必要性及び内容の両面からみて、それによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても、なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認することができるだけの合理性を有するものであることをいう。 (二)これを本件について検討するに、前記1で認定した変更内容(競業制限を受ける従業員の範囲を限定しており、期間も退職後一年間に限定している。また、被告の承諾を得れば競業他社への就職も可能な内容となっている。退職金についても常に不支給とはしていない)、変更の必要性(要職に就いていた従業員が大量に退職して競業他社に就職すれば、企業の存続にも重大な影響を及ぼしかねない)、労働条件の改善(特に功労金支給制度の新設)及び変更の手続(他の多くの従業員は変更に同意していると認められる)等からすれば、退職金など労働者にとって重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の変更等については、当該条項が、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものであると解すべきであるとしてもなお、被告の就業規則等変更には合理性があり、したがって、変更は有効であるというべきである(なお、従業員が競業他社への就職の承諾を求めたのに対し、被告が正当な理由なく拒否したため退職金規程四条に該当することになった場合には、退職金を不支給とすることは許されないというべきである。このように、同条が濫用されることがあってはならないことは当然である)。 そして、前記一1の原告の退職及び競業他社への就職の経緯(原告がA部長らに述べた退職理由は、その後の経緯に照らし到底信用できるものではない。また、退職時期、業務引継の点を含む退職の態様とも被告に著しい不利益を及ぼすものである)は、信義に反し、原告のそれまでの勤続の功を著しく減殺するものといわざるを得ないから、被告が、原告に退職金規程四条を適用して、退職金の五割を不支給とすることも許されるというべきである。 |