全 情 報

ID番号 07493
事件名 地位保全等仮処分申立事件
いわゆる事件名 ナショナル・ウエストミンスター銀行(三次仮処分事件)
争点
事案概要  金融、為替取引、証券、投資顧問業務などの複数の業務部門によって構成された外資系企業グループに所属する銀行Yの東京支店で、入社以来トレードファイナンス(貿易金融業務)関係の事務を担当し、アジア・パシフィック部門のアシスタント・マネージャーであった労働者Xが、グループの経営戦力の転換に基づくアジア地区におけるトレードファイナンス業務の廃止の決定により、担当業務が消滅及びXを従来の地位を保持させたまま配転させうるポジションがないことを理由に特別退職金等の支給を約束する形で退職勧奨されたが、これを拒否し、更に提案された関連会社への職務転換(提示された賃金額は市場価格では最高額であった)も拒否したため、再就職までの就職会社の斡旋サービスを受けるための金銭的援助を行うことが約束されて解雇され、退職勧奨時に提示した額に更に上乗せした額の退職金が振り込まれたところ、本件解雇は就業規則の所定の解雇事由が存しないものであり、また解雇権濫用により無効であるとして、(1)労働契約上の地位確認及び(2)賃金支払を求める仮処分申立てをしたケースの三次仮処分で、賃金支払のみを認容した二次処分とは異なり、本件解雇には合理的な理由があり、YはXの当面生活の維持及び再就職便宜について相応の配慮を行い、解雇理由を繰り返し説明しているなど等を考慮すれば、解雇権の濫用とはいえないとして請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法89条1項3号
民法1条3項
体系項目 解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の要件
解雇(民事) / 解雇権の濫用
裁判年月日 2000年1月21日
裁判所名 東京地
裁判形式 決定
事件番号 平成11年 (ヨ) 21217 
裁判結果 却下
出典 労働判例782号23頁/労経速報1755号3頁
審級関係
評釈論文 近藤昭雄・労働判例790号6~14頁2000年12月1日/小畑史子・労働基準54巻1号28~33頁2002年1月/植木智恵子・経営法曹130号26~39頁2001年3月/川口美貴・法律時報73巻9号123~126頁2001年8月/村中孝史・民商法雑誌124巻3号75~86頁2001年6月/土田道夫・労働判例百選<第7版>〔別冊ジュリスト165〕170~173頁/武本暁生・法政研究〔九州大学〕67巻4号229~239頁2001年3月
判決理由 〔解雇-整理解雇-整理解雇の要件〕
 余剰人員の削減対象として雇用契約の終了を余儀なくされる労働者にとっては、再就職までの当面の生活の維持に重大な支障を来すことは必定であり、特に、景気が低迷している昨今の経済状況、また、従来日本企業の特徴とされた終身雇用制が崩れつつあるとはいえ、雇用の流動性を前提とした社会基盤が整備されているとは言い難い今日の社会状況に照らせば、再就職にも相当の困難が伴うことが明らかであるから、余剰人員を他の分野で活用することが企業経営上合理的であると考えられる限り極力雇用の維持を図るべきで、これを他の分野で有効に活用することができないなど、雇用契約を解消することについて合理的な理由があると認められる場合であっても、当該労働者の当面の生活維持及び再就職の便宜のために、相応の配慮を行うとともに、雇用契約を解消せざるを得なくなった事情について当該労働者の納得を得るための説明を行うなど、誠意をもった対応をすることが求められるものというべきである。
 右のような観点から、以下、本件解雇が解雇権の濫用に当たるか否かを検討する。なお、債権者は、本件解雇が解雇権の濫用に当たるかどうかについては、いわゆる整理解雇の四要件を充足するかどうかを検討して判断すべきである旨主張するが、いわゆる整理解雇の四要件は、整理解雇の範疇に属すると考えられる解雇について解雇権の濫用に当たるかどうかを判断する際の考慮要素を類型化したものであって、各々の要件が存在しなければ法律効果が発生しないという意味での法律要件ではなく、解雇権濫用の判断は、本来事案ごとの個別具体的な事情を総合考慮して行うほかないものであるから、債権者主張の方法論は採用しない。
〔解雇-解雇権の濫用〕
 以上によれば、債務者としては、債権者との雇用契約を従前の賃金水準を維持したまま他のポジションに配転させることができなかったのであるから、債権者との雇用契約を継続することは、現実的には不可能であったということができ、したがって、債権者との雇用契約を解消することには、合理的な理由があるものと認められる。〔中略〕
〔解雇-解雇権の濫用〕
 債務者は、A会社の経理部におけるクラークのポジションを年収六五〇万円で債権者に提案したが、これは、債務者が、当時債務者東京支店にもA会社にも債権者の賃金水準を維持したままでは提供できるポジションがなかったにもかかわらず、債権者の雇用継続に対する希望に応じるために検討して提案したものであること、そして、右ポジションには、当時、契約社員が就いていて、年収四五〇万円で十分満足のいく仕事をしており、かつ、同人に退職の予定がなかったにもかかわらず、右契約社員を解雇してまで債権者に右ポジションを与えるべく提案したものであること、また、疎明資料(〈証拠略〉)及び審尋の全趣旨によれば、債権者に提示した年収六五〇万円という金額は、右ポジションの市場価格としては最高限度額であると認められること、さらに、債務者は、賃金減少分の補助として、退職後一年間については二〇〇万円を加算して支給するとの提案もしたこと、加えて、債務者は、債権者及び組合との間で、債権者の処遇について全七回、三か月余りにわたって団交を行い、雇用契約を解消せざるを得ない事情について繰り返し説明を行ったこと、その他前記認定の本件解雇に至る経緯からすると、債務者は、でき得る限り誠意をもって債権者に対応したものといえる。〔中略〕
〔解雇-解雇権の濫用〕
 債権者との雇用契約を解消することには合理的な理由があり、債務者は、債権者の当面の生活維持及び再就職の便宜のために相応の配慮を行い、かつ雇用契約を解消せざるを得ない理由についても債権者に繰り返し説明をするなど、誠意をもった対応をしていること、その他、先に認定した諸事情を併せ総合考慮すれば、未だ本件解雇をもって解雇権の濫用であるとはいえず、他にこれを認めるに足りる疎明はない。