全 情 報

ID番号 07498
事件名 公務外認定処分取消請求事件
いわゆる事件名 地公災基金京都府支部長(京都市立梅屋小学校)事件
争点
事案概要  京都の公立小学校教諭として、二年生の学級担任のほか教務主任等一七の校務、育友会の庶務補佐、スポーツ教室のサッカー指導等の業務に従事していたが、急性心不全により死亡したA(当時三九歳)の妻Xが、Aの死亡が公務上の災害に当たるとして、地方公務員災害補償法に基づき地公災基金京都府支部長に対して公務災害認定を請求したが公務外認定処分の通知を受けたことから(審査請求、再審査請求も棄却)、Aは、死亡一年前頃に多様な職務に誠実に取り組み、自宅における長時間の公務遂行も常態化していたこと、更に教務主任への初めての就任から精神的ストレスを感じ職務を遂行していたこと、二学期には運動会、保護者に対する同和教育啓発ビデオの上映等の大きな行事が続き、冬休みにも充分な休息が取れないまま、半日入学、造形展等の行事や次年度への準備の必要がある三学期に至ったこと等から、Aの死亡は多忙な公務に起因するもので公務上の災害に当たるとして、右処分の取消しを請求したケースで、Aの小学校における多忙な職務遂行による持続的な身体的疲労及び精神的ストレスの蓄積が血管の病変等を自然的超過を超えて発症・促進させ、急性心筋梗塞を発症し、心不全により死亡するに至ったものと認めるのが相当であり、Aの死亡と公務との間に相当因果関係があるということができるとして、請求が認容された事例。
参照法条 地方公務員災害補償法1条
地方公務員災害補償法31条
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 業務起因性
労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 脳・心疾患等
裁判年月日 2000年1月28日
裁判所名 京都地
裁判形式 判決
事件番号 平成9年 (行ウ) 10 
裁判結果 認容(控訴)
出典 労働判例791号33頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務起因性〕
 1 地方公務員災害補償法三一条にいう「職員が公務上死亡した場合」とは、職員が公務により負傷し、又は疾病にかかり、右負傷又は疾病により死亡した場合をいい、公務と死亡との間に相当因果関係のあることが必要である。そして、公務と死亡との間に相当因果関係があるというためには、必ずしも公務遂行が死亡の唯一の原因であることを必要とするものではなく、当該公務員の素因や既存の疾病等が原因となっている場合であっても、公務の遂行が公務員にとって精神的・肉体的な過重負荷となり、既存の疾病等を自然的経過を超えて急激に増悪させ、死亡の結果を発生させたと認められる場合には、相当因果関係があると認めるのが相当である。
 2 また、右因果関係の立証は、一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく、経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる程度の高度の蓋然性を証明することであり、その立証の程度は、通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうるものであることを必要とし、かつ、それで足りるから、厳密な医学的判断が困難であっても、当該職員の職務内容、就労状況、健康状態、基礎疾患の有無、程度等を総合的に考慮し、それが、現代医学の枠組みの中で、当該発症の機序として矛盾なく説明できるのであれば、公務と死亡との間に相当因果関係があるというべきである。
〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕
 被災職員は発症から数分で死亡したものと推定されること、死亡直後の被災職員の脳脊の髄液は清明であったこと、発症から二四時間以内の突然死の約七割が心疾患によるものであるとする報告があることに照らすと、被災職員は、脳原性突然死の可能性は低く、心臓性突然死と推認することができる。そして、心臓突然死の場合の多くは致死性不整脈によって死亡していること、右致死性不整脈の基礎疾患のうち最も多いのは心筋梗塞等の虚血性心疾患であることに照らし、被災職員は急性心筋梗塞(又は急性心筋虚血)を発症し、これに続発する致死的不整脈による心不全により死亡したものと推認するのが相当である。〔中略〕
〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕
 このように、昭和六三年度の被災職員の職務(公務)は、通常の小学校教員に比べて、肉体的、精神的に過重なものであったこと、被災職員はこれらの多様な職務に誠実に取り組み、自宅における長時間の持ち帰り仕事(公務の遂行)が常態化していたこと、被災職員自身、教務主任への就任は初めてであり、より一層強い緊張と精神的ストレスの負担の下で職務を遂行していたものと推認されることに照らすと、右職務(公務)の遂行による身体的疲労及び精神的ストレスの蓄積は、加齢や日常生活上の諸要因による自然的経過を超えて虚血性心疾患に至る血管の病変等を発症ないし促進する要因になりうる程度の負荷であったと認めるのが相当である。そして、右身体的疲労や精神的ストレスの蓄積は、とりわけ、運動会、保護者に対する同和教育啓発ビデオの上映、自主研究発表等の大きな行事が続いた二学期には断続的に続き、冬休みにも十分に休息がとれないまま、半日入学、造形展等の行事や次年度への準備もしなければならない三学期に至ったものであり、〔中略〕
〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕
 証拠(原告本人)によれば、被災職員の父親が昭和六三年一二月ころ癌で入院したこと、被災職員は、平成元年一月に原告から教員を辞めたいと告げられたこと、被災職員は、父親が入院中(昭和六三年一二月ころから平成元年二月初めまで)、ほぼ毎日見舞に行き、同人が平成元年二月初めに退院してからは銭湯での入浴に付き添うなどしていたこと、原告が体調を崩した同年二月初めからは、次男の保育園の迎えを毎日するようになったことが認められ、右事実によれば、被災職員が職務以外の事由により、一定の精神的ショックと身体的疲労を被ったと推認することができる。しかし、これらの事由のみからで、前判示の健康状態にあった被災職員が急性心筋梗塞(又は急性心筋虚血)により死亡するに至ったとは考え難く、被災職員は、昭和六三年度四月以降の梅屋小学校における多忙な職務の遂行による持続的な身体的疲労及び精神的ストレスの蓄積が血管の病変等を自然的経過を超えて発症・促進させ、同年二月二一日午前六時ころ、急性心筋梗塞(又は急性心筋虚血)を発症し、心不全により死亡するに至ったものと認めるのが相当であり、被災職員の死亡と公務との間に相当因果関係があるということができる。
 (3) したがって、被災職員の死亡は公務上の死亡であると認定するのが相当である。