全 情 報

ID番号 07507
事件名 退職金請求事件
いわゆる事件名 伊藤製菓事件
争点
事案概要  菓子製造会社Y(実質的に廃業している)から累積債務の増大による経営不振を理由に全従業員を対象として解雇の意思表示がなされた元従業員Xら七名が、その後他の従業員とともに労働組合を結成し、Yとの団体交渉の結果、退職金の支払及び夏季一時金等の支払を条件に、Yの方針を受け入れることとして、就業規則に基づく退職金支払を行う旨の協定書(労働協約)を取り交わしたにもかかわらず、Yから労働組合員として名を連ねているA及びBはYの取締役で使用者の利益代表者であり、労働組合法二条ただし書一号により労働組合適格を欠き本件労働協約は無効である等として、退職金支払を拒否されたことから、未払退職金の支払を請求したケースで、労働組合の自主性を損なう危険が大きいとはいえない者にあっては、その者が労働組合に参加したとしても、労働組合と認められないと解する理由はないとし、A及びBは、取締役兼従業員であって、かつ一般従業員としての職務の割合が大半を占めており、取締役としての職務の割合がごく小さいものであったと認められることから、右両名が労働組合法二条ただし書一号に該当するということはできないとして、労働協約は無効であるとのYの主張が退けられ、社団法人神奈川県中小企業年金福祉共済団及び労働福祉事業団からXらに支払われた金員は退職金支払、あるいは立替え払いに当たるとして、労働協約に基づいて支払われるべき退職金額から右金額を控除した分について請求が認容された事例。
参照法条 労働基準法11条
労働基準法89条1項3号の2
体系項目 賃金(民事) / 退職金 / 退職金請求権および支給規程の解釈・計算
賃金(民事) / 退職金 / 退職金の支給時期
裁判年月日 2000年2月7日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成10年 (ワ) 12579 
裁判結果 一部認容、一部棄却(確定)
出典 労働判例779号20頁
審級関係
評釈論文
判決理由  労働組合法二条ただし書一号は、労働組合には「役員」の参加を許さない旨規定しており、この「役員」に株式会社、有限会社の取締役が含まれることは明らかである。一方、同法同条号が労働組合に使用者側人員の参加を許さないこととした趣旨は、同法同条号のその余の要件(「雇入解雇昇進又は異動に関して直接の権限を持つ監督的地位にある労働者、使用者の労働関係についての計画と方針とに関する機密の事項に接し、そのためにその職務上の義務と責任とが当該労働組合の組合員としての誠意と責任とに直接てい触する監督的地位にある労働者その他使用者の利益を代表する者」)、同法同条本文並びに同法同条ただし書二ないし四号の各規定にかんがみて明らかなとおり、労働組合の自主性を確保するため、その自主性が阻害される危険の特に大きい一定の使用者側人員が労働組合に参加することを否定することにあるから、役員とはいえ右の自主性を損なう危険が大きいとはいえない者にあっては、その者が労働組合に参加したとしても、これをもって労働組合と認められないと解する理由はない。すなわち、形式的に役員に当たる者であっても、その具体的な地位によっては、その者が労働組合に加入していても労働組合として認めることができる場合があるというべきである。
 被告は、A及びBが組合員となることによって、労働者と認定される人数が増えることになるが、労働者に対する配当原資が限られている本件のような状況下においては、このことは客観的に他の従業員にとって不利益に当たるとして、右両名が組合員となることによって本件労働組合の自主性が損なわれる旨主張するが、右のような不利益があるからといって本件労働組合の自主性が損なわれるとまではいえず、被告の右主張は失当である。
〔賃金-退職金-退職金請求権および支給規程の解釈・計算〕
 社団法人神奈川県中小企業年金福祉共済団及び労働福祉事業団から原告らに対して支給された金員の性質が退職金の支払あるいは立替払に当たることにかんがみると、二で認定した退職金金額から右各金員を控除した金員が、本件で認容すべき未払退職金の金額である。
〔賃金-退職金-退職金の支給時期〕
 原告らは、本件解雇から七日後の平成九年八月一九日から支払済までの遅延損害金を請求する。労働基準法二三条一項は、退職した労働者の請求があった場合には七日以内に賃金(これに退職金が含まれることは明らかである。)を支払わなければならない旨規定しているから、原告らは本件解雇の日に被告に対して右退職金の支払を請求していることを要するが、このような請求を行ったことを認めるに足りる証拠はない。また、原告らは、その後本件訴え提起に至るまでの間に右のような請求をしていることの主張、立証をしないから、結局、本件遅延損害金発生の始期は、原告らが被告に対して右のような請求をしたことが当裁判所に明らかな被告に本件訴状が送達された平成一〇年六月一二日の七日後である同月一九日であると認めるのが相当である。