ID番号 | : | 07510 |
事件名 | : | 職務命令無効確認請求控訴事件 |
いわゆる事件名 | : | 新日本製鉄(三島光産・出向)事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 鉄鋼製造等を業とする会社Yに雇用されていたX(Yの前身会社に入社以来二七年構内輸送業務に従事)が、Yでは、厚板工場の鋼片製整業務を一括して協力会社Aに委託されることとなり、当該業務に従事していた従業員が余力人員になったことから、雇用を確保するために、二〇名中一〇名を選抜して出向させる旨の決定により、出向を命じられ、大部分の組合員は出向に同意したものの、Xは同意せず、組合との協議・了解を経て、出向命令が発せられ、Xは異議を留めながらこれに従い出向し、その後も会社の経営環境の悪化に伴って余力人員の活用策として出向が行われている中、出向期間三年は三回延長されたことから、本件出向は、長期にわたるときには労働者本人の同意がいるとして、就業規則、労働協約は本件出向命令の根拠になりえず、また権利濫用により無効であるとして、本件出向命令の無効確認を請求したケースの控訴審で、一審と同様に、Xの入社時の就業規則にも社外勤務規定があり、Xは就業規則遵守の誓約書を提出し、出向者の処遇を規定したYと組合間の社外勤務協定(原則三年、業務上の都合により延長がありうる)が締結され、労働協約にも出向に関する記載があり、従前から労働組合の了解の元に出向期間延長が相当数実行されてきたこと等から、右規定が出向命令権の根拠となるとし、また出向延長措置についても、その時点でも延長の出向には必要性があり、労働条件、生活関係等で、職務内容、勤務場所、職務環境格別の不利益もないから、必要性の程度、数次の延長により蒙るXの不利益の程度、人選の合理性などを考慮して延長措置は権利の濫用にはならないとしてXの控訴が棄却された事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 民法625条1項 労働組合法16条 |
体系項目 | : | 配転・出向・転籍・派遣 / 出向命令権の根拠 配転・出向・転籍・派遣 / 出向命令権の限界 |
裁判年月日 | : | 2000年2月16日 |
裁判所名 | : | 福岡高 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成8年 (ネ) 554 |
裁判結果 | : | 一部棄却、一部却下(上告) |
出典 | : | 労働判例784号73頁 |
審級関係 | : | 一審/福岡地小倉支/平 8. 3.26/昭和63年(ワ)596号 |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔配転・出向・転籍・派遣-出向命令権の根拠〕 そこで検討するに、出向(在籍出向)においては、出向者と出向元会社との間の労働契約は維持されているものの、労務提供の相手方が変わり、労働条件や生活関係等に不利益が生じる可能性があるので、出向を命じるためには、これらの点の配慮を要し、当該労働者の承諾その他これを法律上正当付ける特段の根拠が必要であると解すべきである。 本件においては、控訴人が昭和三六年に入社した当時の就業規則には、業務上の必要により従業員を社外勤務させることがある旨規定されており、控訴人はこの就業規則を遵守する旨の誓約書を提出した上、昭和四四年九月に被控訴人と連合会との間で出向期間その他出向者の処遇等を定めた社外勤務協定が締結され、労働協約本文は次期改訂時に改訂することとされ、昭和四八年四月に労働協約においても、業務上の必要により組合員を社外勤務させることがある、社外勤務に関しては別に協定する旨規定されるに至り、本件出向命令当時、右内容の就業規則、労働協約、社外勤務協定(その法的性質は、協定内容、当事者、形式等から、労働協約であると解される。)の各規定が存したこと、社外勤務協定によれば、出向者の処遇等については、被控訴人の従業員と比べて特に不利益を受けないよう配慮されていること、被控訴人においては、昭和四五年ころから、各種業務を分離独立させた会社や関連会社、協力会社等に委託するようになり、以後本件出向命令に至るまで、業務委託に伴う出向及び出向期間の延長の事例が相当数に及んでいたこと、この間労働組合は、該当する職場の労働者の個別の意見に配慮しつつ、出向の必要性、出向後の労働条件等について被控訴人と協議し、労働組合の了解の下に多くの出向が実施された経緯があることなどにかんがみれば、被控訴人は、右各規定を根拠として、本件のような協力会社への業務委託に伴う出向についても、その必要性があり、出向者に労働条件や生活環境の上で格別の不利益がなく、適切な人選が行われるなど合理的な方法で行われる限り、出向者の個別具体的な同意がなくても従業員に対し出向を命じることを法律上正当化する特段の根拠があると認めるのが相当である。 〔配転・出向・転籍・派遣-出向命令権の限界〕 前記認定の本件出向命令後の被控訴人の経営環境、経営状況、被控訴人の要人員状況等にかんがみると、本件各出向延長措置時点において、控訴人の出向を更に延長する業務上の必要性があったと認められる。〔中略〕 〔配転・出向・転籍・派遣-出向命令権の限界〕 本件各出向延長措置が権利の濫用にあたるかどうか検討するに、被控訴人の出向者は、社外勤務協定により社内勤務者の労働条件とほぼ同様に扱われるよう保障されているが、A会社では、所定休日日数が被控訴人のそれよりも八日少ないため週平均一時間程労働時間が多くなること、そのため出向手当Bの支給を受けることで不利益が一部填補されているものの、八日分の休日出勤手当額と比較すると、年額約五万円程度の不利益が生じていることが認められ、それ以外には労働条件、生活関係等で特段の不利益を受けていることは認められない。とりわけ、本件出向命令の前と後とで、職務内容、勤務場所、職務環境に特段の変化はない。(〈証拠略〉、原審及び当審における控訴人) 以上認定の業務上の必要性の程度、数次の延長によって蒙る控訴人の不利益の程度、原判示の人選の合理性などを総合して検討すると、本件各出向延長措置が権利の濫用に当たるとはいえない(ママ)〔中略〕 〔配転・出向・転籍・派遣-出向命令権の限界〕 前記のとおり、出向期間の延長の要件は「業務上の必要」があることで足るのであって、控訴人の右主張は採用できない。労働者の救済は、業務上の必要があるとして延長が繰り返された場合に、業務上の必要性の程度、人選の合理性、延長によって蒙る労働者の不利益の程度などを総合して権利の濫用にわたるときに出向期間の延長措置を無効とすることによって図られるべきである。 |