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ID番号 07513
事件名 賃金請求控訴事件、和解無効確認請求控訴事件
いわゆる事件名 最上建設事件
争点
事案概要  建設会社Yから、けんか相手の同僚にけがを負わせたことを理由に解雇された元従業員Xが、Yでは、就業規則には「休日は第二、四土曜日、日曜日、祝祭日、年末年始とする」と定められて、「業務の都合により超過勤務した場合、時間外勤務手当は一日八時間を超え勤務したとき、実働一時間につき・・時給の二割五分、休日手当は時間外勤務と同様の扱いとする」とされていたが、(1)休日割増、休日時間外割増(控訴審で追加)、時間外割増(原審よりも額を追加)、深夜割増(原審よりも額を追加)、休業手当・残業手当(原審で取下げ、控訴審で追加)帰任旅費が未払であるとして、右未払賃金の支払を請求し、また(2)解雇予告手当ての支払を求める裁判中に成立した和解(これに基づく五〇〇〇円の解決金が支払われた)が、労働基準法二〇条やYの就業規則を無視してなされ、本来適用されるべき法律を適用せずになされたものとして本件和解の無効確認請求したケースの控訴審で、(1)については、原審では請求の一部が認容され、その他の請求が棄却されていたが、まずYにおける法定休日は日曜日であることを認定したうえで、日曜日以外の就業規則規定の休日に労働させた場合には本件雇用契約に基づき、右就業規則による割増賃金を支払う義務を負うとして、三日間の法定休日については、労働基準法で法定の三割五分で、一五日の法定外休日については二割五分で計算した割増賃金の合算額から原審で認められた額を差し引いた額についてXの控訴が認容され、休日時間外労働、深夜・残業手当についてはXの控訴が一部認容され、(2)については、原審と同様、本件解雇は、Xの責めに帰すべき事由があるとして、解雇予告手当の支払義務がないと判断して担当裁判官が解決金による和解を斡旋し、これを無視した和解であるということはできないとして、Xの控訴が棄却された事例。
参照法条 労働基準法37条1項
労働基準法35条
労働基準法20条1項
体系項目 賃金(民事) / 割増賃金 / 支払い義務
休日(民事) / 休日の振替え
解雇(民事) / 解雇予告手当 / 解雇予告手当請求権
裁判年月日 2000年2月23日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成10年 (レ) 175 
平成10年 (レ) 358 
裁判結果 一部変更、一部棄却(上告)
出典 労働判例784号58頁
審級関係 一審/東京簡/平10. 5.27/平成9年(ハ)24212号
評釈論文
判決理由 〔賃金-割増賃金-支払い義務〕
 労働基準法三七条一項、労働基準法第三十七条第一項の時間外及び休日の割増賃金に係る率の最低限度を定める政令(平成六年一月四日政令第五号。以下「本件政令」という。)によれば、使用者が労働基準法三六条の規定により労働者を休日に労働させた場合の労働については通常の労働日の賃金の計算額の三割五分の率で計算した割増賃金を支払わなければならないとされているが、労働基準法三七条一項にいう休日は労働基準法三五条の規定に基づいて労働者に付与される休日(以下「法定休日」という。)であり、例えば、週休二日制のように使用者が法定休日の外にもう一日の休日(以下「法定外休日」という。)を付与していたとしても、その一日の休日(法定外休日)は労働基準法三五条に規定する休日(法定休日)ではなく、したがって、使用者がその日(法定外休日)に労働者に労働をさせたとしても、労働基準法三七条一項の規定に基づいて通常の労働日の賃金の計算額の三割五分の率で計算した割増賃金を支払う必要はない。しかし、使用者が労働者に付与する休日について法定休日と法定外休日を区別することなく、一体のものとして規定し運営している場合には、法定外休日についても法定休日と同じ取扱いをする趣旨であるとみることができる。〔中略〕
〔賃金-割増賃金-支払い義務〕
 被控訴人が控訴人を第二、第四土曜日、祝祭日、年末年始の一週間(ただし、日曜日を除く。)に労働させたとしても、労働基準法三七条一項及び本件政令で規定する割増率三割五分で計算した休日割増賃金を支払う義務を負わないというべきである。〔中略〕
〔賃金-割増賃金-支払い義務〕
 被控訴人の就業規則は法定休日と法定外休日とを区別することなく控訴人が本件雇用契約において前記のとおり合意された休日に出勤した場合には就業規則に規定する二割五分の割増率の休日勤務手当を支払うこととしていたことができるのであって、これらの事実によれば、被控訴人は控訴人を第二、第四土曜日、祝祭日、年末年始の一週間(ただし、日曜日を除くその余の日)に労働させた場合には、本件雇用契約に基づき、被控訴人の就業規則一五条で定めた基本給の二割五分で計算した休日割増賃金を支払う義務を負うものというべきである。
〔休日-休日の振替え〕
 使用者が業務上の都合によって就業規則において定められた休日に労働者に労働させる必要が生じた場合に、就業規則において休日を労働日としその代わりにそれ以前又はそれ以降の特定の労働日を休日とするというように休日を繰り上げ又は繰り下げること(以下「休日の振替」という。)を定めているのであれば、その就業規則の定めに従って労働者の休日を振り替えて休日に労働者に労働させることができると解される。そして、労働者の休日を振り替えて本来の休日に労働者に労働をさせた場合には、休日の振替によって本来の休日は当該労働者の休日ではなくなっているのであるから、使用者は休日に労働者に労働をさせたことにはならず、したがって、使用者は当該労働者に対し被控訴人の就業規則一五条で定める二割五分の割増率又は労働基準法三七条及び本件政令で定める三割五分の割増率でそれぞれ計算した休日割増賃金を支払う義務を負うものではない。
〔賃金-賞与・ボーナス・一時金-退職予定者減額制度〕
 本件解雇予告手当請求事件の担当裁判官は、被控訴人が本件解雇に及んだのは控訴人が同僚とけんかして同僚にけがを負わせたことによるのであり、酒を飲んでいたとはいえ、先に手を出したのは控訴人であることからすれば、本件解雇は控訴人の責めに帰すべき事由があり、被控訴人は労働基準法二〇条一項ただし書により解雇予告手当の支払義務を負わないと判断して五〇〇〇円で和解するよう勧告したものと考えられ、そうであるとすると、担当裁判官は本件和解が解雇予告手当を支払うべきことを規定する労働基準法二〇条や被控訴人の就業規則一〇条を十分に念頭に置いた上で五〇〇〇円という解決金による和解をあっせんしたものというべきであって、本件和解が解雇予告手当を支払うべきことを規定する労働基準法二〇条や被控訴人の就業親則一〇条を無視してされた和解であるということはできない。本件和解が解雇予告手当を支払うべきことを規定する労働基準法二〇条や被控訴人の就業規則一〇条を無視してされた和解であり、本件和解は本来適用されるべき法律を適用せずにされたものとして無効であるかどうかについて判断するまでもなく、控訴人の主張はその前提を欠いており、採用できない。
 また、控訴人は本件和解の成立に際しこれによりもはや解雇予告手当の支払請求をすることができなくなることを十分理解しており、その上で解決金五〇〇〇円を受領し、以後一年五箇月経過するまで、本件和解に対する不満を述べることはあってもこれが無効であると正面から主張することはなかったのであるから、本件解雇予告手当事件の担当裁判官が和解勧告をするに当たり前提とした事実認定に誤りがあったか否かによって本件和解の効力が左右されるものではなく、他に本件和解が無効であるとすべき事由はないものというべきである。