全 情 報

ID番号 07518
事件名 賃金仮払仮処分命令申立事件
いわゆる事件名 廣川書店事件
争点
事案概要  自然科学部門の学術書の出版を業とする会社Yにアルバイトを経て正社員として雇用され、Yが出版物の印刷を発注していた長野市所在の印刷会社Dに設置され、書籍の進行促進、本社への連絡、下貼り作業を行う長野分室に勤務していた労働者Xが、Dへの発注量の減少及び技術革新により長野分室での業務がなくなったとして、長野分室の閉鎖とそれに伴い退職してもらいたい旨が告げられたが、本社への配置転換の希望等をし、三回の組合との交渉を経て、就業規則の規定(業務の整備又は作業の合理化その他により冗員を生じた場合等)に基づき書面により解雇の意思表示がなされたことから、本件解雇は整理解雇の要件を充足せず、解雇権の濫用で無効であるとして、賃金の支払を請求したケースで、長野分室閉鎖を決定したYの経営判断が合理性を欠いていたとはいえず、必要性があったとし、また雇用契約当時の双方の合意としては、長野分室が存続する限り、Xの勤務地は長野分室であることで合致していたといえ、またYの経理状況、業務量、Xの経歴を考慮すれば、Xの配置転換は著しく困難であり、手続上も不相当ではないとして、請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法2章
民法627条1項
民法1条3項
体系項目 解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の要件
解雇(民事) / 解雇の自由
解雇(民事) / 解雇権の濫用
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の回避努力義務
解雇(民事) / 整理解雇 / 協議説得義務
裁判年月日 2000年2月29日
裁判所名 東京地
裁判形式 決定
事件番号 平成11年 (ヨ) 21162 
裁判結果 却下
出典 労働判例784号50頁/労経速報1747号11頁
審級関係
評釈論文 山川隆一・ジュリスト1195号126~128頁2001年3月1日
判決理由 〔解雇-解雇の自由〕
〔解雇-整理解雇-整理解雇の要件〕
 使用者が労働者を解雇することは元来自由であるところ、使用者の解雇権の行使も、それが客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合には権利の濫用として無効となるものと解するのが相当であり、就業規則によって解雇事由が限定されている場合、右の点を踏まえて当該解雇が就業規則上の解雇事由に該当するかどうかを検討することになる。ところで、本件解雇については、債務者は就業規則二七条を根拠としており、前記5によれば、本件に関連するのは、同条(5)、(6)であると解せられ、本件解雇がこれに該当するかどうかについて検討しなければならず、より具体的には、長野分室閉鎖の必要性、配置転換の可能性、解雇手続の相当性等の諸事情について検討する必要がある。
〔解雇-整理解雇-整理解雇の回避努力義務〕
 債務者は、債権者が現地で雇用した従業員であることを根拠として、本社への配置転換はありえないと主張する。〔中略〕
 少なくとも債権者と債務者との雇用契約締結当時(昭和五三年九月、平成五年一月一日の両方を含む。)の双方の意思としては、長野分室が存続する限り、債権者の勤務地は長野分室であることで合致していたものと推認することができる。とはいえ、長野分室の閉鎖がやむを得ないからといって、当然に本件解雇が有効であるということはできない。解雇によって生計維持の道を断たれるという労働者の被る重大な結果を考慮すれば、債権者が本社への配置転換を希望していた本件においては、配置転換の可能性が肯定できれば、なお、債権者は就業規則二七条(5)にいう「冗員」には該当しないというべきであるし、同条(6)にいう「やむを得ない業務上の都合」があるとはいえないというべきだからである。〔中略〕
〔解雇-整理解雇-整理解雇の回避努力義務〕
 債務者の経営状況、業務量、債権者の経歴を考慮すれば、債権者の配置転換は著しく困難であったといわざるを得ない。
〔解雇-整理解雇-協議説得義務〕
 債務者は、当初から一貫して債権者の退職を主張して、A労組との団体交渉は決裂してしまったとはいえ、本件解雇に至るまで、債権者に対し、退職金、解雇予告手当、特別退職金等の提案を行い、A労組と三回の団体交渉も行い、その中で、やや具体性は欠くものの、長野分室閉鎖の事情、債務者の業績不振について一応の説明を行っており、本件解雇手続が不相当であるとまではいえない。
〔解雇-解雇権の濫用〕
 右によれば、債務者の長野分室の閉鎖には、経営上の必要があり、債務者の経営状況からみて債権者の雇用継続は困難で、債務者における最近の業務量、債権者の経歴からみて配置転換も困難であったというべきであるから、本件解雇は就業規則二七条(5)、(6)に該当し、本件解雇は有効であるというべきである。