全 情 報

ID番号 07528
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 中田建材事件
争点
事案概要  公共職業安定所の求人手続を経て建材会社Y1に雇用された労働者Xが、求人票には基本給三五万円から四五万円等と記載されており、採用面接時には、Y1の社会保険労務士から施工管理責任者として能力があるなら年間五八〇万円を支払ってもよいと述べられ、能力確認のため三か月の試用期間が設けられたが、施工管理責任者としての能力が欠如しているとして、更に工事担当従業員として能力確認のため、試用期間が三か月延長された後、Y1と工事担当従業員としての雇用通知書を取り交わしたが、基本給料は月額二二万五千円となっていたことから、一年間の賃金を五八〇万円とする合意がなされているにもかかわらず、その額が支払われなかったとして、(1)債務不履行責任に基づく損害賠償の支払、(2)仮に合意が認められないとしても、求人票と異なる雇用契約を締結させ、試用期間一四日を三か月とし、更に延長したことなどが詐欺に当たるとして、不法行為責任に基づく損害賠償の支払を請求したケースで、(1)については、X主張のような合意成立は認められないとして請求が棄却され、(2)についても、求人票は雇用契約の申込みの意思表示でなく、それと異なる内容の雇用契約を締結したからといって詐欺は成立しないとし、その余の請求についても棄却された事例。
参照法条 労働基準法15条
労働基準法2章
民法623条
体系項目 労働契約(民事) / 労働条件明示
労働契約(民事) / 成立
裁判年月日 2000年3月22日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成12年 (ワ) 384 
裁判結果 棄却
出典 労経速報1733号27頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-成立〕
 1の事実によれば、原告が、平成九年一一月二一日ころに行われた面接の際に、A及び被告Y2の立会いの下に、被告会社代表者との間で合意したのは、原告が現場の施工管理責任者としての能力があれば、一年間の原告の賃金を金五八〇万円とするということにすぎないのであり、被告会社が原告を実際に働かせてみたところ、原告には現場の施行管理責任者として能力がないことが判明したので、被告会社は原告を現場の施工管理責任者ではなく工事担当の従業員として雇うことにしたというのであり、原告が被告会社との間で取り交わした二通の雇用通知書(書証略)はいずれも原告を工事担当の従業員として雇うという内容にすぎないのであって、以上の事実によれば、原告と被告会社との間で残業代を除いた一年間の原告の賃金を金五八〇万円とするという合意(本件合意)が成立したことを認めることはできない。
〔労働契約-労働条件明示〕
 前記第三の一1の事実によれば、少なくとも本件において被告会社が公共職業安定所に掲示した求人票は雇用契約の申込みの意思表示ではなく、労働者による雇用契約の申込みの誘引にすぎないというべきであるから、被告会社が原告との面接の際に被告会社が公共職業安定所に掲示した求人票とは異なる内容の雇用条件を提示して原告との間で雇用契約を締結したからといって、そのことから直ちに被告会社に詐欺が成立するということはできない。