全 情 報

ID番号 07553
事件名 労働契約関係確認請求事件
いわゆる事件名 南労会(松浦診療所)事件
争点
事案概要  南大阪における労働運動の一環として、労災職業病への対策等に取り組む労働者のための医療機関を目指して設立された医療法人Yの大阪診療所で勤務する健診部専属職員X1、看護科看護婦X2~X5(いずれも組合員)らが、Yでは、営業赤字増大に伴う人件費の削減などを内容とする再建案をめぐりYと労組との間で合意に至らないまま、新勤務体制が実施され、それに対してX2ら看護婦らはY作成の右勤務表に従わず、旧勤務表により勤務を続けるなどし、Yと看護婦等の間で対立が生じていたところ、X1が、組合の反対にもかかわらず新たに就任した婦長Aに対して、診察介助中に殴打して診療を一時中断させたことから、就業規則の規定に基づいて懲戒解雇の意思表示がなされ、またX2~X5については、配転命令(X2和歌山にある訪問看護ステーション、X3健診部、X4及びX5和歌山の病院)に従わず、度重なる警告を無視して、配転前の部署で就労し、Yにおける秩序を甚だしく乱し、業務に支障を与えたとして、就業規則の規定に基づき懲戒解雇されたことから、右懲戒解雇は不当労働行為に該当し、解雇権の濫用で無効であるとして、労働契約上の地位確認及び賃金支払を請求したケースで、X1の婦長に対する殴打行為はその婦長就任に反対し、その就労を妨害するために故意に行われたものであり就業規則の懲戒解雇事由に該当するもので、不当労働行為には当たらないとして、解雇を有効とし、更にXらの配転については、X3及びX4については不当労働行為にも該当せず、有効としたが、X2に関しては人選の合理性を欠き無効、X5については、就業場所が限定されていたことから、配転には同意が必要であり、右同意を欠いているから無効としたものの、度重なる警告を無視して就労闘争を行ったこと自体は懲戒解雇事由に該当し、更に権利濫用の事情もないとして、労働契約上の地位についての請求を棄却し、配転命令が無効とされたX2及びX5については、右命令に従って就労しなかったとしても、懲戒解雇までの賃金支払請求権があるとして、その部分についてのみ未払賃金の請求が認容された事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項9号
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令の根拠
配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の濫用
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 暴力・暴行・暴言
裁判年月日 2000年5月1日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成8年 (ワ) 634 
裁判結果 一部認容、一部棄却(控訴)
出典 労働判例795号71頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-暴力・暴行・暴言〕
 以上によれば、原告X1のAに対する殴打行為は、Aの婦長就任に反対し、その就労を妨害するために故意に行われたもので、その態様は、診察室における診療中に行われたものであり、その結果、婦長Aの就業を困難にしたもので、しかも、反省するところがないのであって、「職員として品位、診療所の名誉、信用を失墜するような言動を行ったとき」(就業規則17条2号・18条1号、19条1号)、「故意による行為で業務に重大な支障を来した」場合(19条7号)に該当するといわなければならない。原告X1が組合活動を活発に行い、右暴行行為も組合のA排斥の方針に沿う活動の中で行われたものといいうるが、そうであっても暴力行為を組合の正当な活動ということはできないし、原告X1の組合活動故にことさら重い懲戒処分をしたものとはいえないから、これを不当労働行為ということはできず、原告X1懲戒解雇には、これを無効とする事由はない。
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令の根拠〕
 (一) 原告X2はその雇用契約には就業場所をB診療所に限定する合意があった旨主張する。右雇用契約がされた時期には、被告の設置する医療機関はB診療所しか存在しなかったもので、その点からは、その当時は、B診療所以外での就労が予定されていたわけではないが、他方、将来、他に診療所を設置した場合でも、B診療所看護科以外では就労させないとの約束がされたと認める証拠はない。そうであれば、雇用契約としては、就労場所を限定した契約とはいうことができない。
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の濫用〕
 弁論の全趣旨によれば、訪問看護ステーション・Cにおける訪問看護は、訪問のために自動車の運転が不可欠であるのに、原告X2は自動車運転免許を取得していないこと、原告X2は大阪市内に居住しており、和歌山県橋本市にある訪問看護ステーションに通勤するには、1時間30分程度を要し、24時間対応の必要な訪問看護の要員として不適切であることが認められ、人選について、他の人員と比較した十分な検討がされたかどうか疑問であるうえ、将来のB診療所における訪問看護に備える必要があるとしても、その要員をB診療所から派遣して要請しなければならない理由は必ずしもないことや、B診療所の看護婦に1名の余剰があるとしても、それは同年3月に1名を採用したことによることからすると、訪問看護の要員を原告Bとしたことは、人選の合理性を欠くものといわなければならない。
 (四) 以上によれば、被告の原告X2に対する配転命令は効力を有しない。〔中略〕
 原告看護婦らの就労闘争、業務命令違反、婦長Aの就労妨害、業務妨害によって、診療所における診療行為に影響が出ていたものであるから、同月29日に看護婦全員が執務しなかったことが予め企図したものでないとしても、原告ら看護婦の就労闘争、業務拒否が影響していることは明らかであり、診療所の秩序を維持し、診療所における円滑な診療の実地を確保するためには、原告ら看護婦について配置換えを行う必要があったといわなければならない。そして、原告X3については、診療所の健診部へ移るだけで、特段の不利益は考えられないし、原告X4についても、その配転を違法とするほどの事情は認められない。
 原告らは、右各配転命令が、原告看護婦らの組合活動を嫌悪し、診療所看護科から原告看護婦らを排除するためにのみ強行されたものであると主張し、原告看護婦らが就労闘争や婦長Aに対する就労妨害を組合活動であるとの意識で行っていることは認められるものの、原告看護婦らに就労請求権はないから、仮に、平成3年勤務体制や平成7年勤務体制が無効であるとしても、原告看護婦らに具体的に発せられた業務命令がすべて効力を持たないものではないし、そこに業務命令違反があることは明らかであり、また、婦長Aに対する就労妨害は明らかに行き過ぎであって、これらは正当な組合活動とはいえないものである。そして、(証拠・人証略)によれば、これらについて懲戒処分によって対処するだけでは、診療所の秩序を維持できない状態にあったことが認められるのであって、右各配転を不当労働行為ということはできない。
 以上によれば、原告X3及びX4に対する本件各配転命令は有効ということができる。〔中略〕
 被告と原告X5との雇用契約が就業場所をB診療所に限定したものであることからすれば、原告X5をC病院に配転するには同原告の同意を必要とするというべきであり、その同意がない平成7年8月15日付配転命令は効力を生じない。〔中略〕
 原告看護婦らに対する懲戒解雇事由の内、配転命令違反を理由とする部分については、前述のとおり、原告X2及び同X5については、同看護婦らに対する配転命令が効力を有しないから、これに従わなかったこと自体は、懲戒解雇事由とすることはできない。原告X3及びX4については、配転命令違反の事実はこれを認めることができる。〔中略〕
 原告X2及び同X5については、同原告らに対する配転命令が効力を有しないのであるから、これに従わなかったこと自体は、何ら咎められるものではないが、だからといって配転前の部所において就労できる権利があるわけではない。また、原告X2及び同X4については、配転命令を無効とする理由はないわけであるから、これを拒否する正当な理由はない。しかるに、原告看護婦らは、右認定のとおり、度重なる警告を無視して、同月21日から同月28日まで就労したのであり、被告における秩序を甚だしく乱し、業務に重大な支障を与えたものである。したがって、原告看護婦らは、就業規則17条3号、6号、18条1号、19条7号、20条2号に該当するということができる。
 原告らは、右就労闘争は、組合活動である旨いうのであるが、配転が無効である場合でも、配転前の部所において就労する権利があるわけではないから、原告看護婦らの行為を正当な組合活動ということはできず、これに懲戒処分を行ったとしても、不当労働行為となるものではない。また、前記認定の事実に鑑みれば、本件看護婦懲戒解雇を権利濫用とする事情もない。